『ノーゲーム・ノーライフ』榎宮祐の生き様――自分の生き方の前提に、まず“新しい挑戦”というものがある【あなたの #チャレ活】

ブラジル出身で、高校在学中にイラストレーターとしてデビューし、その後漫画家や小説家として活躍するという、あらゆる人の想像を超えるような強烈な経歴を持つ彼の生き様を紐解いてみた。
インドア派の榎宮先生ならではの、アウトドアな趣味
――榎宮先生はイラストレーターであり、漫画家であり、ライトノベル作家でもあり……チャレンジのお話がたっぷり聞けそうですが、まずは趣味のお話からお聞かせください。『ノーゲーム・ノーライフ』が遊戯を題材にしているので、やはり一番の趣味はゲームでしょうか?
榎宮祐(以下:榎宮):むしろゲームしかしない、っていう感じですね(笑)。話題になったゲームは絶対にやることにしています。今もゲームを(インタビューの)直前までやっていて、担当編集から連絡がきて慌てて来ました(笑)。
――じゃあ普段のインプットはゲームから? ライトノベルは読まれますか?
榎宮:正直なことを言うと、あんまり小説読まないんですよ。基本的には漫画を読むかゲームをするかがインプット元なので、文章に関しては未だに変なスタイルで書いていると思いますね。
――ゲーム以外の趣味は何かありますか?
榎宮:今は梅雨なんでしばらくはインドアですけど、ロードバイクが趣味ではありますね。最近は週3~4日。1日30~40kmぐらい走っていました。
――意外ですね! なにかきっかけが?
榎宮:5年近く前、医者に運動するように言われて、何か楽しい運動がないか探した結果ロードバイクに辿り着きました。個人的にロードバイクには運動というイメージがあまりないんですよね。景色が変わっていくのを楽しんで、気づいたら時間が経ってて……みたいな。だからいつも急いで帰るような感じです。
――完全なインドア派かと思っていました。
榎宮:ロードバイク以外は完全にインドアです! ただロードバイクって基本的に1人で乗るものなんで、アウトドア型の引きこもり趣味だと思っているんです。誰とも関わることなく遠くへ行く、景色が変わるのを楽しむだけ。バーチャルライドで家の中でもできますが、外乗りするほど楽しくはないですね。

