【対談】遠坂あさぎ×志瑞祐独占対談|新シリーズ『ハウリング・ブレイズ』の制作秘話を大公開!

まさかこの二人に素晴らしいストーリーが付くとは!
――そもそもお二人は前作『聖剣学院の魔剣使い』でもタッグを組まれていましたよね。当時はお互いのことをどのように捉えられていたのでしょうか。
志瑞祐(以下“志瑞”):遠坂先生のイラストは、とても繊細なことが魅力だなと。イラスト一枚であっても、世界観がパーっと広がるような緻密さになっていて、毎巻新鮮に感じていました。その印象があったからこそ、『聖剣学院』だとどんなキャラクターを出しても遠坂先生が素晴らしいデザインを仕上げてくださるはず、と信頼していた面はありましたね。
遠坂あさぎ(以下“遠坂”):志瑞先生の書かれる作品は、全編に渡ってとても読みやすいんですよ。キャラの魅力もさることながら、ストーリーもシリアスさとコミカルさが良いバランスで配置されていて、するするっと最後まで読めてしまうんです。だからこそ、『聖剣学院』は全16巻という長いシリーズでしたが、楽しく最後までお仕事させていただけました。

――そんなお二人が今回、『ハウリング・ブレイズ』で再度タッグを組まれたわけですが、遠坂先生は単にイラストというわけではなく「原案」も担当されています。
遠坂:これは元々、私が同人誌で描いたキャラクターが出発点になっているからですね。
志瑞:企画の経緯を説明させていただくと、『聖剣学院』の最終巻を書いたあと、次にMF文庫Jさんでどんな新作を始めるか考えたんですが、『精霊使いの剣舞』をやり、並行してマンガ原作の『異世界マンチキン -HP1のままで最強最速ダンジョン攻略-』を書いていると、自分の引き出しから出るアイデアがなくなり始めていることに気付いたんです。そこで何か新しいインスピレーションをお借りしたいなと遠坂先生にご相談したんですよね。
遠坂:それが昨年(2024年)の上半期でしたね。当時はまだ同人誌に向けて月宮薫とフィオナのキャラクターを作っている途中でした。世界観もなんとなくこんな感じだろうな、と夢想していたのですが、MF文庫Jさん伝いに志瑞先生からご相談を受けて、「このキャラクターたちではいかがですか」とお返ししたんです。

――その時点である程度キャラクターと世界観が作られていたんですね。その発想は、どういう形で生まれたんですか?
遠坂:それまで何人かオリジナルキャラクターを描くことはあったんですが、パッと思いついたものをすぐに描く、というくらいラフなものだったんですよ。でも、一回はちゃんと設定まで考えた上でキャラクターを作ってみたいなと考え、自分の好きな世界観で好きなデザインのキャラクターを組んでいったんです。なので、ゴシック系であるとかは完全に私の趣味(笑)。そこへちょうど志瑞先生からお話が来たものですから、まさかこの二人に素晴らしいストーリーが付くとは! と渡りに船とばかりにOKを出しました。
自分は普段絵を描くことを生業にしていますから、ある程度キャラクターの設定を考えたとしても、その物語を紡ぐことは得意じゃないんですよ。断片的にイラストとして表現することはできるけれど、そこは餅は餅屋。そこに信頼している志瑞先生がいらしたら、もう何も言うことはありませんよね!
志瑞:ありがとうございます(笑)。遠坂先生から「女の子二人のバディもの」と伺って、これは自分の引き出しにはなかったものだ、とワクワクしたことを覚えています。自分発信の企画だと、男女ペアの方が描きやすいなとか、今流行りの要素はこれだから……とかいろんなことを考えてしまうんですよね。
でも、今回は遠坂先生の原案をもとに物語を膨らませていくことが自分の役目。かなりの挑戦でしたが、楽しみながら書かせていただきました。
自分からは出てこないアイデアだったので、書いていて楽しかったです
――同人誌版ですと僅かな設定が描かれていたのみですが、そこから志瑞先生はどのように世界観を膨らまされていったのでしょうか。
志瑞:割と自由にやらせていただきましたね。
遠坂:薫は口数が少ないおとなしめなキャラクターで、アンティークかつゴシックな雰囲気を纏わせたい、と原案をお渡しするときに伝えたくらいでしたよね。

志瑞:そうでしたね。その印象をお聞きした上で、最初はロンドンを舞台としたバディで事件を解決するお話にしようとしていたんですよ。でも、何かが足りない。そう感じるようになったとき、ちょうど『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』を観て……。
――今年(2025年)、日本でも公開された九龍城砦が舞台の香港映画ですね(笑)。
志瑞:そこから一気に香港ノワールらしい方向性に移行していきました(笑)。そこに自分が描きたかったサイバーパンクの要素も織り交ぜて、かなりごった煮のアクション小説になったと思っています。
――舞台が喫茶店〈猫遊館〉になったのはどういった経緯で?
志瑞:薫とフィオナがいるのは何でも屋で、いろんな相談事を受け付けている……という設定はロンドンが舞台だった時代からあったんですよ。当時は骨董品店だったかな? それが香港ノワールになった時点で、喫茶店になり。フィオナに猫耳カチューシャが付いていますから、それに関連付けて〈猫遊館〉にしたんです。

