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脳汁ブワァァー!!!で、ボケの筋トレ!【イントゥ・ザ・自己救済ワンダーランド#02「大喜利カフェ体験記」

2025/10/09
大喜利カフェ ボケルバ

#02 イントゥ・ザ・自己救済ワンダーランド
大喜利カフェ体験記<下>

メチャクチャ楽しい!→頭を使う!→スタミナ切れ!

 19時になると、さっそくスタート。第一問目ということで、お題はシンプルだった。色々な切り口があるが、それゆえに迷う。……と、これを読んでいる人は思っただろう。「どうしてお題を書かないのか?」と。それは……忘れたからです。ごめんなさい。いや、結論から言うと、メチャクチャ楽しくて写真を撮るのを失念しておりました。そしてメチャクチャ頭を使ったので、俺の脳みそが臨界点を迎え、もうどれがどれだったか思い出せないのです。

大喜利カフェ ボケルバ
こういう感じで課題が表示される。確かこれは二問目だったと思う。

 実際にやってみて思い知ったのだが、大喜利はメチャクチャに楽しく、メチャクチャ頭を使う。頭が明確にスタミナ切れを起こすのだ。「集中力が切れた」とも違う、独特な感覚……「ネタ切れ」だ。1つのお題につき、回答時間はたったの10分だが、その10分で頭が空っぽになった。そしてお題が変わると、今度はその空っぽになった部分に新しいアイディアが注ぎ込まれる(湧き出す)。で、10分でまた尽きて……。この繰り返しである。「ネタ切れ」の感覚をこんなに短時間で連続して味わうことは日常ではあり得ない。米研ぎみたいに、水を入れ替えながら脳みそを何度も洗うような、そういう感覚があった。まさに頭の体操だ。それに初対面のメンバーで揃って遊ぶ感覚は、一種のアナログゲームにも近い。私は人見知りだが、皆さんの暖かい空気のおかげでスッと入り込むことができた。

 そんな感じで、大喜利は楽しく進行していく。楽しい。楽しいのである。しかし……中盤頃から大きな問題が発生した。それは私が人間不信で、そのくせこだわりが妙に強い点だ。

 大喜利に回答すると、当然ながら反応は貰える。司会を務める店長のせんだいさんの的確なフォローもあり、いわゆる「滑った」という空気には決してならない。しかし、やはり回数を重ねると、「ちょいウケ」「ウケた」「爆笑」の差は出てくるし、手応えの差も感じてしまう。「今のはイケた」「これは微妙だ」そんな感想が自分の中に出てきた。さらに自分のボケの傾向も見えてくる。「さっきと同じだ……」「また古い芸能スキャンダルをネタにしている!」など、己に対して厳しい目線を向けてしまう。そして、これは実際にやってみて自分でも驚いたのだが……思った以上に、私は上手いこと言いたい欲が強かった。


「どうして俺は、そこまで上手いことが言いたのだろうか?」 次の瞬間、ペンが動いた!

 大喜利には「面白い!」と同時に、「上手い!」という概念がある。「ワッハハハ!」という爆笑と同時に、「おーっ!」という感心が混ざる笑い。華麗な技前で笑いをかっさらう、非常にスマートなスタイルだ。上手いこと言いたい。上手いこと言って、感心されたい。サウイフモノニ、ワタシハナリタイ……。土佐犬vs井出らっきょ(※検索しないでください※)などで育った私だが、一方でスマートさへの憧れが心の奥底に秘められていたのだ。自分の中の上手いこと言いたい欲に泣いちゃった時のラオウくらいビックリしつつ、大喜利と格闘する。しかし、そういう時に限ってネタ切れを起こし、それでも答え続けて、かえって手応えが悪くなり……そんな悪循環に1人で勝手に陥ってしまったのだ。しかも、集まった他のお客さんたちも非常に上手く、気持ちが急いてしまう。やがてペンが止まりがちになったが……同時に、ふっと冷静になった。「どうして俺は、そこまで上手いことが言いたのだろうか? 「おーっ」と感心されたいのか? その理由は……」その時、俺の心の中に『SLAM DANK』の魚住が包丁と大根を持って現れた。「お前に華麗なんて言葉が似合うか。加藤よ。お前は鰈だ。泥にまみれろよ」次の瞬間、ペンが動いた。そうだ、上手いこと言いたい欲は忘れよう。それより俺が面白いと思うことを書こう。そう決心したとき、ようやく気が付いた。大喜利は自分と向き合い、自分が納得できる答えを作り続けることだ。そして瞬時に答えを出力するには、心の中に豊かなネタ帳が必要になる。ネタ切れを起こさないためには、常日頃からネタ帳を書き溜めておくべきだ。今、俺は弱い。だが何故に弱いのかは分かった。やがて迎えた終盤のお題、ここで私はようやく自分が納得できる答えを出せた。それは……。

 お題)「焼肉芸人、炭火ートたけしと言えば?」
 回答)「食べログ襲撃事件」

 また古いスキャンダルじゃねぇかと思いつつ、しかし納得できる答えを見つけた時の喜びたるや。自分の好きなタイプの笑いを、自分がイケると思ったタイミングで、自分のありのままのテンションで口に出し、そしてシッカリと手応えも感じて……その快感は、素晴らしいものがあった。脳汁がブワァァーである。このほんの数十秒だけでも来て良かったと断言できる。

 やがて大喜利は佳境へ。気が付けば3時間も経っていた。あいだに休憩があったとはいえ、本当にあっという間で……正直、またやりたくて仕方がない。あの納得できる答えを見つけた瞬間の感覚をまた味わいたい。それには、もっと場に慣れて、心のネタ帳も豊かにしなければ。ともかく大喜利はこれからも続けていくことになるだろう。

 今の私は、決して大喜利が強くない。けれど……強くなれる理由を知った。“弱い”ってことはもっと強くなれるってことやん。そんなわけでメチャクチャ楽しかったです!




この記事を書いたのはこの人

加藤よしき
加藤よしき

仕事を募集中の作家/ライター。
昨年末に初の短編集「たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない」が発売され、好評を博すも、父親からは「もっと一般向けの小説を書け」と39歳にして割かしマジで叱られる。
カクヨムマイページはこちら

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取材協力:大喜利カフェ ボケルバ


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