三河ごーすと先生×上野壮大監督 対談③――MF文庫J『姉妹傭兵』発売記念特集

三河ごーすと先生×上野壮大監督 対談②/3
上野監督『姉妹傭兵』を推す!
――『姉妹傭兵』のお話もぜひ伺いたいです。

上野壮大(以下“上野”):ちなみに『姉妹傭兵』(フラットに連続して読む)で合っているんですか?
三河ごーすと(以下“三河”):『姉妹・傭兵』(「し」にアクセント)ですね。姉妹の傭兵ではなく。
上野:「姉妹」であり、「傭兵」でもある、すごくいいですね。
――最初に読まれたときの感想はいかがでしたか?
上野:めっちゃ面白かったです!!
三河:ありがとうございます!! よかった~(笑)。
上野:面白かったよ~というのをまずは伝えたくて! 好きなシーンがいっぱいあるんですけど、読んでいて触れたくなったんですよ。 戦争というものを前にしたときのあるべき顔で、凛子がしかめ面をしてみせた、あの眉が愛おしくてしょうがない。そこに凛子が詰まっていると僕は思っています。それぞれが本当に愛おしかった。スミスだってそうで、酔いつぶれたスミスが本当に可愛かった。読み終わったときに、『義妹生活』を読んだときに思ったのと近い、それぞれが愛おしいと感じられました。

三河:ありがとうございます。
上野:好きなシーンがいっぱいあるんですけど、初めて塹壕に入って見張りをしている時にバッタのことを思い出す、そこに『姉妹傭兵』が詰まっていると思っています。戦場の時間とそれまで生きてきた時間が等価になっていく、僕のフェイバリットなシーンなんです。伴名練さんの『なめらかな世界と、その敵 』という短編があって、並行世界を生きる人たちが普通であるという話なんですが、少女が右足と左足で並行世界を走っていくラストシーンが大好きで、ずっと映像で描きたいと思っているんです。それでいろいろ考えたときに二画面で映画を撮りたいと思ったことがあって、『姉妹傭兵』のあのシーンも二画面で撮ったらどんなふうになるんだろうと、ずっと演出を考えていました。
三河:『姉妹傭兵』でそういう演出を頭の中で浮かべてくれるところが、上野監督は信用できるなと思うんですよ。『姉妹傭兵』のこれがテーマですと打ち出しているわけではないんですけど、書いているときにかなり意識していたのが日常と戦場のリンクなんです。戦場って僕らが普段生きていて想像できるような場所ではなくて、ジャーナリストの方の映像とかでしか、見られない世界ではあるんですけれども、そこにいる人間も我々と同じ日常を生きているんですよね。そこにはその人自身の思い出があって、その人の視点で目の前の戦場と向き合っていると思うんです。凛子が素朴な少女なのもあって、本来であればもうちょっとシリアスに向き合うかもしれないけれども、ふと昔のことを思い出しながらバッタが飛んでそうという向き合い方をしていて。迷彩服を着て草原の中に潜んでいる兵士と、草むらに紛れているバッタって似ているよねという感覚、日常と戦場って遠いけど近いものもあることを描いていきたいなと思っていたんです。二画面で演出したいと言われて、描きたいと思っていることをちゃんと汲んでくれていると思いました。

上野:ともするとそれって倫理観の欠如でしょと言われることではあるけど、僕にはそれが切実であるし普通であるし、現代を映していると思ったんです。凛子って、表現するのが難しい、いそうでいなかった主人公像だと思います。
三河:一言で表現するのが難しいキャラクターだろうなとは思っていて。気が狂っているわけでもない。ただどういう倫理観で生きているのと疑問を持つ人も現れるとは思います。

