『空中分解』『テレキャスタービーボーイ』のすりぃがボカロP、作家、小説家、シンガーソングライターとなった理由【あなたの #チャレ活】

はじまりはニコニコ動画で耳にしたボカロの衝撃
――マルチクリエイターとしてご活躍のすりぃさんですが、そもそもこうしたカルチャーに興味を持たれたきっかけや幼少期の頃のお話を伺いたいです。
すりぃ:思い返すと小学校の頃から面白フラッシュみたいな感じで、個人クリエイターたちがいろんなパロディ作品を出していたんです。それこそインターネットの深海みたいな感じで面白い作品がいっぱいあったので、それを漁っていたことが今の僕の源流になっているように思います。
中学校の頃からクラスの友だちの周りでニコニコ動画が流行っていて。そこでいろんな動画を漁って、みんなで「この動画すごい」というものを共有していたのですが、その流れでボーカロイドに触れました。はじめはソフトが歌っていることに驚きましたし、僕が触れていた音楽のどのジャンルにも当てはまらない感じの音楽に衝撃を受けたのは中学時代の思い出です。
――その頃聴いていた音楽というと?
すりぃ:当時はテレビで流れるようなJ-POPを聴いていました。だから「こんな音楽があるのか」とびっくりしました。しかもキーが人間で歌える範疇を超えた曲もあったので、友だちとカラオケに行っては、誰が一番近い音で歌えるかと挑戦したりもしましたね。
――楽器を習ったりした経験は?
すりぃ:全くなかったです。ただ親がベースやアコースティックギターなどを持っていましたし、家では洋楽が流れていました。でも外国語の歌は歌詞の意味もわからなかったこともあって自分では聴いていなかったです。楽器をプレイした経験もないままに、中3の時にアニメ『けいおん!』がきっかけでバンドを組みました。これなら自分にもできると思って、ギターを持って、カバーをやりました。でも難しくて。アニメの主人公の唯ちゃんはどんどん上手くなっていくのに、僕はなかなかそうもいかなくて心が折れました(笑)。
楽曲を作りたい。その想いが繋いだボカロPへの道
――その後、ボカロPとしても活動が始まります。どのような経緯でしたか?
すりぃ:大学生でやっていたバンドが解散した時に、作家になろうと思ったんです。音楽で飯を食おうと思って、DTMの勉強を始めました。それまでボーカロイドに自分の作った曲を歌わせようと思ったこともなかったのですが、DTMを学んで、自分でも曲を作れることがわかったので、よしやろう!と始めました。
――マルチクリエイターであるすりぃさんはボカロPとしてその名が知られましたが、その後は楽曲を提供する作家として、アーティストとしての“モットー”を教えてください。
すりぃ:まずボカロについては、僕は人間が歌うことが出来ないような曲は作っていないんです。誰かが歌えるものを想定して曲を作っています。その当時は自分で歌っていなかったんです。バンドを組んでボーカルを入れると理想のキーで歌ってくれないし、これは歌えないとか文句を言われることもある。でもボカロはそんなことも言わずに歌ってくれるんですよね(笑)。自由に作って、それを歌ってもらえることが魅力でした。
だからモットーとしては、自分でも歌いたいな、と思う曲を作ることです。今は結局、自分で歌うようになりましたが、思うように歌ってくれる存在です。
――では作家として提供曲を作る時、そして一人のアーティストとしてのものつくりにおけるモットーを教えてください。
すりぃ:その方の要望や想い、アーティスト性や背景を入れることです。ボカロ曲では俯瞰で見た情景を歌ってもらっていましたが、自分の声で歌う曲についてはもっと狭く、主観的で、より内部から出てくる自分自身のことや他者との繋がりを意識した曲作りをしています。
――さらにご自身としてのライブ活動も精力的に行っているとのことですが、2年ぶりに開催される全国ワンマンツアー「火鳥」にも期待が高まっていますね。意気込みをお願いします。
すりぃ:この数年間、よく孤独について考えました。孤独とは一人ぼっちの時にだけ感じるのではなく、他者に理解されていない、分かり合うことができないと悲観的になった瞬間にも感じてしまう。
でも、孤独だからこそ自分自身と改めて対話ができる。受けた痛みがキッカケになって、優しさを身につけることもできる。火をまとった鳥。煌びやかで力強く飛んでいる姿は、人々を惹きつける魅力がある。その孤高の強さを身につけた過程には、孤独な自分と向き合ってついた様々な傷が痛々しくも美しく刻まれている──。「火鳥」には、そんな想いを込めています。
もちろん、単純に僕の音楽が好きでライブに来てくれるみんなのことも待っています。
自身の楽曲が小説に!? 音楽の幅も広げた新たな顔。
――そんなすりぃさんが小説「テレキャスタービーボーイ」を執筆されました。小説を書く作業はいかがでしたか?
すりぃ:音楽を作るのとも小説を読んで感じていたものとも全然違いました。同じくものを作っているようで、完全に違う脳を使っているような感覚でした。執筆と同時並行でライブ活動もあったので、ライブと小説を書く作業の、脳みその切り替えが一番難しかったです。
文章を書くことはグッと入り込む作業が多くて。自分の中からひねり出して書くということはクローズドな作業なのですが、ライブは逆に発散する作業。より広く届けるために感情的にならないといけなくて。その切り替えが本当に難しかったです。また内側に意識を向けていくという作業に戻るために、ゆっくりゆっくり潜っていくような感覚でした。

