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『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編3』先行試し読み

MF文庫J
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2025/11/16

 船の中からでは分からなかったが、降りてすぐに気づいたのは無人島の整備が去年と比較してかなり進んでいることだった。移動時間1つにしても去年の記憶はあてにならないかもな。
 近くに立つ学校関係者であろう人物の1人が、浜辺の方を指差した。
「向こうに担任の先生が立っているのですぐに向かいクラス別に並んでください」
 後ろからも続々と3年生が集まり始めているため、足早に歩を進める。
 近づいた浜辺では大量の段ボールが山積みにされていた。
「結構覚えてるもんだな。懐かしさ全開だ」
 全学年で行った無人島サバイバルでは全員が頭をフル回転させ地図と向き合い、東西南北問わず移動を繰り返した。
 だからこそ、短いながらもこの光景、景色は記憶にしっかりと刻まれているのだろう。
 3年Cクラス担任の真嶋先生が待つ場所へ移動し、3年生全員が揃うのを待つ。
 やはり1年生や2年生が降りてくる様子はない。
 先に3年だけで試験を始めるのか、あるいは他学年は全く関係がないのか。
 今はまだ不明だが、すぐに説明と共に全容が明らかになるはずだ。
 数分ほどで3年生が全て揃ったが、試験の説明前に3年Dクラスの中西が発熱によって特別試験を欠席することが決まった旨が浜辺の中央に移動した真嶋先生より通達される。
「欠席者が出たことは残念だが体調不良はやむを得ない。この場合、当該クラスは人員を1名欠いた状態で始めることになる。ではこれより無人島サバイバルゲーム特別試験を開始するにあたり、そのルールを説明させてもらう」
 中西の欠席については軽くしか触れられず、特に重たいペナルティなどは無いようだ。人数が欠けることは当然デメリットではあるだろうが、元々40人を維持している一之瀬のクラスであることと、成績が突出している生徒でもないためダメージは最小限だろう。
 前列からオレのもとに、特別試験の詳細が書かれたルールブックが手渡される。
 これを見ながら話を聞けということのようだ。
 表紙には無人島の写真に加えグリッド線が引かれている。
 島は当然去年と全く同じなのだが、ある違いにすぐ気が付く。前回はグリッド線の上に記されたアルファベットはAからJ、数字は1から10だったが、今回はエリアがより細分化されているようでAからO、数字は1から15となっていた。
 地図はまた後でゆっくり見るとして、早速中を開いて概要を確認してみる。

『無人島サバイバルゲーム特別試験』

 期間
 最大3泊4日。完全に決着がつけばその時点で試験終了とする
 1日の試験時間は午前9時から午後6時まで(最終日のみ午後4時まで)

 概要
 ペイント銃を用いて他クラスのVIP、護衛を倒し競い合う

 事前準備
 本試験を行うにあたり、各クラスは初めに全生徒を5つの役職のどれかに任命する
 役職の大半には人数制限があり、また役職に応じて異なる権限が与えられる

 司令官×1名(必須)
 専用のタブレットを用いて全生徒の位置をGPSで把握できる
 ・Aクラスは赤、Bクラスは青、Cクラスは黄、Dクラスは緑で表示される
 ・午前9時から午後6時の試験時間の間のみ5分毎にGPSの位置が更新される
 後述の戦術を使うことが出来る
 VIPと無線で会話が出来る
 アウトになった生徒の情報(名前、役職)を知ることが出来る
 司令官を倒すことは出来ず、また攻撃手段も持たない
 本部エリア(F14)から出ることが出来ない
 体調不良や怪我で続行不可の場合、学校側が認めた場合に限り代役を立てられる

 VIP×3名(必須)
 司令官と無線を用いて直接会話が出来る
 攻撃手段を持たない
 倒されずに特別試験を終了すると残存1名につき100点が与えられる
 VIPが3名倒された時点で全滅扱いとなりクラスの順位が決定する