上野:凛子はわからないことがとにかく多いんですよ。だけど、人間って自分のことだってわからないのに、凛子自身がわからないことがあったとしても何もおかしくない。小説であってもアニメであっても作劇を考えたときに、それってどうだろうって足を踏んでしまうことはあるんだけれど、日常を描く、生活を描くときにそれが普通じゃない? と思える。
三河:わかりやすく描くのであれば、このキャラクターは勇敢です、このキャラクターは臆病です、と書き分けるのが簡単なんです。凛子は戦場に行ってしまう時点で臆病ではないはずなんですけど、人並みに命の危機にビビったりもするし、自分なら大丈夫という能天気なわけでもないし、そこが掴みにくいところだと思うんですよね。人間っていろんな要素をちょっとずつ持っていると思っていて、例えば楽観的な人の中にも物事を真面目に捉えているところもあって、どこかのラインからは楽観的になるのがほとんどだと思うんです。凛子も彼女なりのラインはあるんですよ。これ以上いくと怖いとか、これ以上いくと怒るとか。でもこれ以上いかなければおおらかにも見えるし、これ以上いかなければ勇敢にも見える。そういう描き方をしたキャラクターです。
上野:『義妹生活』でもそうだったと思うんですが、キャラクターという型にはめていかない、だから愛おしいと思ったんだろうな。
三河:ありがとうございます。
上野: もうこういう話をしたくてしたくて(笑)。
三河: 嬉しい(笑)。
『姉妹傭兵』執筆の切掛け
――そもそも『姉妹傭兵』を執筆しようと思った切掛けはなんでしょうか。
三河:私は新作を書く時、「この作品を書くときはこういうことを実現しよう」というルールを、毎回自分に課しているんですね。『義妹生活』では実在感のあるものを書こうと決めて、物語の山谷がない、恣意的なものを入れなくても読者に面白いと言ってもらえること、架空の人物の人生を丁寧に描いていくことを目指していて、それは達成できた感覚がありました。『姉妹傭兵』ではテーマとして同じように解像度の高い人物が生きているかのような書き方を実現しながら、『義妹生活』では何冊も積み重ねてでしかできなかったのを、一冊の中に詰め込むことにチャレンジして、なおかつ現代という日常じゃなく、一段階架空に近いところに踏み出しています。
――読まれたときに『義妹生活』の後にこの作品が出たのは、驚きだったのかこうだよねだったのか、どうでしょうか。
上野:こうだよね、ですね。今おっしゃってもらったそのまんま、一歩進んで、でもそれが面白くてしょうがなかった。だから完結した美しさも良かったけど、先も読みたいなと感じました。このお話の続きもですが、もっと非現実性のある場所はいっぱいあると思うから、そこで生きる現実をどう描かれるのか考えると、これからの三河先生の作品が楽しみですね。
三河:「事実は小説よりも奇なり」と言いますけど、事実に近づいたら奇なりな小説を作れるんじゃないか、なんて考えています。
――凛子たちが悠太や沙季とすれ違っていても違和感がないです。
上野:というか(笑)。
三河:上野監督のリアクションの意味は、読んでもらえればわかります(笑)。
――『義妹生活』との共通点としては、凛子も家族の問題で欠落がありますが。
三河:欠落を抱えていること自体に意味があるというわけでもないのかなと思っていて、人それぞれ人生がある中で凛子はそういうふうに生きてきて、だからこういう性格になっている、 というだけでしかないんです。両親のエピソードが凛子に必要かというとそうではない、だから詳細には描いてないんです。凛子という人間が、どういうふうに成立して今に至っているのかの補足にすぎないというイメージですかね。
――『義妹生活』でも感じたんですけど、過去を無理に入れない、今を描いていますよね。
上野:『義妹生活』よりもじゃないですか? 僕はそれがよかったというか、面白かったというか。日常を描くってなんだろうと考えたときに、この子たちのフダンではないかと思います。えーっと普段じゃなくて。
三河:不断の?(笑)。
上野:そっちです(笑)。僕は持ち抱えているものでその人があると思っていて、どうやって持ち抱えているのか、忘れたいと思って持ち抱えているのか、解決したいと思って持ち抱えているのか、そのどれでもないけどただ持ち抱えているのか。凛子にはこれがいっぱいあって、だけど過去と現在が並列なんですよ。等価のものとしてあるから、いつもそれがぶつかって、彼女がどう抱えていたかが見えてくる。抽象的な言葉で言うと硬質な感じがして、それが良かった。そこに過度な修飾された物語がない、持ち抱えていたいわけでも、捨てたいわけでもない。でも、致命的なものに出会ったときにそれが牙をむく。
三河:人間を深く、生きているように、しかもいろんな人生を書きたい気持ちがすごくあって。生きているということは過去があるし現在があって未来があって、その他に本質みたいなものもある。本来こういう人間だったのが、過去にこんな出来事があった結果、現在こういう性格になりました、があるんです。我々も生きていて、過去のトラウマや嫌だった思い出があっても普段あまり思い出さない、基本は忘れているんですけど、ふとした瞬間に蘇ることがある。そういうタイミングだけ凛子も家での出来事を思い出す、くらいがちょうどいいと思っています。派手な伝え方をすると、わざとらしい。
上野:それは『義妹生活』のときから繋がる哲学なんじゃないかと思っています。この子たちが生きていると考えたときに、この子たちに対する敬意がある。アニメのときに僕も思ったことですが、この子たちの感情の中にズカズカ入っていけない。この子たちは生きていると、そういう傷に寄り添った物語であるのをすごく感じていたんです。それをないがしろにしない人が書いてくれているという安心がある、僕はそういうところが好きです(笑)。
三河:ありがとうございます(笑)。
上野:戦場と日常がない交ぜになっていく描写が多かったと思うんですけど、カウベルのシーンで逆転するじゃないですか。あれとかヒューって(笑)。でも戦場の中で生きるんだから、そうなっていくってことですよね。
三河:彼ら、傭兵もよほどの前線に行かないときには日常を過ごしているし、 四六時中戦っているかというとそんなこともなく、コンディションを整えながらやっていたりする。最新の装備を描く話もあると思いますが、僕は軍事的なものを描きたいわけではなく、現実的には最新の装備が揃っているからといって、現場がそれで回っているのかというと、決してそうではないと思うんです。傭兵が派遣されるような場所ってどういう場所か、傭兵の日常をしっかりと描きたかったんです。
上野:お給料のシーンとかね(笑)。
三河:そうなんです(笑)。いろんな記事や映像、実際に行った方の手記とかを参考にしたんですけど、意外とみんなお金で戦いに行っているわけではないとか、そこでしか生きられない人はいるよねとか、そこに切り込んでみたかったのはありました。
『姉妹傭兵』を映像にするなら

