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【対談】ぶんころり先生×カントク先生|ぶんころり先生商業デビュー10周年記念大特集

MF文庫J
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2025/11/25

 ぶんころり先生の商業デビュー10周年を祝して、たくさんの方が駆けつけてくれました!  これまでの作品でイラストを担当していらっしゃるイラストレーターさんたち、ぶんころり先生と関係のある作家先生・憧れの作家先生、担当編集者などなど……今の「ぶんころり」があるのはこの方々のおかげと言っても過言ではないメンバーが勢揃い。

 対談1本目では、現在も大人気刊行中&TVアニメ第2期が2026年放送決定した『佐々木とピーちゃん』の原作イラストを担当するカントク先生にお越しいただきました。
 多様なキャラクターが数多く登場する本作のイラストを手がけるカントク先生の『ささピー』への印象は……?



佐々木はイケおじになるかもしれなかった?

――お二人が一緒に仕事をすると聞いた時のお互いの印象はどのようなものだったでしょうか?

ぶんころり:様々なお仕事を抱えてお忙しいカントク先生にイラストを引き受けていただけたことはとても嬉しかったです。社畜時代に仕事で疲弊していたころに『変態王子と笑わない猫。』を拝見してカントク先生が描く可愛らしいヒロインたちにとても癒されて救われていました。

カントク:ありがとうございます。ぶんころり先生の作品は、結構重い設定とかキャラクターもあるんですけど、文体の明るさでポンポンと読み進められてとても楽しく読むことができました。それでいて実際にお会いすると、すごく誠実な青春小説を書いていそうな雰囲気があったので意外さはありましたね。

――作品をイラストにする際に、ぶんころり先生からカントク先生にデザインの指定はあったりするのでしょうか?

ぶんころり:キャラクター表と呼ばれる、年齢や身長体重、頭髪などをまとめたものをお渡ししているのですが、細かい指定などはしていません。カントク先生から素晴らしいデザインをいただけるので、外見描写などはあらかじめテキスト側で修正できる部分を用意して、いただいたデザインに合わせてテキストを変更するという方針でやらせていただいています。

カントク:ありがとうございます。最近でも魔法少女のキャラは指定されているのが色だけなので、僕もかなり自由にデザインさせていただいています。

ぶんころり:先生が自由に描く魔法少女を拝見したいという一ファンとしての思いもこめてお願いしておりました。ただ、この形式で逆に迷惑をかけていたら申し訳ないなとは思っていたんですが……。

カントク:そんなことはないです。選択肢を狭められた方がデザインしやすい場合もあれば、あまり限定しないでほしいと思うこともあって一長一短なのですが、『ささピー』は楽しくやっています。

――主人公の佐々木は、いつもスーツ姿の中年ということで、新文芸では結構珍しい主人公だと思われるのですが、彼をイラストにする際にこだわった部分などはありますか?

カントク:僕の中で佐々木は、ちょっと疲れてるけどどこか愛嬌のある雰囲気にしたくて、じと目気味だけど優しい感じが出るように描いています。でも、一番最初の指定だと、メガネのイケおじ風にする案もいただいてましたよね。

ぶんころり:一番最初は仕事ができそうなメガネのイケおじを想定していたんですけれど、現在の佐々木のデザインをカントク先生が投げてくださって、「あ、まさしくこれだな」と。あのデザインで、自分の中でふわっとしていた佐々木のビジュアルが明確になりました。

カントク:イケおじの佐々木も描いてみたんですが、もうちょっと愛嬌のある中年おじさんにできたら、より主人公が愛される作品になるんじゃないかなっていう思いもありました。

ぶんころり:佐々木の名前をタイトルに入れて映えるようになったのはカントク先生のデザインが“愛され感”を与えてくれたからこそだと思います。


カントク先生の意外な苦手ジャンルとは……?

――佐々木とピーちゃんはいろんなジャンルを横断している作品ですが、そのデザインをする中で、これを描くのは苦戦したというキャラクターはいらっしゃいますか?

カントク:そうですね。魔法少女勢は最初かなり苦戦しました。デザイン自体も難しいうえ、スーツを着た現代キャラや異世界キャラが並ぶ中で、彼女たちをどう馴染ませるか悩んだんです。無理に馴染ませなくてもいいと分かっていたんですが、あまりに場違いなのも描きづらいと思ってしまって……。ただ今は吹っ切れたので、何色の魔法少女でも抵抗なく描けると思います。

――逆にすんなり決まったキャラはいますか?

