連載の反響を見て、読者の祈り(想い)も作中に反映したら面白いのではと思った
――そんな本作の主人公であるフローラの魅力、あるいはぜひ注目してほしいポイントを教えてください。
フローラは、表面上は品行方正で優等生のようなキャラですが、実は少し抜けたところがあります。意外に肝が据わっている部分もあります。あまり露骨な演出はしていないのですが、気付いていただけたら嬉しいです!
――フローラは、旅を通して居場所を見つけていき、強さを身に着けていくように感じました。そんな彼女の魅力や強さを通じてえがきたかったこと、伝えたかったことは何ですか?
フローラが強さを身に着けていく過程は、すべて「誰かに出会ったから」です。
作中で名前が出てくるキャラクターのほかにも、名前の出ていない大勢の人たちともフローラは旅路で出会っています。王都で勝手な噂を流して彼女を追い詰めたような悪意ある人々も、世には当然います。だけど場所を変えたら、行動を起こしたら、新しい出会いの中にはきっとどこかに強さを分け与えてくれる人がいる。
物語を通して、それが伝えられたら嬉しく思います。
――フローラが出会ってゆくキャラクターたちは仰るように数多くいますが、みんな魅力的なキャラクターですよね! しかもその誰もがすごく自然体で、外連味のない等身大の姿が特徴的に感じます。どのような意図でそうしたキャラやシーンを演出したのでしょうか?
私は1980年代~2000年代にかけての、エンターテイメント作品としてのハリウッド映画をこよなく愛しています。中でも、深刻な状況でも軽快なコメディを差し込んでくる作品群がとても好きで、そこを原点に置いているからこそ生まれたキャラクター達でもあります。
本作はいろいろテーマを置きつつも、あくまでも生粋の「娯楽小説」にしたかったので、敢えてシリアスな場面でもコメディ要素を排除しませんでした。
小説を読む人の中には、脳が疲れている時や、精神的にあまり元気がない時、シリアスな場面が続くと読み続けられないという方がいます。一方で、シリアスな場面に水を差すと感じる方もいるかもしれません。本作は取捨選択であえて前者を優先し、娯楽であるからには、シリアスな場面でも時々くすりと笑って感情をリセットできる構成を狙いました。
――作中で印象に残っているシーン、あるいは特に苦労した場面はありますか?
印象に残っているのは「神鳴り」とタイトルをつけた一連の章、とくにお鍋で不死魔獣を撃退するフローラです。実は、あの鍋の出番は当初の予定ではあれで終わりでした。ですがWeb連載中に大勢の読者さんから反響をいただいて、「読者の祈り(想い)も作中に反映させてしまえば面白いのでは」と思い、フローラが使った鍋は正式に聖なる鍋となりました。
逆に苦労をしたのは後半のラスボス的立ち位置に居るアグレアス戦です。彼の物語をあまり掘り下げてしまうと政治や思想的な要素が強く出てきて、ストーリーの路線が変わってしまうので、Web版ではものすごくあっさりと終わってしまっていました。拍子抜けした方も多いかもしれません。書籍版は編集さんから助言をいただいて、試行錯誤の末に少し良くなっていると思います!
もう一つは、嫌われ役であるエリオットとエミリーの結末です。彼らは物語の影の部分を担う、ある意味では第二の主役でもあります。このタイプのストーリーでは彼らのような立ち位置のキャラクターには、明確な破滅を望む読者さんも居るので匙加減には悩みました。最終的には主人公の二人、フローラとギルバートならばどう考えるかに立ち返って判断しました。後悔の先にある、彼らの新しい未来を見出してもらえたらと思います。
――イラストをご担当された、とき間先生のキャラクターデザイン・イラストについて、初めてご覧になったときのお気持ちはいかがでしたか?
私が初めての書籍化で勝手がわからないところが多々あり、とき間先生には、大変な苦労をおかけしたと思います。ですが、とき間先生の手で初めて姿を与えてくださった時の喜びは忘れられません。
実は本作は、作中での登場人物の容姿に関する描写を極力排除しています。脇のキャラクターには若干あるものの、主人公であるフローラに至っては、髪形も髪色も目の色も一切出てきません。これは、読んでくださった読者さんの人数分だけキャラクター像があったら面白いのでは、という意図でした。しかしながらその影響で、キャラクターデザインを担当していただく際のキャラ設定シートが非常に曖昧な指定になってしまいました。
ですが、本当に素敵なデザインをしていただきました! とき間先生の感性で登場人物達に姿と色を与えていただいて、物語の世界が一気に色彩を持って広がったように思います。
――特にお気に入りのイラストがあればぜひお聞かせください。
お気に入りは1巻・2巻の表紙(カバーイラスト)と、1巻に入る見開きの口絵です。特に口絵は、第二の表紙と呼びたいくらいに素敵な絵を描いていただいています!

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さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずな妻のはずでしたが・・・・・・~ 1不死魔獣との苛烈な戦場で、聖剣を手にし、聖騎士として覚醒したエリオット。王国の英雄となって帰還した彼が妻フローラに突きつけたのは――離縁状だった。
「戦場でそばに寄り添い、支え続けてくれた聖女を愛してしまった」
そう告げる夫の言葉に、フローラはただ静かに離縁を受け入れる。安全な王都でただ祈ることしかできなかった自分には、彼の隣に立つ資格などなかったのかもしれないと思って。そうして彼女は王都を去ったのだった。
だが、その日を境にエリオットの聖剣は陰りを見せ始めて――。
一方、すべてを失ったフローラは、旅の中で一風変わった人々と出会い、自分の居場所を見つけ始める。やがて彼女の祈りは、女神の加護をいただく祝福となり、仲間を護る奇跡となってゆく。発売日: 2025/10/24MFブックス
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2025/10/24