――薫とフィオナについては、どのように膨らませていったのでしょうか?
志瑞:僕はかっちり性格を決めてから書くタイプではなく、執筆しながらそのキャラクター性を発見していくタイプなのですが、二人はかなりすんなりと出てきましたね。先ほど遠坂先生のお話にもありましたが、薫はクールなタイプ。最初はフィオナに振り回されるタイプとして書いていたのですが、どんどん進めるうちに喧嘩っ早い一面や変な行動を取る様子も見えてきました。逆にフィオナは最初こそ破天荒なキャラクターなのかなと思ったのですが、かなり常識人になったと思っています。
遠坂:私も最初、薫が常識人タイプでフィオナが振り回す方だと考えていたんですけど、初稿を拝読したときに見た目とのギャップが生まれるのは面白い! とその設定にOKを出しました。最終的には薫は天然っぽさ、フィオナは猫っぽい表情だけでは感じ取れない飄々とした雰囲気が醸し出せたのかなと。
志瑞:キャラクターの話だと、「双子のキャラクターを出してほしい」というオーダーがありましたよね?
遠坂:そうでした! シェリルとクリスですね(笑)。自分が双子、しかも性別違いのキャラクターが好きなので、これは盛り込んでほしい! とお願いしました。
志瑞:あれも自分からは出てこないアイデアだったので、書いていて楽しかったです。

――ちなみに、遠坂先生は元々自らの同人誌発の本作とそれ以外の担当ライトノベル作品とでは、何か意識の差はあるのでしょうか。
遠坂:意識の差はないですけど、デザインの緻密さは違うかもしれません。普段、各編集さんからライトノベルのイラストをご依頼されるときには、後々コミカライズやアニメ化される可能性も見越して、過度な描き込みは避けているんですよ。でも、本作は元々同人誌で描くものだったので、思うままに凝った衣装を着させていて。なので、『ハウリング・ブレイズ』のイラストは、いつもよりも作画コストの高いものになっています(笑)。

――その後、完成した原稿を読まれた際に、遠坂先生はどのような印象を作品から受けましたか?
遠坂:『聖剣学院』でずっと志瑞先生の小説に触れていましたけど、この作品では新鮮な印象ばかり感じてとても面白かったです! 自分の担当作品がアニメ化したときにも感じた、自分の生んだキャラクターをスタッフさんはこう動かすんだ……! という興奮に似た感情もありましたが、その視点を抜きにしても素晴らしい一冊になったと思っています。
志瑞:遠坂さんのイラストがあってこそですよ! 薫は衣装が凄まじくて、あの軍服を見ただけでも新たなストーリーが思い付きますし……。フィオナも飄々とした表情がたまらなかったです。この二人が組んだとき、どんな化学反応が起こるのか、自分で書きながらではありますが先の展開が楽しみでした。
――そんな『ハウリング・ブレイズ』がいよいよ刊行となります。
志瑞:女の子二人のバディものというと、『ダーティペア』や『スレイヤーズすぺしゃる』から脈々と続くライトノベルの一ジャンルです。そこが大好きな方には絶対満足いただける一冊になったと思っています。
遠坂:やはりバディものであることは強く推していきたいですね。二人の関係性に是非ご注目を!

イラスト投稿サイトなどで活動を始め、ライトノベルのイラストは『絶対調和☆御裏崎ちゃんっ!』(著:リタ・ジェイ/MF文庫J)にて初担当。その後、『豚のレバーは加熱しろ』(著:逆井卓馬/電撃文庫)、『ガーリー・エアフォース』(著:夏海公司/電撃文庫)など多くの作品のイラストを手掛けてきた。
また、ゲームイラストやバーチャルYouTuber(VTuber)のデザインも複数担当している大人気イラストレーター。美麗且つ幻想的なイラストはそのキャッチーさも相まって、多くのファンに支持されている。
本作を執筆した志瑞祐とは、2024年にテレビアニメ化もされた『聖剣学院の魔剣使い』(MF文庫J)から引き続きのタッグとなる。
2008年に『やってきたよ、ドルイドさん!』(イラスト:絶叫/MF文庫J)でデビュー。その後は『精霊使いの剣舞』(イラスト:〆鯖コハダ キャラクター原案:桜はんぺん/MF文庫J)、『異世界マンチキン -HP1のままで最強最速ダンジョン攻略-』(原作を担当。漫画:青桐良/講談社)など複数のテレビアニメ化作品を手掛ける。
遠坂あさぎとは『聖剣学院の魔剣使い』(MF文庫J)にてタッグを組んでおり、『ハウリング・ブレイズ』が同コンビでの二作目となる。
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