勇者の物語はもう読んだ。今度は、勇者の妻の物語を読もう! 下町を舞台にしたアフターファンタジーをご紹介

何気ない日常を描き出す名手・竹岡葉月先生が
生み出した魅力的な異世界もの

イラスト:コタチユウ
レーベル:富士見L文庫
祖父が営む弁当屋「ときとう」で働いていたひばりは、常連客のサラリーマン・三輪伊吹と恋に落ち、二年の交際を経て結婚した。イケメンで優しく仕事熱心な理想のダーリンとの念願の新婚生活だが、伊吹は時々家に風変りな外国人の同僚を連れてくる。実は彼らの正体は異世界人で、伊吹は過去に異世界を救った勇者だったのだ! かくして伊吹の秘密を知ったひばりは彼の仕事を手伝うべく、異世界からの訪問客に精一杯のおもてなしをすることに……。

新婚ほやほやの主婦。よくいえば大らか、凄くよくいうと器が大きい。祖父の弁当屋を手伝っていたこともあり料理が得意。

ひばりの旦那。元異世界勇者で、ひばりには自身の過去を内緒にしようとしていたが、わりとあっさりとばれてしまう。
異世界ものなのに妙にリアリティあり!?
下町が舞台のほんわか日常ドラマをご紹介
これまでにヒット作がいくつも生まれ、毎クールごとのアニメにも複数作が顔を見せる異世界もの。平凡な生活を送っていた主人公がファンタジー世界に送り込まれて大冒険へ──という定番から、のんびりまったりした暮らしを送ったり、ときにはモンスターに転生してしまったりと様々なバリエーションが存在しますが、今回紹介する『旦那の同僚がエルフかもしれません』では、さらに変わった切り口で異世界が描かれています。その魅力に迫ってみましょう!
ここが斬新! 『旦那の同僚がエルフかもしれません』の魅力を際立たせる3つのポイント
1.主人公は異世界帰りの元勇者⋯⋯ではなく、その新妻
本作は魔王を倒し平和を取り戻した勇者のその後を描く"アフターファンタジー"です。かつて異世界に勇者として召喚された三輪伊吹。魔王を倒し日本に帰還した伊吹は、その後も異世界とのつながりは残っており、定期的に向こうの世界で戦後処理を行うのですが……実は本作の主人公は彼ではなく、彼と結婚したばかりの三輪ひばり。しかも彼女は伊吹の元勇者という事情を何一つ知らないまま結婚していたのです!
結婚後に夫の真実を知った彼女は当然困惑……するかと思いきや、隠し事をされていたことには怒りつつも、異世界に関する話はすんなり受け止め、理解を見せます。うーん、器が大きい。この一般人であるひばりの視点から、新婚生活を通して勇者のその後と異世界の文化を描くという設定がとてもユニークなのです!
2.どこまでも一般人のひばりと異世界人とのやりとりが微笑ましい
新婚ほやほやのひばりと伊吹。できれば二人きりで過ごしたいところですが、伊吹の仕事の都合もあって、二人の新居には頻繁にエルフやらドワーフといった異世界人のゲストが訪れます。ですがファンタジーにあまり詳しくないひばりの異世界人に対する態度はとてもフラット。伊吹の上司(人狼)が狼の姿で家を訪ねたら、まるで散歩帰りの愛犬を相手にするかのように玄関に上がる前に足を拭いてもらうようお願いするし、魔王の娘エンリギーニと強面な側近がやってきた際には、普通ならパニックになってもおかしくないプレッシャーを前にしても全然動じません。しかも魔王の娘から開口一番「ぶさいくな娘だな」と罵倒されても、たいして気にせず「エンリちゃん」と親しみをこめて呼び返すのです。
この誰が相手でもマイペースな姿勢のひばりとクセの強い異世界人たちとの交流が実に楽しいのです。そしてただのゆるふわな交流だけでは終わらずに、伊吹の手料理やおもてなしがきっかけとなって、異世界のトラブルが意外な形で解決していく様子も大きな読みどころとなっています。
3.ファンタジー色の強い世界観にリアリティをもたらす丁寧な日常描写
異世界の人々に手料理を振る舞ったり、逆に魔王の娘からお中元として送られてきたファンタジー生物(龍)の肉を料理したりと、様々な形で描かれるひばりの異世界交流。この交流の面白さを支えているのが細やかな日常描写です。伊吹が突然の異世界出張で帰れなくなると、用意した料理を食べてもらえなかったことに怒ったり、その余った料理をパート先で配ったりと、異世界関係のトラブルばかりではなく、新婚生活の中の些細な出来事もしっかり取り上げています。
また物語の舞台となるのは東京中央区の月島周辺やひばりの実家である京都など、実在する土地々々。これらの街並みの描写も実に丁寧で、読んでいると実際の風景が自然と目に浮かんでくるほどなんです。それもそのはず、描かれている街並みは著者による現地取材に基づいているのだとか。こうした日常や土地の描写の積み重ねによって、異世界人が次々と訪れるという現実離れした展開に確かなリアリティがもたらされているのです。
本作の作者である竹岡葉月先生は最近ではライト文芸のレーベルを中心に活躍していますが、少し前にはライトノベルレーベルでも多数の作品を執筆していて、異世界を舞台にした作品も手がけていました。そのため、本作はライト文芸的な語り口でありながら、異世界もののファンにもしっかりと楽しめる独自性の強い内容に仕上がっているのです。
また、本作はカクヨムネクスト上で連載されていて、ネクスト会員ではない人でも序盤は無料で読めるので、気になったら是非チェックしてほしいです。また、書籍版には1・2巻のどちらにも書き下ろしのSSが掲載されているため、より作品世界に浸れること間違いありません。
文・柿崎憲
あのゆきともさんが、本作を大絶賛!? レビュー動画をチェック!
今回、人気ラノベ紹介YouTuberのゆきともさんに、特別に本作のレビュー動画を作っていただきました。ゆきともさんが本作をどう評価しているのか、ぜひご覧ください!
ほかにもたくさん! 竹岡葉月先生の作品をご紹介
『旦那の同僚がエルフかもしれません』既刊一覧
富士見L文庫から刊行されている竹岡葉月先生の作品
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