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『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編3』先行試し読み

MF文庫J
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2025/11/16

〇開幕・サバイバルゲーム特別試験

 6月下旬の早朝。
 全学年を乗せた大型客船は、大海原を越えてある小さな無人島へと向かっていた。
 壮大なスケールに戸惑いを隠せない1年生。
 やや緊張を含みつつも、どこか自信を覗かせる2年生。
 オレたち3年生にとっては奇しくも3年連続となる無人島での戦い。
 それが今目の前にまで迫っていると見て間違いないだろうが、1つだけ想定外だったことがある。
 それは、戦いの舞台が、去年と全く同じ無人島であることだ。
 だが、それも冷静に考えてみれば当然と言えるのかも知れない。
 日本には大小含め1万を軽く超える無人島が存在すると言われているが、人が上陸できる島に絞ればグッと数も減り、試験としての利用が可能な地形で、かつ所有者から許可が取れるような無人島ともなれば数えるほどしかないであろうからだ。
 照りつける日差しは眩しさこそ強いが、けして暑すぎることはなく、むしろ海風を浴びるとどこか肌寒いほどだ。去年、一昨年と比べてひと月ほど前倒している影響は意外と大きいと思われる。
 波を割って緩やかに進んだ大型客船は、やがて無人島の岸辺に抱かれるために速度を落とし始めた。
 その時の時刻は、朝の8時を回ったところだった。
「やっと着くみたいだな」
 船が無人島に着くまでの間は自由時間とされていたため、オレと共に船内のカフェに来ていた橋本が欠伸と合わせて伸びをしつつ、そう呟く。
「あ〜眠。昨日はもう少し早く寝るべきだったぜ」
 夜遅くまで起きていたようで、少し寝不足らしい。
「さてと……今年はどんな面倒な、いや厄介な試験が待ってるんだか」
 立て続けにそう呟き、橋本は真新しい半袖シャツの前襟を指先で摘まみ持ち上げた。
「わざわざ俺たちに新しい体操服を配った理由もあるだろうしな」
 学校からこの船に乗り込んだ際、オレたち3年生全員に新しい上下の体操服と中に着るシャツが配付され、下船までに着替えることが義務付けられた。見た目にはいつもとほぼ同じだったが、いつもの体操服と比較して若干生地に厚みが見られ、何らかの違いがあることだけは確かだろう。
「しかし受験生には堪らないんじゃねえの? この時期に机から離されるのは。今までの3年は文句を言ってこなかったのかよ」
 と、今のところ受験する気の一切ない橋本からそんな言葉が零れ落ちた。
「どうだかな。ただ島崎が船に勉強道具一式を持ち込んでいたのは見かけた」
「船の上でも勉強漬けってわけね」
 ただ酷い船酔いに見舞われて、途中で断念している姿も見かけたが。
「何にせよ、この後で帳尻を合わせるように学習時間も取ってくるんじゃないか?」
「まさか貴重な夏休みを削ったりしないだろうな? そんな帳尻なら勘弁だ」
 どんな措置を考えているのか、あるいはいないのか。
 一応3年生として多少は気になるところだが、橋本のボヤキが聞こえていたかのようにタイミングよく船内アナウンスが入る。
『間もなく無人島に到着します。3年生は事前に伝えていた通り、携帯を含む全ての私物を客室に置き何も持たないようにした上で、指定の体操服に着替えて下船の準備をしておいてください』
 改めてのそんな通達。オレも橋本も着替えを済ませ更に手ぶらの状態であるため、特に移動することなく船が停止するのを待つだけでいい。
「ここでも1年や2年にお呼びがかかってないってことは、ひょっとしてすぐには無人島に降りてこないってことなのか?」
 1年生から3年生までが船に乗り込んだ時点で全学年入り乱れた無人島試験になるものとばかり思っていた橋本が不思議そうに周囲を見渡す。
「そうかも知れないな。ただ考えたところで今は何も分からない」
「だな……」
 程なく船が着岸すると、完全に止まったとのアナウンスが入ったので橋本と共に席を立ち、デッキから外へと向かった。

  • よう実
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