三河ごーすと先生×上野壮大監督 対談①――MF文庫J『姉妹傭兵』発売記念特集

三河ごーすと先生×上野壮大監督 対談①/3
初顔合わせの印象
――今日、お二人がお会いになるのはいつ以来ですか?
三河ごーすと(以下“三河”):プライベートでご飯に行ったりしているので、実は久しぶりじゃないですね。二、三ヶ月前かな。アニメ終わった後も仲良くさせてもらっています。
――逆に初めてお会いした時期は覚えていらっしゃいますか?
三河:アニメの企画が始まったときなんで、もうずいぶん前ですね。
上野壮大(以下“上野”):あれは何年前? 暑かったような寒かったような。
三河:(笑)。
上野:それすらも(笑)。2022年くらい?
三河:僕も、たぶん上野監督も今を生きるタイプの人間で、割と過去のこと覚えてないんじゃないかと(笑)。 エピソードは覚えているんですけど、具体的なあれ何日ですっけになると忘れちゃっているかも。
上野:顔合わせする会場の最寄駅を出て、その日話すことをずっと考えてたんすよね。お会いして、あれ話そうこれ話そうって考えながら歩いていて。もうそろそろ会場に着くかなと思って地図を見たら、会場と真逆の方に歩いていました。
三河:(笑)。
上野:いろんな話をしたけど、『義妹生活』だったから兄妹は他人の始まり、みたいな話をした記憶と、三河先生にすごく大きな器で受け止めてもらったのを覚えているかなぁ。

三河:僕はアニメの監督や制作会社さんと、アニメ化という機会で顔合わせするのは初めてで、緊張していました。どういうふうなスタンスで来られるのだろうか、とか。いろんな話を先輩作家さんから聞いていると、怖い、大丈夫かなと(笑)。
上野:はい(笑)。
三河:怖いなというのと同時に、原作者も怖がられる立場でもあると思っていたので、怖がられたくないな、普通にやっていただければいいな、威圧感とか出過ぎないようにしたいなと、ビクビクしながら思っていました。
上野:そうかー。
三河:映像の話もされていたような記憶がありますね。
上野:日記パートの処理の話をちらっとしていました。ジョナス・メカスの話もして、三河先生が「ああ、メカスの日記ですね」と言ってくれたのが、普通に通じてほっとしたのを覚えています。