――『姉妹傭兵』をもし映像にするなら、難しいなと思ったところはありますか。
上野:いっぱいあります(笑)。映像にする上で難しいのは凛子との距離感ですね。カメラと凛子の距離感がとにかく難しいと思っています。わからないことが多い子なので、ともするとわかるように撮ってしまう。顔を描かないといけないんです、我々(笑)。その顔に勝手に表情だったり、意識だったり、物語を付与してはいけない、それはすごく難しいと思います。カメラの位置でも、つける音楽一つとっても、お芝居だってそうだし、凛子を勝手に描くことの恐れと向き合う難しさ。それは凛子だけではなく、全ての人たちが難しくなるんじゃないかな。けれど、それがこの作品をアニメ化する醍醐味なんだろうな。さっき言った二画面演出は絶対面白いからやりたいし、過去と現在と未来が等価になっていくのはやってみたいですね。マイク・ミルズ監督の『カモンカモン』という映画があるんですけど、消化できなかった過去と現在が等価にカッティングされていて、参考になるのかな。(舞台となっている)M国の光ってどんな光なんだろう、雨はどんなふうに降るんだろう、どんな匂いがするんだろう、どんな音がしているんだろうとか。そういうものをつぶさに観察して、彼女たちが生きた世界を発見し直して、もう一回そこに生きたものを表現するのが、きっと楽しいんだろうなと読んでいて思いましたね。
三河:難しそう(笑)。
上野:そう! 絶対難しい!(笑)。一ヶ月くらい僕、日本離れますって言うと思うんですけど! いってきまーすって!(笑)。
三河:(あの国)ちゃんと渡航できるかな(笑)。
上野:でもそれがしたくなる。音が気になって、 あの草原の音とか、森の木の洞の中とか、車の音とかね。ギミックでもあった訓練場でこういう音がしていてみたいな、距離感とかが映像に反映されたとき面白いと思うんだよな。
――また新しいチャレンジングな映像ができそうですね。
上野:小説だとSFばかり思い浮かんだかもしれない。『夏への扉』(著:ロバート・A・ハインライン)や伊藤計劃さんの『ハーモニー』が、思い浮かんだかな。
三河:そこを目指していたわけではないんですけど、実在感のある描写を突き詰めていこうとすると、だんだん筆致がSFに似通ってくるんです。SFってその世界の特殊性をしっかり描写するために、物語に関係ない描写もめちゃめちゃ入れなきゃいけないんですよ。だから結果的に筆致が似通うのはあるのかもと思っています。
ファンの皆様へ
――語りつくせぬところではありますが、今後の活動予定を伺います。
三河:引き続き『義妹生活』は続けていきます。今後ともよろしくお願いします。一冊だけでも読み応えのある作品は挑戦し続けたいと思っています。今はタイパとかコスパとか言われがちですけど、文字でしかできない表現、文字だからこそ輝くものに、自分の実力を試すように作品を作っていきたいと思っています。
上野:『死亡遊戯で飯を食う。』(著:鵜飼有志 イラスト:ねこめたる/MF文庫J)というタイトルを監督しております。デスゲームがある世界で、人が死んだり殺されたりがゲームになって、それで生計を立てている。そういう人がどうして生きていられるのか、そこでどうして生きるのか。そういう話を作っています。

