往年の漫画作品の沼にどっぷりハマっているアニメ監督・新房昭之から、レトロ漫画の魅力をショートインタビューで語ってもらう本連載。第1回は、新房監督の漫画の原体験について、当時の思い出と共にお届けします。(毎月第2・4水曜更新)
『タイガーマスク』を読みたくて買い始めた『ぼくらマガジン』。その後どっぷり漫画の沼へ
――まず、新房監督が漫画にハマったきっかけをお聞きしたいです。漫画の原体験というと何でしょうか?
新房昭之(以降、新房):親戚の家で読んだ『少年サンデー』(小学館)の別冊か、なぜか実家にあった『伊賀の影丸』になるのかな……? そういった漫画を何度も読んでいました。あと、当時家の近所に唯一あった店が文房具と書籍が半々くらいのお店で。そこで小学館の学年誌を親に買ってもらっていたんですよ。その後に読み始めたのが『月刊ぼくら』(講談社)です。途中から週刊化して『週刊ぼくらマガジン』(講談社)になったんですが、そのまま購読していました。意識的に漫画を読み始めたのは、そのあたりからですね。
――『ぼくらマガジン』を買い始めた理由はありましたか?
新房:『タイガーマスク』(原作:梶原一騎 漫画:辻なおき/講談社)が連載されていたからですね。永井豪の『ガクエン退屈男』(講談社)なんかも連載されていましたけど、面白く読んでいました。そこからどんどん漫画にハマっていったんです。ただ、当時は小学生ですからね。お小遣い的にはそんなにいっぱい買えない。中学時代も『漫画アクション』(双葉社)を買って友達と回し読みしたりしていました。『漫画アクション』は、特に『嗚呼!!花の応援団』(原作: どおくまん 原案: 太地大介)が大好きでしたね。そこから23、24歳くらいになると、「なんとなく漫画はもういいかな」という気持ちになって、少し漫画から離れてしまっていた期間がありました。その頃に、永井豪作品などの買い集めていた漫画を一気に手放してしまって、後になって非常に後悔したものです。
――アニメーターは漫画を読む方が多いイメージがありますが、同業の方と漫画の話をされることはないんですか?
新房:学生の時からの友人とはよく漫画の話をしたりするんですが、同業者と純粋に漫画の話をすることはあまり多くはないですね。原作となる漫画を渡されたり、作品の参考になるからとすすめられたりはしますけど。
――新房監督はどれくらい漫画を買ったり読んだりされていますか?
新房:連続ドラマや映画の原作になっているような作品は手に取るようにしていますが、仕事もあるので、読む冊数は減ってしまいましたね。ただ、基本的には昔の漫画を古本で買ったり、新装版、完全版を手に取ったりすることが多いかもしれません。積んである本が膨大なので、それらも、すぐには読めないんですけどね(笑)。
――最近の漫画にはあまり手を伸ばしていないのでしょうか?
新房:最近は読む機会が減ってきていますね。流行りになかなかはあまりついていけなくなってきているのかな(笑)。昔の漫画は、背景も手描き文字も作者の個性が強く出ていて、そこだけ見ても誰の漫画かすぐにわかりましたが、最近はデジタル作画で背景まで仕上げてしまっている作品も少なくないですよね。もちろん良し悪しではないのですが、なかなかついていけないと感じる時があります。あと、昔と今の違いで言えば、男子向け漫画と女子向け漫画の線引きがなくなってきているような気がします。良くも悪くも、昔は分かりやすかったんでしょうね。それが、時代や読者に合わせて変わってきたのではないかなと思います。
■プロフィール
新房昭之(しんぼう・あきゆき)
アニメーション監督、演出家。2004年からシャフトを制作の拠点とし、主な監督作品に『ひだまりスケッチ』『〈物語〉シリーズ』『魔法少女まどか☆マギカ』『3月のライオン』など。2026年には総監督作品『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』の公開が控える。
【第2回に続く】
※記事内に登場する作品の著訳者などの表記は敬称を略している場合があります
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