イラストレーター・さいとうなおき、挑戦の原点は『ちょっと取り返しのつかないことをしてみたい』という気持ち!? 【あなたの #チャレ活】

絵柄を変える、という初の大きなチャレンジからすべては始まった
――『メクリメクル』創刊記念インタビューでは、皆さんの様々なチャレンジについてお聞きしています。さいとうさんはイラストレーターでありながら、漫画連載やYouTubeでの配信など、これまでに様々なチャレンジを行ってこられましたが、さいとうさんにとって一番のチャレンジと呼べるものは何でしょうか?
さいとうなおき(以下:さいとう):僕のなかで今までで一番のチャレンジといえるのが、大きく絵柄を変えたことですね。
イラストレーターとして活動し始めた当初は『デュエル・マスターズ』というカードゲームを中心にモンスターやクリーチャーを描いていたんですけど、やっぱり人間も描きたいという思いがあって。ただ、仕事は安定してるし家族もいるし、そこで絵柄をガラッと変えてしまうのは……って。そんなところからのチャレンジでしたね。
――大きく絵柄を変えて、どうやって仕事に結びつけていったのでしょうか?
さいとう:元々モンスターのイラストをお願いされていた会社があって、その会社に見学させてもらう機会があったんです。そのときに面白そうなプロジェクトがあって、『あのプロジェクトにめっちゃ興味あります』って言ったら、『さいとうさんって人間のキャラクター描けたんでしたっけ?』って言われたので、『あ、もちろん描けます』と答えました。
――実際のところ、描けたんですか?
さいとう:描けなかった(笑)。全く描けないというわけではないんですが、商業レベルのイラストとしては描いたことがなかったので、『3ヶ月だけ待ってください。ちょっと今忙しいので、仕事を整理してまいります』って時間を稼いで、その3ヶ月間に必死で練習して、そのプロジェクトに参加していったっていうのが、印象に残っているチャレンジです。
――人間のキャラクターを描くのは、モンスターのデザインをするのとは感触が異なるものなのでしょうか。
さいとう:人間のキャラクターを描くのって、人物そのものだけでなくファッションや小道具も描かなきゃいけないし、その人物の“属性”も表現しなきゃいけないんですよ。
たとえば、ヤンデレの子はちょっと目が死んでるように描かなきゃいけない、明るい子の髪色はこういう色にしなきゃいけない、とか。そういう“暗黙の文脈”が脈々と続いていて、そこをちゃんと理解してないとキャラクターを描けるとは言えない。そういう文脈を吸収するのには、なかなか苦戦しました。
デジタルとアナログの絵に対する創作の姿勢は、別のスポーツをやってるくらい違う
――そうしたチャレンジを経て、今のさいとうさんの絵柄が生まれたわけですね。では、今のさいとうさんにとって、最新のチャレンジと言えるものは何でしょうか?
さいとう:最新というと、この一年はずっとアナログの絵を描いてましたね。
――アナログからデジタルに移行するケースはよくありますが、逆のパターンは珍しいですよね。ずっとデジタルで仕事をされていた方が、アナログも描いてみたいと思うものなのでしょうか?
さいとう:むしろ最初は描きたくなかったんですよね。きっかけは、去年マックスむらいさんから電話があって、『うちの店舗に壁画を描いてください』って言われたんです。
正直やった事がなくて気が引けていたんですが、『あの件どうなってますか』ってまた電話がかかってきて、『こんなに熱心に言って下さるならやらないと損かな……』と思って、描いてみることになったんですよ。

