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“殺せない死神”と“死ねない聖女”が契約を結ぶ。朝の来ないロンドンで繰り広げられる、儚くも美しい命の物語

電撃文庫
電撃文庫
2025/11/08

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は電撃文庫・11月8日刊行の『死神さん、やさしく殺してキスをして』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 意外というか、想定外というか、ファンタジーな内容なのにジェームズたちの生き方がとても美しく輝いてみえました。こんな命の輝かせ方もあるんですね。

 切ない恋愛を描いた、ブルーライト小説ってあるじゃないですか。ピュアで真っすぐで、消えて無くなる前の一瞬の輝きを描いていて、ちょっと疲れているときとかに心をリセットできるからよく読むんです。だから命が輝くって、そういう儚くて刹那的なものだと思っていたんです。

 本作にも病に侵されて命が失われそうになっている少女が登場するんですが、主人公ジェームズの妹なんです。禁断の恋ということもなく、ヒロインは別にいるんですよね。ヒロインのメアリーは治癒能力を持った聖女なんですが、長く生きすぎていて死にたがり。メアリーが死神のジェームズに自分を殺すようにお願いするんですが、ジェームズはジェームズで死神なのに人を殺すのがどうしてもダメ。ジェームズはメアリーの期待に応えられず、メアリーはジェームズを罵倒して、周りが騒ぐほど恋愛的な雰囲気じゃない。

 けれど死神の物語だから、夜が明けなくなったロンドンを舞台に血がどんどん流れていくんです。ヒロインじゃない病気の少女、純愛っぽくない主人公とヒロイン、儚さや尊さではなく軽く扱われる命たち。少なくとも、まっすぐでピュアなブルーライト小説とは趣きが違うんです。

 それでも死神なのに人を殺せないジェームズの不器用さが、死を望んで真っすぐに行動するメアリーの強さが、血まみれになって交わっていく二人の姿が、とんでもなく美しくて輝いてみえるんです。こんな命の輝かせ方もあるんだなって、びっくりしました。

 しかもあんなラストが待っているなんて、最後の最後までびっくりすぎですよ。

文:勝木弘喜

死神さん、やさしく殺してキスをして_イラスト1

ざっくり言うとこんな作品

1)死神ジェームズを邪魔したのは、永久に死ぬことが出来ない少女メアリー。彼女は自分を殺すよう依頼するがジェームズには問題が⁉

2)普段は木漏れ日のように優しい聖女を演じるメアリーだが、本性は小悪魔的。彼女の二面性を知るジェームズは、次第に振り回され⁉

3)朝日を失った街ロンドンで、死を望む聖女と死を嫌う死神の渇望と拒絶は、やがて多くの血を流し、激しくも美しい命のやり取りへ!

主要キャラ紹介

ジェームズ・パディントン

ジェームズ・パディントン
イギリスの中等学校に通う男子生徒。七歳のときに事故で両親を亡くし、自分も瀕死のところ、適性があり死神に。本来は人を殺さないといけないが寿命を奪うだけに留めている。

メアリー・ストランド

メアリー・ストランド
流れる銀髪と紅玉の瞳を持った少女。学校や教会では春の木漏れ日のような柔らかい雰囲気だが、本性は氷点下の眼差しで千年も生きる不死の聖女。人生に飽き、死を望んでいる。

マーガレット・パディントン

マーガレット・パディントン
ジェームズが溺愛する金色の髪をした妹。料理が得意で、フルーツサンドや母親譲りのスコッチエッグはメアリーにも絶賛されるほど。生まれつきの持病があり学校は休んでいる。

死神さん、やさしく殺してキスをして_イラスト2

  • 読書感想文レビュー
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  • 勝木弘喜

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    死神さん、やさしく殺してキスをして
    ロンドンに朝が来なくなって、八年と三ヶ月。ジェームズは本業の学生を務めながら、文字通り夜な夜な副業をこなす。それは、“死神”として人々の寿命を狩り、世界の“寿命平衡”を保つこと。だが彼は、その性格と過去のトラウマから、人を殺すことができないでいた。
     ある日、ジェームズは銀髪のシスターが男の胸にナイフを刺し、寿命を回復させている現場を目撃する。彼女の名は、メアリー・ストランド。同じ学校の生徒であり、永久の時を生きる不死の“聖女”。ジェームズの妹が不治の病であると知ったメアリーは、ある提案をする。
    『あなたの妹・マーガレットの寿命を伸ばす代わりに、私を殺してちょうだい』
     人を殺せない死神と、死ねない聖女は、命をかけた契約を結ぶ――。
    松山剛 (著者) / つくぐ (イラスト)
    発売日: 2025/11/08
    電撃文庫
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