ぶんころり先生の商業デビュー10周年を祝して、たくさんの方が駆けつけてくれました! これまでの作品でイラストを担当していらっしゃるイラストレーターさんたち、ぶんころり先生と関係のある作家先生・憧れの作家先生、担当編集者などなど……今の「ぶんころり」があるのはこの方々のおかげと言っても過言ではないメンバーが勢揃い。
対談3本目は、ぶんころり先生の商業デビュー作『田中』シリーズのイラストを担当するMだSたろう先生です! 記念すべき第一作目のパートナーであるMだ先生とともに、デビューからの10年を振り返っていただきました。
誰の心の中にも田中はいる
――最初に一緒に仕事をすると聞いた時の、お互いの印象というのはどういったものでしたか?
ぶんころり:書籍化の話が進んでいったときに担当編集のIさんから、どのイラストレーターの方に頼むか何人か提示されて、その時にMだSたろう先生のイラストを初めて拝見しました。とにかくクオリティが高く、他の方々とは一線を画した見栄えや構図に圧倒されて「ぜひこの方に受けていただけたら嬉しい」と依頼することになりました。褐色のキャラを多く描かれていて、本当に褐色好きな方なんだなというのが第一印象でした。
MだSたろう:そうなんですね。僕は当時はラノベを読んでいなかったんですが、『田中のアトリエ』の原稿をいただいて、いざ読んでみたところ、第1巻からヒロインだと思ってた女の子の寝取られから始まって、とても衝撃を受けたんですよ。この作者はとんでもないものを忍ばせてるなというのが第一印象です。
――Mだ先生は『田中』で初めてライトノベルのイラストを手掛けられたとのことですが、実際に小説の内容をイラストに落とし込む際に、苦労された点や、普段のイラストとの違いはどのあたりに感じられましたか?
MだSたろう:やっぱり主人公の田中の顔がブサメンっていうキャラクターじゃないですか。僕は普段美少女をメインに描いていて、結構シンプルな線でキャラクターを描くので、オッサンの描き込みにはだいぶ苦労しましたね。モブならまだ適当に描いても問題ないんですけど、描き続けていると絵がだんだんと慣れていって顔が整ってしまいがちなんです。なので、ブサメンから離れていって申し訳ないなと思った記憶がありますね。
ぶんころり:いえいえ、滅相もないです。MだSたろう先生が描く表情の豊かさやリアクションの豊富さから、キャラとしての広がりを拝見したことで、田中はもうちょっとひどい目に遭わせていいんだっていう感覚が湧いてきて、とても助けられました。
――Mだ先生が『田中』で手掛けた中で、お気に入りのキャラを教えてください。
MだSたろう:僕、実は『田中』のキャラクターの中で一番好きなのは田中さんなんですよ。内面的な部分で、自分と重なるところが多くて、読んでいる間ずっと共感しっぱなしだったんです。
ぶんころり:恐縮です。
MだSたろう:ラノベの主人公って若い男性が多いじゃないですか。最初にお仕事の話をいただいたときに、自分がそういう人物と共感できるのかなって思っていたんですが、いざ読んでみると、自信のなさの裏返しで肝心な部分で失敗したり、非モテゆえの勘ぐりでチャンスを逃したりして、とても他人事とは思えなかったんですよね。
――ヒロインたちはどうでしょうか?
MだSたろう:女の子の中だと、後半に登場する精霊王がかなり好きですね。見た目が地雷系なのがやっぱいいですね。地雷系って刹那的に自由に生きている感じがするんですが、精霊王はそれでいて問題があれば自分の立場とか投げ打ってでも行動する献身的な部分があって、ギャップ萌えみたいな感じがしてとても好きでした。
ぶんころり:キャラクターの内面まで言及していただいて、とても嬉しいです。
MだSたろう:ぶんころり先生の小説って、キャラクターの内面をすごく丁寧に描いてくれるから、読んでいて本当に面白い部分が多いですよね。
ぶんころり:ありがとうございます。内面の描写にはかなり文章を割いていたので、書いていて不安になることもあったのですが、そのようにおっしゃっていただけて、今すごく安心いたしました。
MだSたろう:「オタク」というとちょっと大きい話になりますけど、やっぱり“田中”的な要素って、みんな結構持ってると思うんですよ。だからこそ、そういう部分に共感して見てくれてる人は多いんじゃないかなって思いますね。
ぶんころりが語るMだSたろうの魅力!
