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“祈り”は、誰の日常にもある“誰かに対する想い”――異世界恋愛ジャンルのテンプレとはひと味違う物語の広がり【著者ロングインタビュー】

MFブックス
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2025/10/24

 「小説家になろう」発の新文芸作品『さよなら、英雄になった旦那様 ~ただ祈るだけの役立たずな妻のはずでしたが……~』が、MFブックスより本日10月24日に発売された。
 一見、異世界恋愛ジャンルのテンプレとも言える「婚約破棄」「ざまぁ」もののように感じる本作だが、実際にお話を読んでみるとまったく違う物語展開が繰り広げられてゆく。
 著者の遠雷先生に、そんな本作の生まれたきっかけや作品に込めたメッセージ、こだわりや魅力などを伺った。



彼らだけが特別ではない、日々を生きる誰もが、魔法使いになれる世界

――『さよなら、英雄になった旦那様』発売おめでとうございます! まずは本作の執筆のきっかけ、背景をお聞かせください。本作は婚約破棄(離縁)というテンプレをベースにしつつも、物語が進むにつれてオリジナリティの高い展開へとシフトしているかと思います。そういったアイディア、テンプレを脱却しオリジナリティを出していく流れなど、どのような構想から生まれた作品なのでしょうか?

 ありがとうございます! 私自身もともとWeb小説が大好きで、暇さえあれば各Web小説サイトのランキングを上から下まで読んでいるような読者でした。
 あまりWeb小説を読まない人の中には「Webで流行っているテンプレートというものは最初から最後まで同じような話」という偏見が少なからずあると思いますが、実際は違います。テンプレートはあくまでも物語の「導入」を簡潔にするための舞台装置でしかありません。多くの作品が、冒頭が似ていても中身はどんどん変化していきます。
 私自身を含め読者さんの多くが、冒頭がよくあるお約束展開だとしても、そこから物語がどこへ向かいどんな形になるのか、その変化を楽しんでいる部分が確実にあると思っています。

 実はこの作品のひとつ前に、いわゆる婚約破棄テンプレを使った作品を書いたことがあります。そちらは恥ずかしながら未完結なのですが、連載中にものすごい量の読者さんに読んでいただける経験をしました。婚約破棄といえば異世界恋愛ジャンルのテンプレートですが、内容は恋愛要素など微塵もない、ややダークファンタジー寄りの物語でした。それでもたくさんの読者さんが物語についてきてくれました。
 その時から、テンプレと呼ばれる舞台装置を借りて序盤の導入を済ませたら、そこから先は徐々に自分の描きたい物語にシフトしていく構想が生まれました。

―― “祈る”という行為が本作において重要なキーワード・軸となっていますが、このようなジャンルにおいて様々な方法や選択がある中、あえて“祈りが魔法になる”形をえがいたのは、どういった狙いがあるのでしょうか?

 祈りという言葉で表現していますが、作中に出てくるものは、実際には誰の日常にもある誰かに対する想いそのものです。日々誰かが誰かを想い、願っていることにこそ、小さな奇跡が起こせるような力が宿っていてほしいと強く思うからです。

『さよなら、英雄になった旦那様』カバーイラストより抜粋
『さよなら、英雄になった旦那様』カバーイラストより抜粋

――素敵な願いですね……! それこそ本作のキャッチコピーは「これは、人々の祈りが奇跡となって、その優しさで世界を照らす物語」となっていますが、そういったものを表現する上でどういった部分を作品のコンセプトとして意識されていましたか?

 農業や製造業などに携わる方々、そして多くの「作り手」と呼ばれる方々へのリスペクトが、この作品のもう一つのコンセプトでした。私は普段は製造業に近い場で仕事をしているので、職人と呼ばれる人たちが身近に居ます。そうした作り手の方々の、品物を受け取るお客さまへの想いがうかがえる言葉をよく耳にします。品質、利便性や安全性、あるいは日々の暮らしを豊かにする工夫、そういった細かな想いが拘りやスタンスとして表れていると感じることが多くあります。お金を儲けるだけが目的ではない、作り手の想いが確かな品質を支えてきたのだと思う瞬間も多くあります。
 あるいは製造業に限らずとも、もっと身近な、「誰かに何かを作る人の想い」に焦点を当てたかった意図もありました。数多の想いが集うからこそ奇跡は起きる、そういう物語にしたいと考えていました。

 主人公はフローラとそしてギルバートですが、彼らだけが特別ではない、日々を生きる誰もが、魔法使いになれる世界だと自負しています。

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    遠雷 (著者) / とき間 (イラスト)
    発売日: 2025/10/24
    MFブックス
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