 護衛×人数制限なし
 ペイント銃を用いて相手を攻撃し、アウトに出来る唯一の手段を持っている
 ・アウト後の生徒は失格となり島から引き揚げ、船内にて試験終了まで待機
 護衛はアウトの際、メイン武器を1つ以上本部に持ち帰ること
 ・試験中に紛失した場合などは即時学校に報告すること
 倒されずに特別試験を終了すると残存1名につき1点が与えられる

 分析官×最大2名まで
 イベントの位置と物資名の把握、パスワードの取得が可能なタブレットを使用できる
 空席があれば残存する護衛から新たに分析官を任命できるが護衛には戻れない
 (任命にはVIPから司令官へと連絡し、承認されて初めて分析官の権限を得る)
 攻撃手段を持たない

 偵察官×最大1名まで
 偵察官のいるエリアとその周辺の計9マスに他クラスの生徒が存在すると検知できる
 同じエリア内に他クラスの生徒が入った場合には方角も検知できる
 ・ただし戦術でGPSが停止している場合は周辺8マス、同一エリア共に検知不可
 空席があれば残存する護衛から新たに偵察官を任命できるが護衛には戻れない
(任命にはVIPから司令官へと連絡し、承認されて初めて偵察官の権限を得る)
 攻撃手段を持たない

 勝敗判定
 VIPの生存数×100点と護衛の生存数×1点による合計点で競い合う
 ※引き分けが発生した場合、各クラスからランダムに1名選出し短期サドンデスを行う

 報酬及びペナルティ
 1位 クラスポイント+150
 2位 クラスポイント+100
 3位 クラスポイント−100
 4位 クラスポイント−150

 全滅ペナルティ
 試験終了までに全滅した最初のクラスは退学者を1人選定しなければならない

 ルールブックの閲覧と共に真嶋先生から特別試験のルールが説明されていく。
 簡潔にまとめるならば、この広大な無人島を使いペイント銃を用いたサバイバルゲームで相手を倒すことが今回の特別試験ということ。
 オレが最初に抱いた第一印象は『想像以上に緩い』というもの。
 どこかのクラスから退学者が出ることは避けられないだろうが、それだけ。どこまで行っても試験のルール上、退学するのはたった1人と見ることが出来る。
 もちろん、大半の生徒にとっては喜ばしい話なのだが。
 試験自体はルールブックに書かれた大量の説明文ほど複雑な印象はなく、課題は別にある。それはペイント銃はおろか、電動ガンやガスガンなど、大半の生徒はそういった玩具に指一本触れたことがないであろうことだ。困惑の色が学年全体に色濃く広がっているのが見て取れる。
「誰かサバゲーやったことある奴いるか? もしくは知ってるか?」
 小声で近くに立つ男子数人に橋本が声をかけるが、誰一人として首を縦には振らない。
 残念ながらオレの所属するCクラスでは、この特別試験を歓迎している者は極めて少なそうである。
 一方で、Aクラスの方を見ると鬼塚や伊集院などが楽しそうに談笑し盛り上がっている姿を確認できた。その様子を鑑みるに、サバゲーの知識があるのか、あるいは実際に体験、経験したことのある生徒たちなのかも知れない。軽く見えた表情だけでも、この特別試験に自信を覗かせていることが窺える。
「通常のサバイバルゲーム要素に加え、役職の立ち回りも非常に重要となる。司令官が使える戦術は使用制限はあるものの、戦局を変える効果が大きいものもあり、また随時行われる『イベント』も状況を変える影響がある。どのような内容であるかルールブックに目を通し自分たちで確認をしておくように」
 真嶋先生に言われた通り更にページを読み進めてみると、司令官の戦術とイベントに関する詳細が記載されていた。

