『悪役家族』大黒尚人×『フルメタFamily』賀東招二スペシャル対談! ライトノベルで“家族”を描くということ(中)

大黒尚人×賀東招二 スペシャル対談インタビュー(中)
『Family』の宗介とかなめなんて、
イチャつきまくってるんだから。
―――そんな流れで、監修と著者という役割分担で『フルメタル・パニック! アナザー』が始まったということですね。『アナザー』のあとがきにも書かれていましたが、かなりのスパルタ教育があったと聞いています。
大黒:そうでした。
賀東:僕はアニメの脚本とかも書くから。アニメの脚本会議のことをよく「本読み」っていうんですけど、あの形式でやっていただけなんです。大黒くんが初稿(最初の原稿)を上げてきて、僕が修正を入れていく。それで書き直してもらって、二稿~三稿と。最初の頃はけっこう行ったよね?
大黒:たしか最初は十二稿まで行きました。
賀東:そんなもんだよ。スパルタなんていうけど、そこは仕方ない。ここをああしてこうしてとか言ってる間に、もっと直そう、いいものにしようってやっていただけでね。結果的に厳しくなっちゃったけど、そこはやっぱり妥協しちゃいけないんです。
大黒:いや、本当に勉強させてもらいました。
―――プロット作りはどんな感じでしたか。
賀東:プロットも大黒くんが作ったものに修正を入れて、ざっくりこういう話で行こうとか、舞台はここにしようとか。
大黒:最初の頃は、書いている巻の打ち合わせをしながら、次の巻の大まかな内容を決めていきましたね。
―――大黒先生は、賀東先生の教えの中でどういったことが勉強になりましたか?
大黒:たくさんありますが、その中でもこれだというなら、細かい文章作法ですかね。自分ではあまり意識していないところを指摘されました。とにかく心掛けるようにと言われたのが、体言止め(文を名詞で終わらせること)が多いから減らせということです。
賀東:アクションシーンで体言止めを使うとテンポが良くなるんだけどね。アクションがない平時のシーンでは使わないようにお願いしました。
大黒:それは今でも心掛けていて、体言止めはよっぽど印象的なところ以外は使わないようにしています。あと、すごく印象に残っているのが「言った」という表現についてです。
賀東:そのこと、僕はよく言うんだけど、たとえば「宗介は言った」の「言った」ね。何回も「言った」っていう表現を使うと、書いている側としては気分が悪い。だからつい言葉を変えちゃうんです。「言った」じゃなくて「喋った」とか「言葉を紡いだ」とかね。特に新人はその傾向が強い。でも結局「言った」なんですよ、全部(笑)。
大黒:そうですね。
賀東:だから腹をくくって全部「言った」と書けと。読者にとって1ページに「言った」が4~5回出てきたってそんなに気にならないですよね。誰が何をしたのかが分かればいいんだから。つまんない言葉遊びにこだわって、自己満足で終わらないことが大切。
大黒:賀東さんにはとても丁寧に分かりやすく教えていただけたと思います。
賀東:そうしないと使いものにならなかったんだよ(笑)。
大黒:あははは(笑)。
賀東:でも、アクションシーンはそんなに修正を入れなかった。やっぱり上手かったんですよ。
―――大黒先生はもともとアクションシーンを書くのが得意だったということで、何か影響を受けたものがあったのでしょうか。
大黒:時代小説が好きだったので、その影響があるかもしれません。昔から、歴史については興味があったので、そういう本を読むのも好きでしたし。
賀東:そうだったよね。そのあたりの知識とかは『アナザー』にも活かされてたと思う。
―――それで結果的に『アナザー』は、2011年から2016年までの5年間、全13巻の大人気シリーズになりました。
賀東:あれよあれよという間に(笑)。僕たちだけじゃなくて、メカデザインの海老川兼武さんと渭原敏明さんもフル回転でした。
大黒:『アナザー』のASが「ROBOT魂」でも出てましたもんね。それも、けっこうな数。
賀東:本当によく「ROBOT魂」で出してくれたよね(笑)。
大黒:それだけファンに支持されたということだと思ってます。

―――今回、大黒先生の新作『悪役家族』がめでたく刊行されることになりました。この作品を執筆するに至った経緯を教えてください。
大黒:『アナザー』のあと、色々と新作のプロットを編集部に出してはボツになるというのを繰り返していたんです。それで、しばらくふて寝状態だったときに読んだのが『フルメタル・パニック! Family』でした。『Family』では、宗介とかなめという、かつてのヒーローとヒロインが親世代になってるじゃないですか。そのあたりがすごく参考になりました。ボツになったネタの中に特撮ヒーローものの構想があって、このネタをもうちょっと上手く使えるんじゃないかなと。つまり、特撮ヒーローが活躍したあとの物語を書いたらどうだろうと考えたんです。
