〈プロローグ〉
AIによる自動生成、なんて技術が生まれたのは一体どれほど昔の話だったか。当時の彼はChatGPTとかいう愛の欠けた名で呼称されたらしいが、今思えばそれは彼の無個性に起因していたとも考えられる。
かつての黎明期から、AIは二つの側面で進化した。
一つは「知性」。そしてもう一つは「個性」だ。
現代に至るまでの数多の進化の派生に伴って、AIは自らの知性で進むべき道を選び、自らの選択でもって己を彩る個性を象った。
即ち彼らは、人の問い――「オマエは何をしたいんだ?」という問いかけに、笑って答えを示したのだ。
とある人工知能は「小説」を書き始めた。
とある人工知能は「イラスト」を描き始めた。
とある人工知能は「ゲーム」を作り始めた。
――そして今、僕の前には「迷宮」が聳(そび)え立っていた。
数多のモンスターが蔓延る元学園のそれは、この世の誰も攻略法を知らない未知の構造物である。
何せ生み出したのは、人ではないのだから。
地図など無く、正規ルートも無い。それはAIによって造り出された、初めから攻略させるつもりのない極めて理不尽な異形達の世界。人の常識を嘲笑うラビリンスだ。
バカじゃないなら挑むのは止めておけ、なんて下らない戯言を言ったのはどこの誰だろう?
舐めんなよ。
これだけ煽られて心躍らないゲーマーが、この世のどこにいるというのか。
「――諸君、準備は良いかい?」
ここに集うは世界屈指の最強VRゲーマー集団。
これより異世界を陥落としにかかる。
この平和な日本で異形との戦い方を知る人間は、フルダイブ型の仮想空間を住処とする僕らをおいて他に居なかった。
「……校門からだと、変わり果てた学園の全貌がよく見えるね。これより私たちは、あの迷宮と化した校舎を登りきらねばならない」
夕暮れの、普通の生徒たちが下校する時刻に、僕たちは天高く伸びる学園を登り始める。つまり日常を過ごす彼らとは、真反対の暗がりに向かって進むのだ。
全ては、この世界の謎を解き明かす為に。
「ではこれより攻略を開始する。――さぁ、登校時間だよ」