2020年から刊行が開始され、2025年10月に大団円を迎えた角川ビーンズ文庫の人気シリーズ「異世界から聖女が来るようなので、邪魔者は消えようと思います」の著者・蓮水 涼先生が、「仮初め家族の溺愛調査 ~元騎士令嬢、初恋の魔術師と魔王の子を子育て中~」を2025年11月29日に発売! 多くの読者の心を惹きつけた物語の筆を置いてすぐのタイミングで綴る新しい物語は、聖女である姉の護衛騎士だった元男爵令嬢のイザベラが、その姉と魔王の子供を憧れの存在である魔術師・ヴァレルドと共に育てることになる、奇想天外な時間が始まるもの。
人気作となった前作への今の気持ちと幕を開けたばかりのストーリーへの思いを著者である蓮水先生に伺いました。
読者の皆様に出会えたことが嬉しかった
——2020年の刊行から始まった「異世界から聖女が来るようなので、邪魔者は消えようと思います」が大団円を迎えた感想を改めてお聞かせください。
蓮水 涼(以下:蓮水):一番は「寂しい」ですが、二番目の感情としては「ほっとしています」が当てはまるでしょうか。彼らの物語をずっと見守ってくださった読者様に、彼らの最後をしっかりとお届けできた安堵は寂しさの次に強いものでした。
——9巻の発売まで5年。この期間での印象深い出来事を教えてください。
蓮水:いろいろあるのですが、一番は読者様に出会えたことです。ファンレターをもらったり、SNSで感想をいただいたり、文学系のイベントで会いに来てくださる方がいたりと、嬉しすぎて最初はよく泣いていました。さすがにいつまでも泣くわけにはいかないので、もう泣きませんが(笑)。
——長く続いたシリーズの後の新たな小説を描く際のお気持ちを教えてください。
蓮水:ドキドキです。これに尽きます。しかも今回は書き下ろしです。前作のシリーズはwebである程度の人気をいただいていましたが、書き下ろしとなると読者様の反応が全くわかりません。そういう意味でもドキドキです。新たに生まれたキャラたちも大好きなので、今作もシリーズ化しますようにと祈りながら書きました。新しい彼らをたくさん書きたいですからね!

新たな物語のはじまりは……“物理的”に強い子が書きたい!
——「仮初め家族の溺愛調査 ~元騎士令嬢、初恋の魔術師と魔王の子を子育て中~」構想はどのように始まったのでしょうか。
蓮水:かわいい子どもちゃんが出てくるお話を書きたいな、という思いつきから始まりました。ヒロインは子どもちゃんを守れるくらい“物理的”に強い子がいいな、でもヒーローも強くあってほしい! みたいな感じで主要人物が決まっていきましたね。「家族」というよりは、「訳あり偽物家族」を書きたくて今作ができあがったのですが、だからこその温度感やドタバタ感を楽しんでいただけたら嬉しいです。
——姉至上主義の物理系令嬢と、弟のために頑張る苦労系魔術師の最強タッグという感情の動きも予測不能な2人によってページをめくる手が止まりません。この2人にたどり着いた経緯を教えてください。
蓮水:わー! 嬉しいお言葉ありがとうございます! 先述したように、ヒロインを物理的に強くしたので、ヒーローは物理以外で強くしようと考えた結果、魔術師になりました。ヒロインが姉至上主義になり、ヒーローが弟のために頑張る苦労系になったのは……実は私もわかりません。書いていたらいつのまにかこうなったのか、私が当時の自分の思考回路を覚えていないだけなのか……謎です。
——幕開けから「人間」、「異形」に囚われず、常に公平な目を持つ主人公・イザベラが印象的です。彼女という主人公の魅力をどう表現しようと意識されましたか?
蓮水:インタビューでこんな回答をしていいのかわかりませんが、特に意識はしていないです。ただ、日常生活の中で、我々はやはり「見た目」というものに多少なりとも左右されて生きています。もちろん私もその一人です。無意識のうちに自戒を込めたのかもしれません。あるいは、こう在りたいという理想をヒロインに写したのかなと、今は思います。
——クールな世話焼きヒーローと思われたヴァレルド。その実、ヒロインに惹かれていく中で、執着溺愛の才能が開花していきます。彼の熱を、そのクールな表面から描き出すのに心掛けたのはどんな表現ですか?
蓮水:これですね……実はヒーロー、最初はただの優しい男だったんです。前作のシリーズのヒーローが癖強すぎたので、今回は王道中の王道をいこう! と決めて執筆したのですが……まあ筆が乗らない。私は癖の強い男が自分で思うより好きだったようで、ただの優しい男を書くのは諦めました。そのため、ヒロインに惹かれる前の彼は当初想定どおりの優男ですが、だんだん私の癖が混ざり、やがて「ヒロインに惚れてから執着属性を開花させる」という私の中では新しいタイプのヒーローが爆誕しました。前作と同じ感じのヒーローになってしまわないように、いきなり私の癖を全開にしないようにだけは意識したかもしれません。それがいい感じに描写に反映されたのなら結果オーライですね! 要するに、ヒロインに惚れる前のヒーローは私の理性がまだ働いている状態で、ヒロインに惚れてからのヒーローは私の理性が消えて欲望に忠実になったという……なんかヒーローに謝りたくなってきました。
——2人を結びつけることとなる魔王の子・ルアンの魅力を届けるためにどのようなことを目指されましたか?