賀東:なるほど。そういうことだったんだ。
大黒:ヒーロー物の後日談みたいな形式でやったらどうかと提案したら、けっこう編集部の反応がよかったんですよ。
―――『フルメタFamily』が人気を博していたので、家族ものがライトノベル読者に受け入れられる空気があったということでしょうか。確かに、かつての『フルメタ』の読者は親世代になっています。
賀東:『Family』を書き始めたときは、そんなに意識していなかったと思う。そもそも短編を書いてそれでおしまい、くらいの話だったからね。
大黒:『アナザー』の始まりのときと同じだったんですね(笑)。
賀東:『フルメタ』がシリーズ25周年ということで、何かやってくださいって言われたんだよね。じゃあ子供を作ったことにしちゃえ、と(笑)。それで四季童子さんと急遽打ち合わせすることになって、そこからあっという間というか。結局スピード感が大事だということかな。でも、家族ものを書くのは難しい。独身の読者もけっこういるからね。宗介の友だちで風間くんっていたじゃない。彼を『Family』に出すとき、独身って設定にしたんです。そしたら、すごくホッとしたという感想をもらったりして。
大黒:ああ。なるほど。
賀東:独身の読者にとっても自分の居場所があるっていう感覚というか。そのあたりも考えて、家族ものは書かないといけないかもしれないね。
―――『悪役家族』が現在の設定になるまでには、どのような経緯がありましたか?
大黒:当初は、パパのユウマを元・怪人に、奥さんのレナを元・ヒーローにしていたんです。
賀東:あ、そうだったの? 僕はユウマが元・ヒーローで、レナが元・怪人の方が座りがいいなとか思いながら読んでた。
大黒:賀東先生とは発想が逆だったんですね。結局、編集部との打ち合わせを重ねて「両方とも元・怪人でいきましょう」ということになりました。
賀東:まあ両方ともキャラクターが立ってるからいいんじゃないかな。でもさ、ユウマとレナが6年間も一緒に暮らしてて何もしてないって、さすがにおかしくない?(笑)
―――たしかにユウマとレナはプラトニックですよね。
賀東:だよね。いいじゃん、もっとやっちゃって(笑)。『Family』の宗介とかなめなんて、イチャつきまくってるんだから。
大黒:なるほどです。
賀東:だからさ、アルフに言わせるんだよ。「弟がほしい」って(笑)。まあ弟でも妹でもいいけど、わがままで言ってる感じじゃなくて、本当に深刻に悩んでるぐらいのテンションで。そしたら「じゃあ作るか」ってなるから(笑)。
大黒:あははは(笑)。
賀東:でさ、まわりの大人たちも「弟を作るためにはこういうことを頑張らないといけないんだよ」ってアルフをたきつけて、たとえばニンニクエキスを二人に渡すとか(笑)。
大黒:なんと偏った知識を(笑)。二人が困るような発言をさせるんですね。
賀東:それで家族旅行とかに行ったときに、アルフはどっかに行っちゃうんだよ。「パパとママ、どうぞごゆっくり」って感じで(笑)。
大黒:空気を読むアルフ(笑)。それはすごく読みたくなりますね。
賀東:とにかく奥さんのレナをその気にさせないとね。ちなみに二人は同じベッドで寝てる設定なの?
大黒:まあそうです。
賀東:それで6年間、何もない? それは何か理由をつけないとおかしいよね。
大黒:一応、レナは最高幹部で、ユウマは彼女の護衛という立場だったので。それこそ、ユウマは『フルメタ』本編の宗介みたいな感じですね。
賀東:確かに。一緒に暮らし始めて最初の1~2年はそれどころじゃない感じはあるかもね。でも4~5年あたりになっても手を出さないなんて。そうだ。実は二人にはもう既に色々なことがあったんだけど、レナはそのときお酒を飲んでて、酒癖が悪いから憶えてないとか(笑)。
大黒:なるほど(笑)。
賀東:酒のせいで記憶がないんだよ。もう次から次へとアイデアが出てくるよ(笑)。あと、1巻の中でユウマがレナにプロポーズするシーン、ちょっとボカした描き方になってたけど、二人はキスしたの?
大黒:はい。してます。
賀東:本当? 全然描写が足りないよ! もっとエロくしないと(笑)。
大黒:すいません。ちょっと照れがあって(笑)。
賀東:せっかくおいしいところなんだから。読者はそこが見たいはず(笑)。もっとイチャイチャさせてほしいなあ。ぜひ次の巻に期待したい!
大黒:2巻が出たときは、二人のイチャイチャから始めましょうか(笑)。
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