戦術(司令官が任意のタイミングで使用可能)
 全体GPS停止……指定クラスの全生徒のGPSを30分間機能停止させる
 使用制限回数1回

 個人GPS停止……指定した人物のGPSを30分間機能停止させる
 使用制限回数3回

 人物特定……指定したGPSの生徒の名前、役職を知ることが出来る
 使用制限回数5回

 ※全体GPS停止、個人GPS停止の使用中でも、戦術を行使したクラスの司令官が持つタブレット上では5分毎に正しい位置確認が出来る

 司令官のみに与えられた権限である戦術は、真嶋先生が言うように有効に使えば本当に戦局を変えられそうではあるが、タイミングを間違えば無意味に終わってしまうこともありそうなものまで、判断力が問われるもののようだ。
 特に全体のGPS停止は不意打ちをしたり、あるいは追手から必ず逃げ切りたい時に使うなど、幅広い使い道がある切り札と言える存在になりそうだ。
 思考を巡らせていると、慌ただしく職員たちが箱を持って集まり始め、その中から去年も見た腕時計が取り出される。生徒1人1人に配付され、腕に取り付けると初期設定を全員で行う。
「この腕時計は取り外し厳禁だ。特別試験の期間中は24時間の取りつけ義務があり、途中で外した者は失格になるリスクを背負う。万が一、不具合やエラーが生じた場合は直ちに司令官に申し出るか本部に向かうこと。去年と同様に腕時計からは血圧、心拍数などが分かる他、現在滞在中のエリアや方位を確認することも出来る。更にペイント弾が衣類に命中するとセンサーが作動し腕時計が検知、アウト判定が出る仕組みも組み込まれている。つまり腕時計にアウト判定が出た時点で失格ということだ。それから偵察官に任命された生徒は専用の他クラスGPS探知機能が解放される。その他腕時計には細かな機能も搭載されているので、それらについてはルールブックを参照してもらいたい」
 まだページが残っているルールブック。ここから先には腕時計の機能説明や使い方、その他順守すべきルールの詳細が列挙されている。これは後で目を通せばいいだろう。既に試験内容は理解できた。
「VIP3人が最初にやられたクラスから退学者か。ま、それくらいはやってくるよな」
 左腕につけた腕時計をぐるっと手首を返して見つつ橋本が呟く。
「おまえの予想通りって奴か」
「まあ大体は───な」
 これらの役職の関係性を見るに、島中を移動して戦う生徒たちは自分たちの正確な位置をデバイス等の俯瞰、視覚で知ることが出来ない。また他クラスの現在地を知る方法も同様で、本部に残る司令官からVIPを介し無線での情報を受け取ることでしか手段がないというのはかなりハード。交信を怠る凡ミスのみならず、言葉のやり取りに齟齬が生まれるだけでも危険が生じる。更にVIPと逸れてしまった生徒は、腕時計だけを頼りに仲間を探さねばならず、不意打ちなども受けやすくなるだろう。
「ルールブックにもざっくりと目は通し終わっただろう。この特別試験の期間は最大3泊4日だ。各クラスに配布される初期物資、またはイベントの物資箱から入手したペイント弾を用いて他クラスを攻撃し、競い合うことでクラスの勝敗を決定するものになる」
 その言葉を聞きつつ、最後にイベントについての詳細を見てみる。

 イベント
 午前11時(初回のみ午前10時)、午後1時、午後3時、午後5時に自動発動する
 ①特定のエリアに1時間限定の物資箱が出現し、中身を獲得できる
 ・食料、日用品、ペイント弾の3種で、詳細や内容量は取得するまで分からない
 ・物資箱は共通のパスワードを入力することで取得可能になる
 ・1時間毎に共通パスワードは変更される(箱の持ち運びは禁止)
 ②2日目からは使用禁止となるエリアが順次追加されていくイベントが発生する
 ・使用禁止告知がされたエリアは1時間後に使用不可能になる
 ・使用禁止となったエリアに5分以上滞在した者は強制アウトになり失格となる