三河:『死亡遊戯で飯を食う。』は僕も二巻に解説コメントを書かせていただいているので、よく知っている作品を信頼できる監督がやられるということで楽しみにしています。
上野:オファーをいただいたときに、僕はアクションとか人が死んだり殺されたりを見るのが苦手だった時期もあったので、できるかなと思ったんです。読んでみたら彼女たちの生活の話、生きることとは何だろうという話だったので、『義妹生活』の後にこれができるのがすごく嬉しいですね。今、真正面から向き合ってやっています。
三河:とても楽しみにしております。
――意外といえば意外ですね。
三河:僕は意外じゃなかったですね。もちろんジャンルは『義妹生活』と違うんですけど、根底に流れる思想は近いものを感じたんですよね。『死亡遊戯』も山や谷は少ない方なんですよ。世にイメージされる「いわゆるデスゲーム」とは読み味がすこし違っている。デスゲームだけど、あくまで彼女たちがその世界の中でどう生きるのかにフォーカスされているので、上野監督が担当されるのに納得して、絶対良い作品ができると思いました。
――最後にファンの皆様にメッセージをお願いします。
上野:『義妹生活』を楽しんで見てもらえた方には、『姉妹傭兵』を絶対に読んで欲しいです。日常って山も谷もない、取るに足らないものもあるかもしれないし、それが崩壊してしまった人もいるかもしれない。けれど、だからこそ、『姉妹傭兵』にある日常に触れてほしいとすごく思います。『義妹生活』を楽しめるってすごいことだと思っていて、それだけ誰かのことを想像して想って考えることができないと、きっと楽しめないんです。 それをできる人がこんなにもいっぱいいて、だから絶対『姉妹傭兵』も楽しめる。そんな人たちに贈りたい、素敵な本だなと思っています。
三河:二人の女の子の話ということでどんな内容を期待するのか、いろんな方がいると思います。それこそ百合好きの人とかもいるだろうし、戦争が題材なので軍事ネタが好きな人も興味を持つのかもしれない。そういうジャンルのつもりで書いているわけではないんですが、向き合ってはいます。ふんわりとライトノベル全体を好きな人も、一冊でしっかり描き切る、解像度を深く書いていく試み、そういう読書体験を楽しみたい方にもぜひ読んで欲しいです。架空の人物の人生に触れるという体験をしてくれると嬉しいと思っています。『義妹生活』の読者さんに対しては、 根底に流れている僕が大事にしているものは引き継いでいるので、きっと楽しんでもらえると思います。『義妹生活』の読者さんがニヤリとできるサービスも含んではいるので、楽しみにしていてほしいです。『義妹生活』の続きも秋ごろ発売予定です。今、頑張って書いていますので、よろしくお願いいたします!
――三河先生、上野監督、ありがとうございました。
取材・文●勝木弘喜
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