――Mだ先生が『田中』に限らず、普段イラストを描かれる中で、とりわけ気を使っている部分やこだわっているポイントを教えてください。
MだSたろう:イラストはとにかく“捨てる”ことを意識しています。イラストって絵を描く本人にとってのこだわりで構築されてると思うんですよ。でもこだわりがありすぎて顔が違うとか、骨格がおかしいとかが気になり始めると、全然終わらずに延々と修正し続けちゃうんです。だからそういう細かい部分を無視して、一枚の絵として完成させ、次に活かすことを意識しています。技術的な部分は数をこなせばいずれ解決する問題だと思うので。それにそうして先送りにした問題がクセや個性といった尖った部分になって、一部の人に刺さればいいんじゃないかなあとは思ってます。逆こだわりみたいな。
ぶんころり:そのスタイルで突き進んでいながら、圧倒的大多数から支持を得ているのは、すごくカッコいいですね。
MだSたろう:今はすごく良いことみたいに言いましたけど、逃げの部分もあるんです。自分が下手であることへの言い訳みたいな部分もあるので、結果的に上手くいってるからよかったんですけど。
ぶんころり:そのスタイルの話は僕の中でもしっくりときまして、多分イラストに限らず、文章でも同じことが言えるんじゃないかなと。やっぱり数をこなすのは大事ですよね。
MだSたろう:そうですね。毎回100点とか80点以上を目指して行き詰まるよりも、50点のものを延々と出し続けた方が、最終的な点数は上がっていくと思います。
ぶんころり:MだSたろう先生は褐色絵師として、業界でブイブイ言わせておられた経緯があると存じますが、ちなみに今ご自身の中で新しいフェチズムやムーブメントは来ておられますか?
MだSたろう:褐色は昔からしばらく描いていたんですが、褐色って暖色系じゃないですか。だから描いてるとどんどん目が痛くなってきて何時間も描けないんですよね。だから昔より描かなくなってしまったんですけど、逆に今何が自分の中で流行ってるか……そうですね、百合ですね。
ぶんころり:意外なところから参りましたね。
MだSたろう:僕はずっと男性向けのイラストを描いていて、どうやってこの話に男を絡ませるかみたいな、ちょっとよこしまなことばっかり考えてたんですけど、最近になって無理に男を出さなくても、女の子がイチャイチャしてるだけでいいんじゃないかなって思うようになったんですよ。まだ最近興味を持ち始めたので、これだっていう作品はまだ描けていないんですけど。
ぶんころり:なるほど。百合に目覚める人って特定の作品から影響を受けるイメージがあって、自発的に目覚めるっていうのはイラストレーターならではの感性という気がします。
MだSたろう:基本的に同じことを出力し続けてくると、絶対に飽きが来るんですよね。その飽きを解消しようとすると、自然と別のものに寄っていくんだと思います。
ぶんころり:逆にファンの方々から求められて始まったフェチズムってありますか。
MだSたろう:そうですね、実はロリ系って僕正直そこまで興味なかったんですよ。
ぶんころり:そうだったんですか?