――それまでに壁画を描いたことは……?
さいとう:いや、全くないんです。だから『どういう道具を使えば描けるのか』みたいなところから始めました。
YouTubeなどで情報を集めてアクリルガッシュという画材で描いて、その様子を撮影して動画にしたんです。そうしたらその動画を見た村上隆さんから『個展を開いてみませんか』って、すごく丁寧なご連絡をいただいて。そこから『じゃあ明日お会いしましょう』となって、その翌々日にはアクリル絵の具の74色セットみたいなのがバーンって送られてきて、『これはもう描かなきゃ……』みたいな感じになりました(笑)。
――ものすごいスピードで進んでいきましたね(笑)。やはり、デジタルでイラストを描くのとアクリル絵の具で描くのは全然違うものなのですか?
さいとう:全然違いますね。自分でやってみて一番違うなと思ったのは、デジタルって簡単に修正できるんですよ。デジタルだったら5分や10分で修正できる作業が、アナログだと2〜3時間ぐらいかかる。そうなると創作の姿勢も全然違ってきて、別のスポーツをやってるような気分でしたね。
――アナログならではの苦労とは、どのようなものがあるのでしょうか?
さいとう:例えばアクリル絵の具で色を塗って『あ、違った。直さなきゃ』ってなった時に、アクリル絵の具って塗った絵の具の厚みがあるから、上から違う色を塗ってもその厚みの情報が残っちゃうんですよ。だからそのデコボコを直すためにヤスリでゴシゴシ削ったりするんですけど、その作業に入るにはまず絵の具が乾くのを待たなきゃいけない。そうした苦労はありました。
でも面白いこともあって、アナログならではの表現っていっぱいあるんですよね。たとえば金箔を貼ったり、仕上げ剤を塗って艶を出したりとか。そういうのってデジタルではできない表現で、面倒くさいしやり方も模索しなきゃいけないけど、デジタルとは違うフィジカルな魅力は感じました。

――ちなみに金箔を貼るというのは、ご自身のアイデアだったんですか?
さいとう:違います。製作中の作品を見てた村上さんが『俺だったら金箔貼るね』ってアイデアを下さって、何回か言われたので、『あ、これは貼らなきゃいけないんだ』って(笑)。
――(笑)
さいとう:村上さんは元々日本画の人なので、そういう発想が自然に出てくるんでしょうけど、僕にはその発想がなかったし、そもそも貼り方もよくわからない。それで直接教えていただいたり、YouTubeで調べたりしました。金箔を貼るには“膠(にかわ)”を溶かして“ドーサ液”というものを作らなきゃいけないんですが、そのために土鍋やカセットコンロを新しく用意して、膠を湯煎したりしました。
――そうなると、これまでとはだいぶ作業環境が変わったのでは?
さいとう:いや、もう、だから部屋がめちゃくちゃ汚くなりました(笑)。部屋も狭くなって、『これは全然場所が足りないな』ってなったので、自宅の前の駐車場に、もう一棟建物を建てることにしました。資材不足で工期が遅れているので、未だに建ってないんですけど……。
――新しく工房を建てるとは、ある意味で最大のチャレンジですね!
さいとう:そうですね。これがうまくいくかどうかって保証はないんですけど、一応“自分への投資”というつもりです。
――そこまで熱を入れるということは、これから先デジタルからアナログへと逆行する未来も考えていたり……?
さいとう:完全に移行ということはないと思います。むしろ両輪でやっていきたいですね。デジタルにはデジタルの良さが、アナログにはアナログの良さがありますから。
でも、最近、自分の中で物事を効率的に進めて、スケールの大きなことにチャレンジしていきたい!っていう気持ちが、ちょっと薄れてきたんですよね。それは、年齢のせいかもしれないし、自分が現状にちょっと満足しちゃってるところがあるのかもしれない。
それが今回アナログに取り組んだことで、今までとは違う部分が刺激されました。デジタルで絵を描いていると、どうしても“効率的に進めたい”“SNSで拡散したい”っていうマインドが、知らず知らずのうちに入ってきちゃう。
でも最近は、そういう考え方に疲れてきて、効率的じゃないこともしたいという気持ちが強くなってきたんです。たとえばアナログだと、絵の具を溶いて一つの色を作るのに5分くらいかかる。それを何十色も作るから、もう一日中ずっと絵の具を溶かしてるだけ……みたいな日もあるんですけど、『すごい贅沢な時間の使い方してるな』って感じるんですよね。


