『悪役家族』大黒尚人×『フルメタFamily』賀東招二スペシャル対談! ライトノベルで“家族”を描くということ(上)

大黒尚人×賀東招二 スペシャル対談インタビュー(上)
ちょっとした企画のつもりが、文庫で10巻を超える
シリーズになるとは思わなかったよ(笑)。
―――お二人の再会はお久しぶりだとお聞きしています。
賀東招二(以下、賀東):そうだね。
大黒尚人(以下、大黒):恐らく5年ぶりぐらいですか。
賀東:前に会ったのは確か謝恩会のときだから……。
大黒:新型コロナ禍に入る前ですよね。5年以上はお会いできていなかったのかもしれません。
―――久しぶりに再会されたお二人ですが、そもそもの出会いは『フルメタル・パニック! アナザー』でタッグを組むことになったことがきっかけですよね。
賀東:順を追って説明すると、僕は3年間だけファンタジア大賞(新人賞)の選考委員をやってたんです。実はあんまり性に合わなくてやるつもりもなかったんだけど、3年ごとに選考委員が変わる予定だと聞いて、それくらいの期間だったらやってもいいよと引き受けたんです。
大黒:そういう経緯があったんですね。
賀東:それで、僕が選考委員をやってるときに大黒くんが応募してきて。
大黒:『マルタの十字』という作品を書いて応募しました。
―――2010年の第22回ファンタジア大賞のときですね。
賀東:大黒くんの作品は最終選考まで残っていて、僕はけっこう面白いと思ったんだけど、全体的な意見としては他の作品の方がいいということになってね。それで、もったいないけど「さようなら」という感じに。
大黒:あのときは最終選考まで残っていたのにダメだったので、自分に作家の才能はなかったんだなと、かなり本気で思っていました。
賀東:大黒くん、すごくアクションシーンが上手かったんですよ。惜しむらくは、キャラクターが今ひとつだったんです。登場人物も多くてね。でもそこはまあ何とかなるし、アクションシーンはすごくきちんと描けていたから、もったいないなと。その頃、ちょうど『フルメタ』のスピンオフの企画が立ち上がって。
大黒:そうですね。
賀東:文庫として刊行するかどうかはまだ決まっていなかったんだけど、ドラゴンマガジンの連載企画でショートストーリーを載せようって流れになったんです。最初はそれくらいのイメージだったんだけど、いつのまにか当時の担当編集に乗せられて(笑)。いま、Mリーグ(麻雀のプロリーグ)の監督やってる人なんだけど。
大黒:麻雀! そうなんですね!
賀東:ちょっとした企画のつもりが、文庫で10巻を超えるシリーズになるとは思わなかったよ(笑)。

―――確かに『フルメタ』は完璧なエンディングでしたし、続きを読みたいと思うファンも多かったとは思いますが、賀東先生が続きを書かれるというのは……
賀東:続きを書くなんてとんでもないです(笑)。完結してからまだ日も浅かったし、精も根も尽き果てていたからね。
大黒:僕も『フルメタ』の大ファンで学生の頃からずっと読んでいましたけど、最終話は本当にすごかったですからね。
賀東:完全に編集の悪巧みのせいだよね(笑)。それで僕が監修に回って、実際に小説を書いてくれる作家さんを探したんです。色んな人が候補に挙がっていて、中にはものすごい大御所の作家さんもいて「こんなことお願いしたら殺されるよ!」とか言ってた。もちろんそんなことはしなかったんだけど、書いてもらうなら新人がいいだろうという話になって、そういえば最終選考に残っていた彼がいたな、と。それで大黒くんに声を掛けたのが始まりです。
―――大黒先生に突然『フルメタ』の話が来たということですね。
大黒:はい。当時、僕は長野に住んでいて、警備員の仕事をしながら小説を書いていたんです。最終選考まで行ったけどダメだったので、次の人生をどうするかなぁ、とか考えていました。そうやって日々を過ごしていたところに、いきなり電話が掛かってきて。確かそのときはお風呂に入っていて出られなかったんですけど、着信が知らない番号で、まさかと思って掛け直したら富士見書房(当時)の編集部で、思わずガッツポーズしました!
賀東:最初、大黒くんとはどこで会ったんだっけ?
大黒:たしか下北沢(東京・世田谷区)だったと思います。
賀東:ああ、そうか。下北沢のお店で会ったんだよね。初めて大黒くんを見たときは、貧乏くさいやつだなあと(笑)。
大黒:あははは(笑)。でも実際、本当に貧乏でしたから。
賀東:もうちょっと景気のいいやつが来ると思ったから(笑)。でも、そのとき会って、ダメそうな感触だったら、書いてもらうのを断ろうとも思ってたんだよね。
大黒:そうならなくてよかったです(笑)。
賀東:コミュニケーションが取りにくいタイプの人っているじゃない。そんな人に何回か会ったことあるんだけど、大黒くんはそういうタイプじゃなかった。
大黒:コミュニケーションが取れないタイプではないですけど、デリカシーはあまりなかったと思います(笑)。
賀東:それはそうだったかも。あ、今でもわりとそうだよね(笑)。
―――ライトノベルは、作家とイラストレーターの共同作業がマストですからね。
賀東:そうなんですよ、この業界は特に。でも共同作業が苦手な人も多いから、そのあたりは骨身に染みてるというか。当たり前のことが当たり前にできるスキルが必要なんです。あと、これは覚えておいてほしいんだけど、ヒットを飛ばしてる作家さんって、みんな常識人なんだよね。
―――たとえば編集者と意見が衝突したときも、ちゃんと考えを擦り合わせることができる人ですね。
賀東:そういうスキルが大事だと思う。
大黒:ということは、僕は大丈夫だと思われたんですね(笑)。
賀東:まあギリギリだったかな(笑)。
大黒:そうだったんですね。ギリギリだったんだ(笑)。
賀東:まあ大黒くんなら行けるかな、様子見でやらせてみるかな、という感じだったね。
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