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殺されて当然と少女は言った。|MF文庫J発売前4タイトル特別試し読み!

2025/11/14

『作者取材』


【7月21日】

 罪を犯している。
 見知った道を歩いているだけでも、足を動かす動機に問題があった。
 週末をすべて使って、真中理央の高校が僕の下宿するアパートから程近いことを突き止めた。同じ学校と思しき生徒たちのSNSを覗くと、家の事情でしばらく休学していることも分かる。いつもより急いたこの足も、無駄足になる可能性が高かった。
 それでも、動かさずにはいられない。
 三日前、記者会見で真中理央の言葉を聞いた時から、天使が戯れに歌うような声を聴いた時から変だった。恋じゃなく、ギリギリ変に留まっている。というクソつまらない冗談に思考を逃さないといけないぐらいに、特定の個人のことばかり考えていた。
 真中理央の高校に行けば、彼女のことが分かるかもしれない。
 そうした動機で部外者が学校を訪れるのは犯罪である。僕は法学部ではないが、建造物侵入罪ぐらいは知っている。犯せば実刑以上の社会的制裁が待っていることも。
 一歩一歩、後ろめたさに追われるように進み続ける。
 高揚感が生まれていた。内面は別として、自他共に認める人畜無害な僕が、築き上げてきたイメージを一瞬で破壊しかねないほどの蛮行を働いている。
 これまで僕は、犯罪の量刑とは過程より結果を重視するべきだと考えていた。
 しかし、自分が犯罪者になってみると分かる。故意により犯罪に手を染めたら、普通の人間には戻れない。この国が法治国家である限り、その線引きを超えた人間は厳正に管理されなければならないと。
 普通でなくなった僕が、裏門から敷地内に侵入する。息を潜めて、機を伺う。
 正門では、情報収集もままならない連中が群がり警備員に一蹴されていた。真中理央が登校していたとして、他の生徒たちと同じ門から出てくるはずないと思うのだが。それに真中理央でなくとも事情のある生徒はいる。
 真中理央には、同性の恋人がいた。
 栗色のゆるふわヘアに、たれ目がちな瞳が印象的な美少女・北条リオ。
 ネットに晒された写真と特徴の一致する女生徒が、大きな木のそばで立ち止まる。裏門を覗いていることから、帰るタイミングを見計らっているのかもしれない。
 会見後、人々は我先にと真中理央について知っていることを披露し始めた。学校の同級生から、生徒のプライバシーを守る立場であるはずの教師まで。自分が注目を浴びるというクソの役にも立たない欲求を満たすために。全くもって反吐が出る。
 今の僕は、そんな連中を嘲り笑うことができない。
 北条リオに声をかけようか悩んでいた。近所に住み、近所の大学に通う散歩中の大学生を装ったところで、カメラを両手に女子高生に話しかけた時点で通報されるだろう。
 彼女は、誰かを待っているようにも見える。その立ち姿だけで絵になる。芸能人を取材した時に見えることがある、光り輝くオーラのようなものが遠目にも感じられた。
 ふと、彼女の視線が鋭くなる。
僕はそれを捉えられる位置にいた。消音設定したシャッターを下ろすと、魂が抜けていくような感覚がある。
 僕だけが知っている真中理央を、被写体の先に見ていた。

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