『変わってしまうんじゃないか』という不安がくれる挑戦への推進力
――もちろん、これまで通りイラストレーターやYouTuberとしての仕事もされていたわけで、そこにアナログ作業が加わると、“ずっと仕事をしている”感覚だったんでしょうか? それとも、ある意味息抜きにもなっていたのでしょうか?
さいとう:半々ですね。最初は本当に辛かったんですよ。効率主義で動いてたところに、急にアナログっていう非効率なことを始めたから、『今日一日、何してたんだろう……』みたいな苦しさがあって。数か月間、ちょっと鬱っぽくなってましたもん。
――足を踏み入れたことに後悔しましたか?
さいとう:もう無理だ! と思った事もありました。でも、途中から吹っ切れたというか、考え方次第では“けっこう楽しいな”って思えるようになってきた。
『ここをグラデーションにしたいけど、どうすればいいんだろう……』って悩んだ末に、『あ、エアブラシを使えばできるんだ!』と気づいて、エアブラシを買いに行ったり。だけど一台7万円ぐらいするんですよね。それで出費とか不安とか、いろんなネガティブな感情も湧いてくるんだけど、その一方で『ここで7万払う俺、ちょっとカッコよくね?』って思ったりもして(笑)。
何食わぬ顔でエアブラシ買って、部屋で“ボボボボボ”ってグラデーション作ってました。結局、不安もすごく大きいんですけど、不安が多くないと、ワクワクする気持ちも生まれないんです。YouTubeを始めたときも、7割くらいは不安でしたから。
――その不安なYouTubeの動画配信に踏み出したきっかけは何だったのでしょう?
さいとう:『ちょっと取り返しのつかないことしてみたい』という気持ちがありましたね。顔出しで動画配信なんてしたら、良くも悪くも自分の世界はこれまでと一変してしまう。でも、やっぱり『変わってしまうんじゃないか』っていう不安がないと、積極的に行動できないんですよね。

――実際にアナログに挑戦して作品が完成したときの達成感はどうでしたか?
さいとう:実はその時点では、そこまで達成感はなくて。むしろ作品が“誰かの元に届いた”ときに、初めて『ああ、よかった』って思えるんです。
個展を開いたとき、見に来てくれた人の中には1時間ぐらいずっと見てくれる人もいたし、一度ほかの場所に行ったあと、また戻ってきて、違う角度から見て感心してくれる人もいて。それは嬉しかったですね。
――“絵ができあがったこと”じゃなくて、“見られたこと”に喜びを感じるんですね。
さいとう:たぶん、僕の本質ってそこなんだと思うんですよ。自分で何かをやりたいというより、『さいとうさんに描いてほしい』って求められることが、一番の喜びなんです。逆に、求められていないことには、全く喜びを感じられない。
だから、他人から必要とされたときに、その期待に応えるために『じゃあ、どうしたらいいんだろう?』って考える。それが、自分にとってはチャレンジの始まりなのかもしれませんね。
――ありがとうございます。最後に、新しいことに挑戦したいと思っている読者の方に、メッセージをお願いします。
さいとう:今の時代、イラストレーターに限らず、クリエイティブな仕事に関わる人にとって挑戦することは、すごく重要だと思います。
たとえば、自分が憧れている仕事に就けたとして、その仕事が将来もあるかどうかって、わからないじゃないですか。10年前なら『ソーシャルゲームでSSRのイラストを描くこと』がイラストレーターの夢だったと思うんですけど、今はその仕事も減ってきている。
つまり、夢そのものが時代とともに変わっていく。だから、今だけを見て夢を決めるんじゃなくて、変わっていく未来に向けて、新しいチャレンジを続けていってほしいと思います。そうする中で、“自分が楽しいこと”“面白いと思えること”をどんどん取り入れていくのが、いいんじゃないかなって。
――ありがとうございました!

取材・文●柿崎憲

さいとうなおき
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学GD科入学・卒業。大学卒業後はコナミデジタルエンタテインメントへ入社、その後フリーランスへ。『ポケットモンスター』ならびに『ポケモンカードゲーム』のキャラクターデザインや『デュエル・マスターズ』のイラストを主に手がける。また『グラップラー刃牙』のスピンオフ作品『バキどもえ』などの作品を執筆するなど、漫画家としても活動。現在ではイラスト系YouTuberとしても活動するなど活躍の幅を広げている。
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