MだSたろう:でもみんなにそういうイラストを求められるうちに、だんだんとそっちの方面に寄っていったんですが、僕の描く女性のシルエットは安産型なのであまりロリじゃないんですよ。
ぶんころり:小さいキャラクターなんかも、かなりむっちり体型ですよね。
MだSたろう:外見は少女なのにちょっと成熟した女性の体みたいな感じになっていて、なかなか「癖」が詰まっちゃっているのですが、それが逆に良かったのかなとは思ったりします。
ぶんころり:そこが僕個人としても、非常に魅力に感じるところです。僕は2巻で描いていただいたエディタ先生のカラー口絵が本当に気に入っていて、あのふっくらとした先生の肉体美が、今でも本当に大好きなんです。
MだSたろう:エディタ先生は毎巻欠かさず登場していて、この作品のメインヒロインという印象があったので、毎回エディタ先生を描くときはちょっと気合入れていました。
ぶんころり:ありがとうございます。作中でエディタ先生の太ももについて、ずっと太め太めと繰り返し書いていたんですが、そうするとMだSたろう先生が確実に拾い上げてくださるのが本当に嬉しかったです。
MだSたろう:(笑)。
ぶんころり:やっぱりフィクションなので、ただリアルなだけでなく登場人物の魅力が伝わるデザインの方がキャラクターが立つので、そうしたビジュアルをMだSたろう先生が描き上げてくれたのが読者さんに響いたんじゃないかなと感じてます。
MだSたろう:ありがとうございます。
田中と駆け抜けた10年間を振り返って
ぶんころり:昨年に『田中』の仕事が一段落しましたが、今後はどういった分野での活躍を考えておられるのかお伺いしてもよろしいでしょうか?
MだSたろう:今後の活動っていうのは正直特にないんですよ。元々趣味で絵を描いてる人間なので、新しい仕事を受けるなどせず、細々と趣味として続けていきたいなあって思っています。オリジナルも特に描く予定もないし、みんなが望むものを描いていければいいかなあってくらいですね。ある意味、終わりのない旅というか……賽の河原みたいですね、これ。
ぶんころり:すごいですね、なんか仙人みたいなコメントをいただいて。とことん自分のその感性を高める旅を続けられるんですね。
MだSたろう:ぶんころり先生の前でいうのはちょっとあれですけど、仕事はストレスがかなり大きいので、できるだけ減らしていけたらと思います。できれば、死ぬ頃ぐらいまでずっと描いてたいみたいな気持ちがやっぱり大きいです。
ぶんころり:私の場合、仕事と趣味がほぼほぼ一致していて、今ライトノベルを書いているのも、仕事ではあると同時に趣味でもあるので、MだSたろう先生の仰っていることは一つの理想形だと感じます。ただ今のお話を聞くと、10年もの間拘束をしてしまって本当に申し訳ありませんでした……。
MだSたろう:いえいえいえいえ。僕が『田中』の仕事を受けたのも社会出たての2、3年目ぐらいで、ちょうど軌道に乗り始めた時期だったんですよ。それで『田中』もやりつつ兼業でいろいろ仕事をしたのはとてもいい経験でした。毎回キャラクターデザインや挿絵で様々にアイデアを絞り出して、言うなれば田中と一緒に歩んだ10年間くらいでしたね。『田中』という作品に僕の人生の半分を支えてもらったのかなと思っています。
ぶんころり:自分にとっても『田中』は初めての書籍化の作品だったので、非常に愛着があって、これから何を書いてもこの作品のことは忘れないんじゃないかなと強く感じております。特に、今となってはもう多分書けないような内容も多いので……。
MだSたろう:『田中』にはかなりぶんころり先生の性癖が詰まってますよね。
ぶんころり:(笑)。小説を書いていると、その瞬間に思い浮かんだものを形にしたいって欲求が湧いてきて、他のクリエイターさんだったら我慢しているところを「えい、入れちゃえ」って書いちゃうタイプなんですよね。でも『田中』を通じてブレーキのやり方を学んだ気がしておりまして、その後の作品をスムーズに書けるようになったのは本作のおかげかなあと感じております。
MだSたろう:田中は作中ではいつもひどい目にあっていたんですが、物語が最後に綺麗に落ち着いて、とても安心しました。終わりまでこの作品と付き合うことができて本当によかったです。ありがとうございます、ぶんころり先生。
ぶんころり:こちらこそ10年間本当にありがとうございました。
取材・文●柿崎憲
関連情報
イラストレーター兼漫画家。主に同人を中心に活動している。
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