本人公式Xのポストより
今の自分が書きたいものを探りたい
――意外なご趣味がわかったところで本題に入りたいと思いますが、今挑戦したいことはありますか?
榎宮:『ノーゲーム・ノーライフ』を長いこと書いているので、他のこともいろいろ試したいとはずっと思っているんですよね。企画書まで立ち上げたりもしてるんですけど、今は『ノーゲーム・ノーライフ』を優先しているので、走らせる余裕がなくて。漫画の原作とか、自分でゲームを企画するのもやってみたいです。
――やっぱりゲームは関心がありますか?
榎宮:あるにはあるんですけど、同時に仕事にしたら純粋に楽しめなくなるんじゃないかという危惧もあって、踏み出し切れずにいます(笑)。
――ちなみにどんなゲームを作りたいですか?
榎宮:好きなのは結局電子ゲームなんですけど、正直に言うと美少女ゲームから始めたいなって思いますね。シナリオをつけて、昔描いた個人のドリームを実現したいなと思ってはいます。昔自分がやっていた美少女ゲームのライターが、今はレジェンド級の脚本家になっていて。それもあって自由奔放に何か書ければなと思いつつ、筆の遅さでたぶん一生かけても完結しないですね(笑)。
――ゲームシナリオは文字数が多いですもんね。
榎宮:『ノーゲーム・ノーライフ』を始めた頃は、3週間ぐらいで1冊書けていたんですよ。今はキャラクターが増えてゲームの内容が難しくなっているので時間がかかっていますが……でもあの頃の筆の早さを考えると、(ゲームシナリオを)さらっと書こうと思えば書けるんじゃないのか、って試したいことではあるんです。
――榎宮先生はエンターテイメントの意識が高いので、『ノーゲーム・ノーライフ』以外の企画も面白くなりそうですね。
榎宮:『ノーゲーム・ノーライフ』で何か動かしてもいいとは思うんですが、それ以外でも筆が乗って良いものを書ければファンにも喜んでもらえて嬉しいですね。
――それが今、挑戦したいこと?
榎宮:『ノーゲーム・ノーライフ』は20代で書き始めた作品だから、今の自分が書きたいものを探りたいんですよ。理詰めで書いたのが『ノーゲーム・ノーライフ』で、今ではそこに哲学が乗って大変なんです。だから、すごくシンプルな構造だったら何歳になろうが関係ないはずなので、アプローチの変え方だと思っています。ちょっと綺麗に飾って言うなら、今挑戦したいことは「本当に自分の限界はここなのかを一度確認したい」ですね。
クリエイターとして、自分の限界はどこなのか
――「自分の限界」というと?
榎宮:イラストに関しては一昨年あたりから描き方を変えてみたら、レベルが上がった感覚があって、若い頃にできると思っていなかったところまで到達できたんです。
――イラストでもまだチャレンジされてるのはすごいですね! どんなレベルアップがあったんですか?
榎宮:自分は大量のグラデーションや鮮やかな色を使っているから「立体感を付ける」というものをずっと諦めていたんですけど、そこの答えが出たんです。それで、イラストで革新的なことが自分の中で起きたんで、文章でも同じようにやったら何か見えるかと思ったんですけど……そっちは今のところ全然見えないですね(笑)。

――確かに文章の革新的なレベルアップは容易ではなさそうですね。何か糸口はあるんでしょうか?
榎宮:これまでイラストレーターからスタートして漫画家になって、漫画を書くノウハウをそのままラノベに転用して……そのスキルでやってきたつもりなんです。文章で表現できるようになったものを今度はイラストの中に、コンテクストの中に込めるみたいなことをやって、また映像から文章を起こす、っていう循環をしてきたんですよ。
その循環が、文章に関しては止まった気がしていて、イラストにおけるブレイクスルーをもう一度文章に循環させられないか、あるいは蓄積したものを使って全く別のジャンル、漫画原作なりゲームなりに持ち込んだら面白いものになるんじゃないのか、とか考えながら、まだ実現できずにいますね。
――『ノーゲーム・ノーライフ』の著者兼イラストレーターですもんね。新しいことにチャレンジするにもお忙しいと思います。
榎宮:忙しさ以前の問題として、好きすぎるものって理想のハードル値が上がりすぎて踏み込めないんですよ! でも今頑張ったら、実はいろいろ書ける気はしているんですよね。今ならエロ漫画でも描ける気がしてます(笑)。
――それが今やりたいチャレンジの回答で大丈夫ですか!?(笑)
榎宮:要は何であれ出来ないことが出来るようになりたいんですよ(笑)。元々それが一番好きなんで。
――出来ないことが出来るようになる、チャレンジの醍醐味ですよね。
榎宮:何か出来ないことに対して挑戦することが、人生で絶対的に必要なことだと思うんです。それこそ突然ロードバイクにハマって100km、200kmと漕げるようになることだとか、ゲームでも音楽でもジャグリングでも、究極的には一輪車でも乗れるようになったら楽しいと思うんですよね。
だから早く『ノーゲーム・ノーライフ』の原稿を上げて、新しいことをやる時間を作らなきゃいけないなと思ってます(笑)。たぶん自分の生き方の前提に、まず“新しい挑戦”というものがあるんだなって思いますね。
――すでにクリエイターとしてマルチに活躍されているのに、まだまだ挑戦したいとがあるのはすごいですね。ちなみにクリエイターではなく、一個人としてやってみたいことはありますか?
榎宮:クリエイターじゃない自分があんまり想像できないですね……うーん……。
――例えばですけど、ご結婚されてお子さんもいて、人生の次のフェーズはこれがしたいとか。
榎宮:それで言うと、実は今それに困っているんですよね。結婚して、娘が生まれて……しかもめちゃめちゃかわいいオタクなボクっ娘だぜ!? オタクの身としては、もう育児も完璧じゃん!?(笑)
――もうクリエイター以外の部分では、これ以上やってみたいことがない?(笑)
榎宮:そもそも「クリエイター・榎宮祐」じゃない自分が存在しない気がするんで、むしろそこを探してるかなって思いますね。正直、16歳のときに使い始めたこの名前で呼ばれることの方が多くて、普段本名で呼ばれる機会がそもそもないくらいだから……(笑)。
……あ! 1個だけあります! ハワイに移住したいっす! 気圧がほとんど変動しないんで、気象病で苦しんでる人間からすると、もう今すぐにでも日本を脱出したい。梅雨とか本当滅んでほしい(笑)。梅雨とかなければロードバイクだって乗り放題じゃないですか。
「10年後も生きていよう」というのは、でかいチャレンジ
――それでは最後に、『ノーゲーム・ノーライフ』の予定についてお聞かせください。
榎宮:最初の予定としては16巻で完結させるつもりだったんです。十六種族、16種のコマで16巻完結だったら綺麗だなって思ってたんですけど……今執筆していて次に出すのが13巻。え、これ残り冊数で終わる!? まだ今魔王編だけど!? ……16巻で綺麗に終わらせることができたらいいなと思ってはいますが、先行きは不透明ですね(笑)。