『テレキャスタービーボーイ』(著者:すりぃ イラスト:coalowl/MF文庫J)
――小説を書くことになったのはどのようなきっかけだったのでしょうか。
すりぃ:お話をいただいたことからでした。その前にも一冊、小説を出してはいたのですが、お声掛けいただいたので「ぜひ!」とお答えしました。
――書き上げて、発売された今。この執筆はどのような経験になりましたか?
すりぃ:まだ2作しか書いていないので、まだまだ未熟だなということを感じました。それから日常でどれだけセンサーを張っておくかが大事だなって思いました。些細な出来事でもセンサーを立てておくことによって、いろいろな捉え方が出来るなと思いましたし、こんな風な書き方をしたいということでも、センサーを立てていればよりいい形で表現が出来ただろうなと思うこともありました。将来に向けてもっと勉強したいと思いましたし、キャラクターを動かすことはこんなに大変なのかと思いました。
でもチャレンジして良かったと思いました。作詞などの音楽制作にも還元できますし、新しい表現を手にした感覚が強かったです。
チャレンジすることの意味。その魅力。
――今回、「メクリメクル」のテーマが「新しいチャレンジ」についてです。ここまでの経歴を拝見しても「新しいチャレンジ」を重ねていらした印象です。今後挑戦したいことを教えてください。
すりぃ:小説を書くきっかけをいただいたのもボカロ曲なので、作曲のためにも日常にアンテナを張っていないといけないなと思いました。小説は表現方法を広げてくれましたし、自分の内側から出てくる言葉にも影響を与えてもらったんです。両方にいい影響を与えてくれことでもっとチャレンジをしたいとも考えるようになりました。ちなみに今、新たにしたい挑戦はダンスです。
――ダンス曲を作るということですか? それともダンスを踊りたいと思っている?
すりぃ:踊りたいと思っています。ライブ活動もしていますが、マイク一本で歌う時にもっと他にも表現方法があるのではないかと思っていて。ダンスをやればリズムの捉え方も変わるだろうし、作る楽曲にも新しい扉を開くだろうと思って、ダンスを習おうと思っているところです。あとは既にチャレンジを始めているものとしてはドラムがあります。リズムへの解像度をあげたいと思ったので。体での表現についてもやっていきたいと考えています。
最近で言うとAoooというバンドを組んで活動も始めました。それも大きな挑戦でした。他にも写真に筋トレに……。たくさんのチャンネルが自分の中に出来ましたが、こうしたチャレンジが一年後、数年後の自分にどんな影響を及ぼすのか、楽しみです。
――チャレンジすることに躊躇がないんですね。
すりぃ:必要ならやろう、やりたいなら踏み出そう、とすぐに動くことは意識的にやっています。かつては挑戦を敢えてしないような、しょぼい自分でもあったのですが、立ち止まっていても仕方がないと思うようになりました。
それは歌うことを考えたこともなかった自分が、歌に挑戦をしたことがきっかけでした。『空中分解』という曲をセルフカバーしたことで、今に繋がっています。あの“歌ってみよう”という想いがなければ、突き動かされることに抗わなかったからこその今なので、思ったなら動こうという意識は常に持っています。
――では最後にいろいろなことに興味を持つことの魅力を教えてください。
すりぃ:視野が広がります。たとえば意見の対立する人の、一方の意見しか聞かないよりも双方の意見を聞いて考えることで自分の見る景色も広がる。チャレンジはそういうことに繋がると思うんです。全然関係ないと思っていても、さまざまことに興味を持って向き合おうとすればそれが自分の糧になる。音楽や小説の見え方も変わってくると思うので、いろいろなことに挑戦してもらいたいです。みんなが寝ながらアプリを開いている間にも僕は様々なことと向き合って吸収して、視野を広げています。

すりぃ
ボカロP、シンガーソングライター、作家。2018年3月3日にボカロPとして活動を開始。その後、数々のアーティストに楽曲提供を行ったり、自身もシンガーソングライターとしてオリジナルアルバムを発表したり、幅広い音楽活動を行う。
2023年にはバンド『Aooo』結成、2024年には自ら執筆する『テレキャスタービーボーイ』ノベライズを刊行した。
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●12/13(土) 石川・金沢AZ
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●12/16(火) 東京・EX THEATER ROPPONGI
開場18:00/開演19:00
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