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『ようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編3』先行試し読み

MF文庫J
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2025/11/16

〇椎名ひよりの独白

 潮風を肌に感じながら、私はあの日のことを思い出す。
 代わり映えしないはずの校舎前で、綾小路くんと過ごした夕焼け空。
 私にとって、あれは素敵な、かけがえのない確かな想い出。
 けれど、あと一歩を踏み出せなかった。
 好きです───そんな言葉は、結局言葉には出来なかった。
 でもそれは正しいことだったんだと思います。
 私と綾小路くんは、クラスの違う……敵同士だったのですから。

 もし『この』特別試験でも私たちのクラスが敗れ、差が広がることがあれば……。

 それはAクラスに到達できるかどうかの、最後の分岐点となる。

 分かっていたこと、です。

 そして私自身、大きな決断───覚悟の上で選んだ道。

 綾小路くんを倒すということ。
 綾小路くんに負けをつけさせるということ。
 そのために……私が何をしなければならないのか。
 何が出来るのか。

 私はこの特別試験に活路と死路を同時に見ました。

 けれど───。

 自然と込み上げてくる切ない感情。

 広い大海原を眺めながら、私はひとりぼっちで、静かに見つめ続ける───。

 私はクラスの役に立てず、この最後の勝負にも負けてしまうようです。

 ごめんなさい龍園くん。

 ごめんなさい、綾小路くん。

 こんな情けない私を、どうか赦してください。

 そしてどうかお元気で。

 どうか……。

 遠く離れても、私の気持ちが変わることはありません。

 誰もいない、この世界を、ただ1人───。

 終わりを告げる汽笛が鳴るその時まで、私は1人見つめ続ける───。

  • よう実
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