著者・ 築地俊彦への独占インタビュー! 『ガンダム』シリーズのパロディ作品を執筆する上での苦労とは?(中)

ガンダムオタクの女性が交通事故に巻き込まれ、気がつくとアニメ『機動戦士ガンダム』のキシリア・ザビになっていた。これで宇宙世紀(UC)も書き換え放題、まずはシャアに吹き飛ばされる運命を変えてやる! ……なんてことにはならず、むしろ正史を守るため奔走するという物語が、築地俊彦による小説『機動戦士ガンダム 異世界宇宙世紀 二十四歳OL、転生先でキシリアやってます』(矢立肇・富野由悠季原案)だ。
ガンダムオタクだけあって転生したキシリアは、世界が自分の知っているUCと違っていた歴史を、TVシリーズや劇場版の『機動戦士ガンダム』と同じストーリーに修正しようとする。悲惨な末路から逃れようとする悪役令嬢の逆を行く設定を、あろうことかガンダム世界でやってしまった前代未聞の小説がどうして生まれてしまったのか? 8月29日にスニーカー文庫から文庫版が登場する本作を書いた築地俊彦に聞いた。
取材・文●タニグチリウイチ
文庫版発売記念スペシャルインタビュー(中)
小説の中であまり説明していないのは、わかる人に
わかってもらえれば良いのかなという気持ちでやっていたからです。
―――本書のような、ガンダムの歴史を改編するというアイデアの作品はこれまであったのでしょうか?
築地:僕は見たことがなかったですね。架空戦記ものをよく書かれている林譲治さんがガンダムのノベライズを何冊も書かれていますが、内容を補完するようなものだったり世界をブラッシュアップするようなものだったりで、大きく歴史を変えるようなものはなかった気がします。
―――UCを変えるのは富野由悠季監督自身という事が多いですからね。『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』と小説版の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ベルトーチカチルドレン』(スニーカー文庫)は少し違ってますし、『機動戦士Zガンダム』も劇場版三部作のラストがTVシリーズと違っていて驚きました。富野監督による改変は何か意識されましたか?
築地:監督による改変をパロディ的に出すということを意識しましたね。キシリアが「クスコ・アルとかいない?」と聞くとか、「メディア対策はサスロが……いないから、誰か適任を探さないと」と言うとか。アニメの世界に小説版の話を混ぜて良いのか考えましたが、ガンダムファンなら気になっていることを、キシリアを通して盛り込むことで喜んでもらえると思って入れました。

―――ギレンの秘書のセシリア・アイリーンが井上喜久子声というのも……。
築地:ゲームの『機動戦士ガンダム ギレンの野望』で、セシリアの声を井上喜久子さんがやっているので書きました。そうしたところも含めて小説の中であまり説明していないのは、わかる人にわかってもらえれば良いのかなという気持ちでやっていたからです。小説が連載されていた「ガンダムエース」を読んでいる人なら、それくらい分かるだろうということもありましたね。
―――どこまでガンダムを見ているか,遊んでいるといった"ガンダム度”を計るモノサシに作品です。そうした一連の改変で、ここはうまくハマったと感じているところはありますか?
築地:上巻でダイクンが死ぬところで、加えてそれにパプティマス・シロッコが絡むところですね。ダイクンをエキセントリックな人間にできたことで一年戦争への道筋を作れました。シロッコは『機動戦士Zガンダム』の登場キャラクターですが、現実の世界から転生してきた人は、OVAや映画も含めてトータルにガンダムのことを知っているので、シロッコを出しても良いと考えました。読者の方がどう思ったかは分かりませんが、僕自身はやってやったぜと手応えを感じてます。
―――シロッコがどう絡むかは上巻のポイントですから、読んで確かめて欲しいですね。パロディでもメタ的な言及でも、どのようなネタを使うかでネタ帳のようなものを作っていったのでしょうか?
築地:ネタ帳というよりは、分厚い『機動戦士ガンダム 公式百科事典 GUNDAM OFFICIALS』を買ってですね、それを見ながら書いていたんですけど、途中で全部は読めないと思って、第1話から全話を見ていきました。その時に、劇場版で省略されたTVシリーズの話数を重点的に見返して、キャラクターの名前とかやりとりを取り入れましたね。TVシリーズが劇場版になる時にいろいろとカットされたじゃないですか。第14話の「時間よ止まれ」とか第15話「ククルス・ドアンの島」とか。そうしたエピソードが切られたことに言及して楽しませようとするところはありました。ザクレロのような変な顔のものがいなくてキシリアが文句を言うシーンとかもそうですね。

―――入れたかったけれど入れられなかったネタはありますか?
築地:オデッサのあたりを書きたかったですね。キシリアがマ・クベといっしょにアッザムに乗るシーン。あれをどうするか悩んだんですが、シャアが地球に降下するところか、キャリフォルニアベースでの話とか他のシーンを書きすぎてしまって、カットしたのは心残りではありますね。
―――逆手に取るようにキシリアに「あんな恰好いいのがどうしてカットされたんだろう」と映画版で出なかったことを言わせて残念がらせてます。そうした言及も含めて、すべてのシーンでガンダムをネタにパロディというかひねりが加えられていて、ずっと笑ってました。ネタを考えるのは疲れませんでしたか?
築地:結構疲れましたね。上巻は楽だったんですよ、まだ一年戦争が始まる前で、TVシリーズや劇場版を見返す必要がなかったですから。富野さんの小説版を読むくらいで済みました。下巻は映像と絡むので調べるのが大変でしたね。違っていたらいけないと映像を見返して確認していきました。
―――中身がガンダムオタクのキシリアが見て驚くほど、ザビ家の面々がアニメとはまったく違って笑いました。ギレンはどちらかといえば賢人でドズルは引きこもりでガルマは可愛い少年。それをキシリアがUCのとおりになるように煽るところが面白かったです。
築地:みな善人ですよね。そこからどのようにUCのようなキャラクターにしていくのかを考えました。キシリアを能動的なキャラクターにしなければいけなかったので、他の家族は真面目な感じになりました。
―――とは言え、コロニーに毒ガスを注入して皆殺しにしたり、地球にコロニーを落として大きな被害をもたらしたりしたら陰惨になり過ぎます。家族どうして殺し合うとかも。
築地:キシリアにはいちおうコロニー落としをしなきゃダメでしょうと言わせて、UCに近づけようとする設定は見せますが、だからといってそれを書くのはさすがに拙い。そこはだから変えました。
―――歪んでしまったガンダムの世界をUCに近づけていくというお題目を立てながら実は……といったあたりの絶妙なさじ加減が、本書を読んで楽しくて気持ちよいものにしてくれています。
築地:そ築地こをわかって戴けて嬉しいです。苦労したんですよ、ガンダムの史実がそうなっているからといって、キャラたちをそのとおりに描く分けにはいきませんから。ズムシティにあるジオンの訳の分からない庁舎は建てましたけどね。悪の組織なら建てない訳にはいかないと言って。そういったところはこだわりました。
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