 頭に叩き込んでおかなければならない軸となるルールはこれくらいだろうか。
 特に使用禁止になるエリアが増えるというのは重要な要素だ。日に4回あるイベントの中で2日目から随時発生し、告知後は1時間でそのエリアに立ち入ることが出来なくなるというもの。禁止される場所次第では他クラスとの接触を避けられなかったり、待ち伏せを受けたりするといったことにもなりかねない。
 また忘れてはならないこととして午後6時から朝9時までは試験時間外ということ。GPSの反応も更新されないわけだが、この間も移動は基本自由。ただし前日午後6時の時点で滞在していたエリアから必ず再出発しなければならないようで、夜間の間に長距離を移動して翌朝9時に敵の不意を突く、といった行動は取れないようになっている。
 広大な無人島であることを考慮し、頭の中で最終局面となりそうな仮想地図を複数作り上げてみる。
 今回、学校からは退学リスクがあるペナルティが明示された。
 全滅したクラスから選出しなければならない退学者。
 表面上は避けられない犠牲者。
 しかし、被害を最小限に抑える簡単な方法が多くのクラスには予め用意されているとも言えるだろう。
 最初に退学のリスクを告知された段階で誰もが想像したのは、『プロテクトポイントを持っている生徒』に犠牲となってもらうか、あるいは強権を持つリーダーが無理やり強行指名するかということ。
 そう、唯一の救いは選定とあるため、これは各クラスに判断が委ねられるということ。
 プロテクトポイントを持っている生徒を選べば、それを消費することで退学を回避することが出来るが、自分のプロテクトポイントを消費することに対し、全員が全員それを受け入れるかは定かじゃない。
 最下位と全滅ペナルティはある意味で表裏一体。各クラス絶対に避けたい展開だ。
 しかし退学リスクを恐れて消極的な戦いが続けば、引き分けのリスクが浮上する。
 引き分けた場合の勝敗決定が完全な運要素と考えると、各クラスとも逃げの一手だけを取り続けることは許されず、嫌でもどこかで交戦を強いられそうだ。
 真嶋先生たちの表情からも強い緊張は見られず、重苦しい印象は受けない。
 こちらの想定よりも遥かに緩く、分かりやすい逃げ道。
 そういう意味では、まだまだ手心が加えられているとも言えそうだな。
「ではこれから護衛が扱える武器について説明を行う」
 そう言うと、真嶋先生は近くの段ボールから1丁のアサルトライフルを取り出した。形状はM16に酷似している。それから更にショットガンをもう片方の手に持ち、近くに立っていた坂上先生がサブマシンガンとハンドガンのペイント銃を取り出し見せる。
「何だあれ、あんなペイント銃見たことないぞ」
 そんな声がAクラスの方から驚きと共に聞こえてくる。
「これはまだ市販されていない、試作段階にあるペイント銃になるようだ。詳細は───岸波さん、お願いします」
 真嶋先生が視線をやると近くに待機していた初めて見る大人が1人軽く会釈した。
「皆様初めまして。私は株式会社関東シューターというトイガン、つまりはエアガン・モデルガンなどを製造、販売している会社の営業担当である岸波と申します。今回、高度育成高等学校の職員及び生徒様と協力し、弊社が近未来に向けて開発中である新しい競技用ペイント銃のテストを兼ねて相互に協力し合うこととなりました。より本物に近い銃の形状を保ちながら、ペイント弾を発射することが出来、また予め着替えて頂きました体操服には感温・色反応、衝撃センサなどを組み込んだ弊社独自の最新技術が詰め込まれており、ペイント弾が腹部や背部などに強く命中し破裂すると腕時計と連動しアウト判定になるように設計されております。命中しても即座に失格とはならない場合もありますが、胸部や背部などは、そのほとんどが1発アウトだと考えてください。また体操服の端に僅かに付着した場合などは機能しないこともあり、その際はセーフと致しますが、まだなにぶん試作段階のため大きく命中しながらアウト判定にならないこともごく稀に起こります。その際には、セーフと思い込まずアウトである前提で攻撃を中止し、必ず自己申告するようにしてください」
 営業マンらしく滑らかな口調で商品の説明を行う。
 補足するように真嶋先生が頷き、生徒たちを見た。
