〇椎名ひよりの独白
潮風を肌に感じながら、私はあの日のことを思い出す。
代わり映えしないはずの校舎前で、綾小路くんと過ごした夕焼け空。
私にとって、あれは素敵な、かけがえのない確かな想い出。
けれど、あと一歩を踏み出せなかった。
好きです───そんな言葉は、結局言葉には出来なかった。
でもそれは正しいことだったんだと思います。
私と綾小路くんは、クラスの違う……敵同士だったのですから。
もし『この』特別試験でも私たちのクラスが敗れ、差が広がることがあれば……。
それはAクラスに到達できるかどうかの、最後の分岐点となる。
分かっていたこと、です。
そして私自身、大きな決断───覚悟の上で選んだ道。
綾小路くんを倒すということ。
綾小路くんに負けをつけさせるということ。
そのために……私が何をしなければならないのか。
何が出来るのか。
私はこの特別試験に活路と死路を同時に見ました。
けれど───。
自然と込み上げてくる切ない感情。
広い大海原を眺めながら、私はひとりぼっちで、静かに見つめ続ける───。
私はクラスの役に立てず、この最後の勝負にも負けてしまうようです。
ごめんなさい龍園くん。
ごめんなさい、綾小路くん。
こんな情けない私を、どうか赦してください。
そしてどうかお元気で。
どうか……。
遠く離れても、私の気持ちが変わることはありません。
誰もいない、この世界を、ただ1人───。
終わりを告げる汽笛が鳴るその時まで、私は1人見つめ続ける───。
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NEWようこそ実力至上主義の教室へ 3年生編 33年生、最後の夏、今年の無人島試験はペイント銃を用いたクラス対抗のサバイバルゲーム。15×15マスに分けられたエリアを移動、出現する食料や銃弾を取得しながら、他クラスの生徒を倒し競い合う。最初に全滅したクラスは退学者選定のぺナルティが発生するため、攻守の戦略が重要となる。司令官の役職の生徒は5分毎にクラス別の色で表示された全生徒のGPSが確認できるため集団での行動が必須。
「頭はこっちが押さえてるが……どう動く、綾小路」「そうね……一歩リードしたはずなのに、それでもやっぱり怖いわね」「綾小路くんは負けない。ううん、私が負けさせない」
3泊4日の無人島特別試験、その決着は――!?発売日: 2025/11/25MF文庫J