©三河ごーすと・Hiten/KADOKAWA/義妹生活製作委員会

©三河ごーすと・Hiten/KADOKAWA/義妹生活製作委員会
三河:僕も元々映画が好きで、映画ってこういうところが面白いよね、こういうところがいいよねという、根っこのところに共通したものを感じて、これはもう全部おまかせして大丈夫なんじゃないかと安心しました。
上野:僕はそのときびびってました。
三河:(笑)。
――初顔合わせは馴染む感じと恐れる感じだったんですね。
上野:あの日、何に一番緊張していたのか、シリーズ構成の広田光毅さんもそうだと思うんですけど、「僕たちちゃんと読めているかな」が一番不安だったかも知れない。「ちゃんと『義妹生活』を読めているかな」と、何度もディスカッションして、これはこういう作品であるというのを、話していたんです。それがひとまず違うということはないらしいとわかって、ほっとしました。
三河:僕の立場だと、書いたものが本当に刺さっているのかわからないじゃないですか。アニメ制作側に、この作品のどこが面白いとか、どこが魅力なのかをわかってもらえているのか、アニメの監督や制作会社がどういうスタンスで作っているのかもわからない。違う文化すぎるので、お仕事だからという感じなのか、面白いと思ってくれているのか、どっちなんだろうというのもわからないので。上野監督は「ちゃんと読めているのかな」ってビクビクもあったと思うんですけど、こっちはこっちで「大丈夫かな、自分の作品しょうもないと思われてないかな」というビクビクがありました。
上野:二匹のハリネズミが会っていたってことですね(笑)。
三河:実はそうなんです(笑)。
『義妹生活』を読んだとき
――最初原作を読まれたときに、どう感じられましたか?
上野:最初から監督やって欲しいといただいたので、難しいが先行しちゃって。映像にするには、超えなきゃいけないものがいっぱいある。とにかくそれがファーストインプレッションです。でも、その<難しい>を一個一個解体していって「見たことないな、このアニメ」と思ったんですよね。
三河:映像化が難しいのは自分が一番よくわかっていたんですよ。自分も映像が好きで、映像作品にすることを想像しながら作品を作ることが多かったんです。けれど『義妹生活』で挑戦したことが、「小説に向き合って作る」で、これは映像には向かないだろうと思っていたんです。映像にすることを想定するのであれば、最初のタイミングでセンセーショナルな出来事を起こして、クリフハンガーで次のシーンに繋いで、ちょっと主人公を落として、ここで成長させて……それをこれくらいの尺で、というのを意識した方が良くて。そういった作為性をあえて入れないように『義妹生活』は作ったんですね。なので、この作品のアニメ化の仕方は簡単にイメージできますと言われたら怖いなという感覚があったんです。最初の打ち合わせで難しいと認識されているとお言葉をいただいて、逆に大丈夫だと(笑)。 その上で、ジョナス・メナス監督の例などを挙げていただいて、具体的なものまで見えていて、僕としてはその時点で信用度が上がるという感じでした。
――アニメ化の話が出たときは意外だったんですか?
三河:美しい話だけするんだったら意外だったんですけど、現実的な話をすると、これだけ売れていたらするだろうとは思っていました(笑)。
上野:正直(笑)。
三河:アニメ化の話が進んでもおかしくないぐらい、原作読んでくれている方が多かったので、驚きはないと言うと偉そうですけど。映像化するのが難しくて決まりませんでした、と言われても仕方ないとは思っていたので、アニメ化が決まってほっとしましたけど、絶対無理だろうとまでは思っていなかったです。汚い話ですね(笑)。
―― YouTubeでスタートして、メディアミックスと相性がよくアニメ化ありきかなと思っていたんですが。
三河: いや、全然決まってないです。YouTubeやっていたときはただただ自腹でYouTubeを運営しているだけです(笑)。
――YouTubeを立ち上げられたのはどうしてでしょうか。
三河:『義妹生活』の小説の内容を作りたいというところから始まってはいるんですが、山や谷を恣意的に作らないというのを意識していて、架空の人物の私小説を書いていくコンセプトで作りたいというのがあったんですね。そうすると、一巻の中で起こる出来事としてはそこまでセンセーショナルなことを起こしたくないと思っていて。読者がこの関係性の変化があったからこの作品は面白かったと思うような展開を一冊の中に詰め込むと、僕のやりたいことが実現できないんです。山・谷がないと読者は中途半端なものを見せられていると認識してしまうという感覚はあって、まずこの人物の日記であるだけで価値があると思ってくれる読者さんを最初の段階で確保したかったんです。悠太と沙季の物語なら山・谷があろうがなかろうが読めていれば幸せという読者さんが一定の数ほしくて、この作品はこれでいいんだよと言ってくれる人、作品のあり方を肯定してくれる人を作りたかったのが大きいですね。今までの評価基準と違うものを出してよくできてないだけのものと言われるリスクがあったので、そもそも違うものだよというのを見せたくてやり方自体を変えたという感じです。 生々しい(笑)。
――アニメ化が難しいとおっしゃっていましたけど、そういうところも関係してくるんでしょうか?
上野:そうですね。ただ、三河先生がそう仕掛けていただいているから、一定数原作のファンの方がいらっしゃったので。だから僕たちが最初の企画のときに考えたのは、まず読んでもらった人たちがどういうところに面白いと思って、どういうふうに愛していって、それをまず知って損なわないようにすることだったんです。だから、山・谷はもしかしたら大きくはないかもしれないけれど、それよりも彼女たちが生きた時間を丁寧に紡いでいくことに軸足をしっかり置いていいんだって、最初の段階から決断することができたのはかなり大きかったと思っています。もちろん大変ですけどね(笑)。
三河:ありがとうございます(笑)。
上野:アニメってデフォルメしていくことを突き詰めてきたメディアな側面があるので、そこには誇張があるんです。『義妹生活』の場合は普段やっているアニメよりも、リアリティラインを現実よりに近付けなきゃいけない。単純に言うと枚数がまずかかる(笑)。
三河:生々しい(笑)。
上野:多分二倍以上かかる。どうやったら表現できるか、そのための仕掛けは設計しましたね。
――そういうすり合わせがされたんですね。
三河:最初の段階で背骨を一本通せたのは良かったですね。それでも実作業ではもがき苦しみながら作られたのだと思いますが(笑)
上野:そうでしたね(笑)。シナリオもだいぶフィードバックしてもらいながら。
三河:そうですか? 的を射たものばかりいただいたんで、大丈夫だったことの方が多かったと思います。
上野:ありがとうございます。
――他に協力や一緒に作業されたことはあるんですか?
上野:シナリオ作業とアフレコですよね。
――アフレコ、毎回?
三河:たまに体調不良とかでリモート参加はあったような記憶がありますが、基本は参加させてもらいました。でもスタンスとしては、やはりアニメはアニメ監督やアニメチームの作品だと思っているので、アニメサイドがこうしたいんだという思いがあればやっていただくのがいいです。何か求められたら答えるスタンスでいました。
上野:それが本当にありがたかったです。僕も初監督作だったので、「この作品はこうです」とディレクションするにも勇気がいるので、それを背中で支えてもらっていたなというのはあります。
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