蓮水:とにかく「かわいい」を目指しました。電撃を放とうが風を起こそうが雷を落とそうが、意訳すると「でもかわいいから許しちゃう」と思ってもらえるような子を目指しました。そうすると、いっそ赤ん坊のほうが「仕方ないな」と許されるのでは? と考え、三歳や五歳などではなく、0歳に振り切った感じです。でも魔王の子なので、普通の赤ん坊とはやはり違います。賢いし空気を読みます。それもまたルアンの「謎」を高め、魅力となっているのだと思います。

読み進むほど魅了される物語のファクターについて
——先生からご覧になって、クールだけれど研究のこととなると夢中で話をするヴァレルドのような男性に思いを寄せる女性へ、どのようなアドバイスをしますか?
蓮水:待ってください、すごい質問きましたね(笑)。現代に変換するとつまり「クールだけれど好きなことは夢中で話す男性」ということですよね? そんな彼に想いを寄せる女性へアドバイス……。今作のヒロインは、ヒーローの好きなようにさせています。なぜなら好きなことに生き生きと目を輝かせる彼を見るのが好きだからです。一方ヒーローは、そんな自分が引かれるのではないかという不安を心の底では感じています。だからこそ、そんな自分を否定しないヒロインに安堵しました。誰だって自分の好きなことを否定されたら悲しいですからね。とりあえず、非人道的・誰かに迷惑をかける系でないのなら、彼の好きなことがなんであれ、否定しないで見守ってあげてください。ヒーローと同じ不安を抱える者からのお願いです(笑)。
——また、王宮敷地内の神殿や訓練場、魔術省など、ありありと目に浮かぶ描写でしたが、こうした建物や街の描写で意識されたことを教えてください。
蓮水:まずお礼を言わせてください。私、風景描写が苦手なのでそう言ってもらえて嬉しいです、ありがとうございます。やはり異世界ものは、普段日本で生きているとなかなかお目にかかれない街並みや建物が舞台になるため、風景等を想像するのは大変で、そのため写真集にはとてもお世話になっています。全く描写しないと読者様に想像してもらえないですし、逆に描写しすぎるとノイズになります。その塩梅はいつも大切にしていますね。
——そんな異世界の物語は倒されたはずの魔王と死んだはずの聖女の結婚と子どもの誕生、その子どもを預かったイザベラとヴァレルドが軸となる物語です。ここで背景にある魔王と聖女のストーリーも気になります。彼らの裏話を少しだけ教えていただけないでしょうか。
蓮水:これですね! スピンオフ書けるくらいこちらも物語として厚みがあり、実は初稿では彼らについて書きすぎて、主要キャラより目立ってしまったというやらかした経緯があります。裏話をちょこっとするなら、実は魔王は最初から聖女に目をつけていました。二人は敵として対峙する前からの知り合いだったのです。といっても、聖女は魔王を「魔王」と認識していなかったのですが。聖女が彼女だったからというのも、魔王が和平を望んだ理由の一つです。今は魔族の住む大陸で、聖女と、そしてツッコミ担当の勇者とも一緒に暮らしています。
——その物語を美しく表現された針野シロ先生のイラストはいかがでしたか?感想をお願いします。
蓮水:やばいですよね。まずカバーイラストから語ってよいですか? ぶっちゃけますと私、実はあまり人物の造形を具体的に想像して書かないタイプなのです。描写は最低限しかしませんし、書いているときも顔はぼんやりしています。だからイラストレーター様が描いてくださったキャラたちを拝見して初めて彼らの顔を知ります。今回も同じで、ラフが届いたとき、あまりにも幸せそうな「家族」がそこにあって叫びました。何よりルアンのかわいさですよ! 猫耳帽子もかわいい! そんなルアンを見つめるヒロインとヒーローの優しい眼差し! そしてヒロインの腰に回るヒーローの手‼ こんな爽やかな笑顔でちゃっかり腰に手を回しているのが最高に“きゅん”じゃないですか!? 挿絵もですね、ぜひ見てほしい。ネタバレになるので詳しく言えませんが、戦闘シーンの躍動感溢れるイラストは本当に素晴らしいです。これ! これですよ! ヒーローみたいな男性に想いを寄せている女性の皆様、こういうとき温かい目で見守りましょう。そうじゃない方も今だけは温かい目で見守ってください。
——では改めて「仮初め家族の溺愛調査 ~元騎士令嬢、初恋の魔術師と魔王の子を子育て中~」を発売した今のお気持ちをお聞かせください。
蓮水:とにかくドキドキです。まだドキドキが続いています。これまでも書き下ろしの新作を書かせていただくことはありましたが、今回はその中でも長編シリーズを書いていたレーベル様での新作のため、余計に緊張しています。一方で、新しく生まれた彼らの物語を少しでも多くの方に楽しんでもらいたいという気持ちも強くあります。彼らが今後読者様にどう愛されていくのか、見守っていこうと思います。
——物語が続いていくことを期待する読者へメッセージをお願いします。
蓮水:「仮初め家族の溺愛調査 ~元騎士令嬢、初恋の魔術師と魔王の子を子育て中~」をお読みになり、続きが読みたい! と思ってくださった読者様へ。そう思ってくださったことがまず何より嬉しいです、ありがとうございます! でも世知辛い世の中……続きを書くためにはあなたの“お声”が必要です。期待に応え、続きを書く準備はできていますので、ぜひそのお声を編集部に届けてくださると幸いです。最後の最後に俗っぽくてすみません。あるいは、この小説おもしろかった等、たとえばSNSでひと言だけでも呟いてくださると、感想に飢えた作者が見つけ次第「いいね」を押しにいくかもしれませんので、怖がらないでくださいね……!
取材・文:えびさわなち
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