「誤作動によってセーフがアウトと判定された場合は救済扱い、アウトがセーフと判定された場合は自己申告を速やかに行うことでペナルティの対象にはならない措置を取る。逆に言えばアウトと判断しながら続行した場合には重大な違反と判断し、クラス全体の敗北となる場合もあるため、注意するように。誤作動が起きたと判断した場合は、腕時計にリタイアや体調不良を伝える通話機能があるのでそちらで詳細を知らせれば良い」
 学校がチェックを行い、セーフと判断されたら復帰が許されるということだろう。
 その他にも、他クラスの銃を何らかの方法で奪ったり、使用するあるいは使用不能にする、また相手の身体を殴る蹴るなどで傷つけたり、拘束するなどして発射できない状態にすることは厳禁との説明が入る。それらの事実が確認された場合は直ちに失格とし、即座にクラスポイントをマイナス100、悪質な場合は退学の審議対象となるようだ。
「重要事項なので一部重複するが説明を続ける。ペイント弾が命中すると、連動する腕時計がアウト判定を下し2秒間、ピー、ピーと鳴る仕組みになっている。アウトになった生徒が護衛である場合は、この音が鳴り止む前に速やかに攻撃を中止するように。アウト判定が出たにもかかわらず攻撃を続けた場合にはペナルティを受けてもらうことになる。また、これは2秒以内ならアウトになった後も撃ち続けて良いという意味ではない。明確にアウトを自覚しながら攻撃、抵抗、妨害を続けた場合には故意と見なしペナルティを与える。試験の時間外での攻撃も同罪だ。さらに特別試験のルール、その根幹を揺るがす違法行為は断じて認めないということを全員が自覚しておくように」
 木などに命中し飛び散った塗料が僅かに服に付着してもセンサーが鳴らない場合などはアウト判定ではないと考えてよさそうだが、どちらにせよ微妙な時には運営に確認を取ることがベストだろう。
「最初にお渡しするペイント銃は、外見だけでなくそれぞれ性能が異なります。こちらのM16を模したアサルトライフルは射程が一番長く、またマガジンの装弾数も50発。ショットガンは射程が半分ほどで装弾数も30発と少ないですが一度に5発同時に撃ちだすことが可能です。サブマシンガンは射程はアサルトライフルと変わりませんが装弾数が30発と少ない代わりに軽量で片手でも扱いやすいです。これらメイン武器は、同時に2つを使用することは禁止とします。ただしハンドガンに関しては各クラス2丁しか与えられませんが、唯一同時使用が許可されます。ただし使用者は必ず足の見える位置にホルスターを装着すること。また全ての武器はバッテリー内臓で、1000発ほど撃てる仕様ですが、万が一バッテリーが切れた場合は物資箱から補充する以外に回復させる手立てはありません。そしてある程度防水性能は備えられていますが、大雨に長時間晒されたり、海や川に沈めるなどすると損傷し、使用不可能になる可能性があるので注意するようにしてください」
 一息ついた営業マンは、1つ言い忘れていたのか少し慌てて補足する。
「ペイント弾は全て自然に還る仕様となっております。どこにどれだけ撃ち込んで頂いても環境破壊には一切繋がりませんので、思う存分楽しんで頂ければと思います」
 確かにペイント弾の塗料などが自然破壊に繋がるなら問題だが、その点に何ら悪影響がないのなら発射を躊躇う必要はなさそうだ。
「最初に各クラスに与えられる銃の数は護衛の人数分までとなっているが、それぞれの武器の所持数には上限がある。全員がアサルトライフルを選んだりサブマシンガンを選んだりすることは出来ないので気を付けるように」
 これは協力する企業側の、1種類ではなく複数のペイント銃を使ってもらいたいという意図が込められていると見てよさそうだ。
「また支給するペイント弾の数はけして多くはない。メイン武器には弾が満タンに込められているが、それにプラスして予備の満タンのマガジンが各自1つ与えられるのみ。そのため無駄に消費すれば瞬く間に枯渇することも考えられる。その際には、イベントの物資箱からペイント弾を追加で入手してもらうことになる」
 というよりも、それを前提とした作りになっているんだろう。
