【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファミ通文庫・11月30日刊行の『シートン動物戦記』(著者:芝村裕吏/イラスト:しずまよしのり)です。みなさんの感想も聞かせてください!
ゲラ(原稿)と共に渡されたあらすじには「快進撃」とあり、ついつい最近ありがちな、デクノボーみたいな無能な敵軍を易々と薙ぎ払っていくタイプの話を警戒してしまったが、読み始めるとずいぶん違う。敵は普通に味方と同レベルの練度だし、奇襲に成功しているし、何より数の差が圧倒的。時間稼ぎの捨て石覚悟で出撃したらさらにひどいことになり……。しかしそこから道が開けてくるのだからわからないものである。生き延びるためのハードルは最後まで高く、読み応え充分。
また獣人の設定が、従来の作品とは一線を画している。ケモミミや尻尾といった見た目、知覚や筋力など高い身体能力、でもそれ以外は人間と大差ない――そんな獣人が定番だが、本作品ではそもそもの精神構造からかなり違うと思わされる。多数派にして強い立場にある人間側が、共存なんてできないと切り捨て差別するのも、納得はしたくないがある程度理解はできてしまう。
そんな社会状況だからこそ、主人公シートンの姿勢もまた異色。そして「偽りのケモナー」だからこそ、獣人を冷静に観察して理解し活用するという展開にはかなりの説得力を感じた。部下や民間人を思う良心や非道な行為への罪悪感がないわけではないが、軍人としての振る舞い方を身につけているというキャラ造形も、物語をスムーズに進めていく。
始まった戦争がどうなっていくか、今回は存在のみ示された「勇者」が物語にどう関わるのか、獣人に伝わるかつての獣王「アリストテレス」とは……次巻以降へのフックが多く、先が気になる作品だ。
文:髙橋義和
ざっくり言うとこんな作品
1)天然の要害を通り抜けた敵国軍の奇襲によって、のんきだった国境警備隊は突如全滅の危機に。部下の人間たちが逃走するなど、圧倒的不利からもがいてあがいて戦い続ける。
2)見た目や身体能力だけでなく、メンタリティから人間とは明確に違う獣人。強いけれど軍隊で用いるには難が多い彼らを、困難な状況下でシートンはどう指揮するか?
3)嘘から出た実? とある理由から獣人好きを装っていたシートンは、部下の獣人たちの各種特性を活用して奮戦。獣人たちから尊敬を集めて、「獣王」と呼ばれ始める。
主要キャラ紹介

ゼフィール・フォス・シダーティガー・シートン
ミーデシア王国陸軍北部国境警備隊の中尉。「獣人好き」として知られ、出世コースとは無縁。獣人多めな部隊を担当させられる。

麦姫兵長
シートンの部下。混血が進み、犬耳と尻尾以外は人間的な容姿だが、人間のものの考え方についてはあまりわかっていない。

虎次郎軍曹
シートンの部下。虎の獣人。戦闘能力が高く、人間の軍隊というものをかなり理解している。シートンを高く評価している。
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関連書籍
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シートン動物戦記貴族の長男であるシートンは、ミーデシア王国でタブー視される「獣人好き」の噂を自ら立てて実家の家督を継がずに軍人となった風変わりな男。そんな彼が将校として率いるのは、差別された獣人が集中配備された敵国ミーデン共和国との国境の部隊だった。
平和ボケした空気が流れていた最前線だったが、突如敵国ミーデンの大軍が自国領内に侵攻。奇襲を受けた自軍は撤退を余儀なくされるものの、シートン率いる部隊の獣人たちはマイペースなまま。そして、この命懸けの撤退戦において、獣人たちの活躍こそが、シートン自身が生き残るための大きな命運を握っていた。
普段の「獣好き」の振る舞いからトラ系の虎次郎軍曹、イヌ系の麦姫兵長など個性溢れる面々の「獣心」を掌握していたシートンは、これまで見向きもされなかった獣人の戦闘能力を活かした大胆な戦いに打って出る――それこそが、後に「獣王」と呼ばれる男とその部隊の伝説の始まりだとは知らずに。発売日: 2025/11/29その他単行本