――設定もストーリーも、だいぶ濃密で盛りだくさんな作品ですからね(笑)。
榎宮:10年以上前の企画立ち上げのとき、最初の担当編集に「これだけのネタを遠慮なく使ってるけど大丈夫?」って聞かれました。でも自分としては、出し惜しみして面白くない作品ができるなら、ネタ切れを起こした方がいいぐらいのつもりだったんで、最初から16巻までいければいいなと思いながら詰め込みましたね。
だから13巻までこれて「我ながらこれはすごい!」「でも書く速度は遅い、そこはすごくない!」って気持ちです(笑)。でも今書いている13巻も面白いと思います。お待たせしていますが、たぶん……いえ、間違いなく面白くなります!!
――「チャレンジ」「挑戦」を考えている読者へのメッセージをお願いします。
榎宮:心の底から言わせてもらうと、生きることが一番のチャレンジじゃないですかね。胃がんで10年生存率70%と言われた身ですし、その後も色んな不調に遭っています。車にも何回か轢かれたことがあるし、頻繁に生死をさまよっているんですよね(笑)。だから、生きることそのものがチャレンジだと、身に染みています。
親父の言葉を借りると「人間が明日も生きているのは何の必然性もなくて、ただ偶然が重なって運よく人生続いているだけ」なんですよ。チャレンジが上手くいかなかったとしても死ぬし、何もしなくても死ぬときは死にます。普通に生きてて、チャレンジできることがあるなら、何もしないよりはいいんじゃないでしょうか。
だから「10年後も生きていよう」というのは、結構でかいチャレンジだと思うんですよ。「10年後も生きて、働いていたくないからそれまでにFIREしてやるぜ!」とかでも、すごくでかい挑戦だと思います。

榎宮祐(かみや・ゆう)
ブラジル出身の漫画家・イラストレーター・小説家。高校在学中にイラストレーターとして商業デビュー。2005年、漫画『エアリセ』(電撃コミックス)を連載開始。2008年より『いつか天魔の黒ウサギ』(著:鏡貴也/ファンタジア文庫)のイラストを担当。2012年、自身がイラストも担当する『ノーゲーム・ノーライフ』でライトノベル作家としてもデビューを果たし、瞬く間に人気作となる。
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