「1日の特別試験の試験時間は午前9時から午後6時まで。開始と終了の合図は船の汽笛を鳴らすことで通達する。スタートは9時から、最初のイベントは11時ではなく10時から行う。以降はルールに記されている通りの時間に執行され、また試験時間以外での交戦は一切禁止だ。試験時間外に交戦を行って他の生徒をアウトにした場合は、ルール違反を犯した者を代わりにアウトとする。また、万が一それら違反行為を誤魔化すような不正行為が発覚した場合は、違反生徒の所属するクラスからけして少なくないクラスポイントを差し引くことにもなるだろう。悪質なら即時退学もある」
 渡されたルールブックには様々な細かな順守・厳守すべきルール、決まり事、ヘルプ事項が多数書かれている。仮に試験外の時間にペイント弾で誰かを倒したとしてもアウト判定にはならず、また誤射などをしてしまった場合には、司令官にその旨を伝えることで学校側が確認と対応をし、着替えが用意される救済措置があること。似たような形で、試験中ペイント弾が被弾していないにもかかわらず、装置の誤作動でアウト判定を貰った場合も、申し出ることで復帰が許されるケースがあること。もちろん、これらには絶対に被弾していないという証明も必要であるため、アウト判定が誤作動した後ペイント弾が命中した時などは、救済は望めないと思っておいた方がいい。無人島では体調不良者は即時失格。また腕時計を意図的に壊した場合も失格。不具合を検知した場合は前後の記録が音声として残される。
 こういった具合に、試験中に予期せぬトラブルが起こった場合に備え、このルールブックは再確認しておいた方が良い。
 そして読んで分かったこととしては、細々としたトラブルには多少目を瞑るが、特別試験の根幹を揺るがす行為、例えばセンサーの元になっている体操服を脱いで被弾を避ける、当たった後も発砲を続けるなど、ルールを逸脱した不正は絶対に看過しないということだ。退学に加えてクラスポイントが大きく減少するとなれば、その代償は計り知れず、幾ら龍園でもこの試験のルールを破壊することは出来ないと考えていい。それはオレも同様で、あまりにリスクが大きすぎる。
 唯一、多少の無理を通したくなるのはVIPの体調不良だろうが、強行が発覚すれば倍の200点を失うという厳しいペナルティが予告されており、万が一の時には素直にリタイアした方が結果的にダメージは少ない。
 そして去年と同様に各生徒に配付された腕時計。これは24時間の装着が義務であり、常に心拍数や血圧をモニタリングしている。万が一の故障や脱着などが起こった場合はすぐにシグナルが本部に送られる仕組み。
 そして、新たに今回腕時計にはコンパスの機能に加え、体調不良や大きな怪我で続行が難しいと判断した場合に自発的なリタイア申告の可能なボタンが搭載されている。
 メディカルチェックを受ける状態にありながらの強引な続行は、百害あって一利なしといったところだろう。
「ではこの後、各クラスの代表者、誰でもいいので1名にくじを引いてもらう。午前9時スタートの初期位置を決めるためのものだ。選べる初期位置はC12、E12、G12、I12の4か所。互いに歩いて15分ほどの距離のところから始めることになるだろう」
 15分とは随分早い見積もりだ。エリアが縮小してあるにしても、やはり整備の影響か。
 ある程度離れていると言っても、目と鼻の先。スタート位置によっては足場は悪くとも砂浜を全力で駆ければ5分足らずで接触することも出来る。
 ただ、それは現実的ではない。もし急いで戦おうと砂浜に生徒たちが飛び出せば、他クラスもそれに気付き狙い撃ちにしてくる。ハイリスクローリターンだ。
 間に挟まれない西側のC12や、東側に逃げやすいI12が良いだろう。
 そんな大事なスタート位置を決めるくじ決めではあるが、誰が引いても同じではあるので、近くに立っていた真田に頼むことに。快く快諾し、くじを引きに向かってくれた。
 真嶋先生たちの全体に対する説明が終わり、各クラスが距離を取り担任を中心に輪を作るように指示される。そのタイミングで橋本はこちらに近づき声をかけてきた。
「ごちゃごちゃと説明はあったが、要はクラス対抗のサバゲーで勝てってことだろ?」
「そういうことだ」
「ひとまずは他クラスから距離を取って様子見だよな。適当に潰し合ってもらおうぜ」
 もちろんそれが一番ありがたいが、そう都合よくいくとは思えない。
 誰だって漁夫の利を取りたくなるようなルール、仕組みになっているためだ。

  • よう実
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