カントク:特定のキャラではないのですが、異世界の男性陣は意外とすんなり描けますね。可愛いヒロインの場合、今まで手がけたキャラとの違いを出すために選択肢が狭まってしまうんです。けれど、異世界の人物を手掛けるのは今回が初めてなので、何を描いても過去の自分と被ることはないという意味で、新しいことを試しながら進めることができました。

ぶんころり:カントク先生はライトノベル以外でも多彩なフィールドでご活躍されていますが、ライトノベルのイラストを手掛ける際に他のお仕事と比較して特に意識している部分はありますか?

カントク:ライトノベルにおいては作品に合わせることを一番重きに置いてます。自分の画風を変えることはできないんですけど、構図の作り方やキャラデザで他の作品と差別化できたらいいなと思って描いてはいます。たとえば『ささピー』では男性キャラや人外のキャラも結構いるので、キャラデザの段階であまりデフォルメしすぎないようにしています。

ぶんころり:そこまで考えていただいてとてもありがたいです。現実世界を描くうえで、フィクションだからといってあまりデフォルメに寄りすぎてしまうと、作品の説得力が下がるのではないかと懸念が当初あったんです。でも、カントク先生の圧倒的な描写力のおかげで、自分の拙いテキストでも“現実と地続きの世界でキャラクターが生きている”と読者さんに感じてもらえたと思います。それが本当にうれしかったです。

カントク:僕の意図が上手く噛み合ったようで安心しました。『ささピー』のキャラはポップで特徴的なキャラも多いので、分かりやすくデフォルメが強い方がお好みかもしれないという不安もあったんです。でも本編は色んな世界を行ったり来たりするので、デフォルメを抑えめにした方が現代の描写が映えるのかなっていうイメージはありました。

ぶんころり:カントク先生には、美少女のみならずおっさんや動物に異世界の背景など幅広い対象をイラストにしていただいていますが、イラストを描くにあたって取材に向かわれたりはするのでしょうか?

カントク:基本的にネットで得られる資料でなんとかしています。『ささピー』で扱われる複数の世界観ってそれぞれ王道のイメージに沿って描かれて、その王道の世界観を一つにまとめるのが作品のテーマだと思うんですよ。

ぶんころり:そうですね、鉄板な世界観を重ねるように書いているので、汲み取っていただけてありがたいです。

カントク:なので、それぞれの世界は僕が今まで鑑賞してきた、「これぞ!」っていう作品のイメージのど真ん中で描けるので、特別な資料は必要がないんです。もちろん細部を突き詰めると必要になるのですが、それに関してはネットでなんとかなっていますね。
 ただSF要素が後半で入りますよとは当初から言われていたんですが、このSF要素がロボだったら詰んでいたかもしれない(笑)。実際にはUFO程度で済んだので、そこは非常に助かりました(笑)。

ぶんころり:当初SF要素担当の十二式さんが扱うギミックとしてロボットを出そうとも考えていたのですが、担当編集様とお話をした際に「その場合、専用にデザインを立てる人にも依頼する必要があるかも」と言われて、ちょっと僕もビビってしまいまして……(笑)。それでSF要素は美少女アンドロイドとUFOというところに落ち着きました。

担当編集:僕は渡された原稿を読んで「あれいつの間にかロボ要素がなくなっているな?」と思いました(笑)。

カントク:僕もロボットは描けるかどうかわからないですね。多分一回はチャレンジすると思うんですけど、それでダメだったら、担当さんに泣きついていたかもしれない。メカデザインっていうのはイラストの中でも特に専門職に近い分野なんですよ。

ぶんころり:やっぱり大変ですよね。ロボット要素は今後も控えておこうと思います。

カントク:でもロボを出すことで話が面白くなりそうならば……チラ見程度ならなんとか頑張ります(笑)。


表紙イラストへ見せるこだわり。そして最新刊表紙の謎の少女の正体は……!?

――カントク先生が本作で印象に残っている場面、そしてぶんころり先生がカントク先生が手がけたイラストで特に印象に残っているイラストを教えてください。

カントク:僕の中ではやっぱり3巻ラストの、複数の世界観のキャラが一か所でバチっと出会うシーン。あそこが個人的には最高でしたね。いずれそれぞれの世界のキャラが合流していくんだろうなとは思っていたんですけど、あのラストで合流するという引きがすごく印象的で、3巻は作品全体を通しても大好きですね。

ぶんころり:ありがとうございます。自身は、具体的に一つというわけではないんですが、各巻のカバーイラストが大好きです。大作映画のキービジュアルさながらの大変クオリティの高いイラストを毎巻描いていただいているので、それを拝見するのが『ささピー』を続けていく上で一番の楽しみですね。次の巻ではどんなイラストをいただけるのかと、毎回ワクワクしています。

カントク:とんでもない、ありがとうございます。

ぶんころり:本作は様々な世界観が入り混じった背景を持つ作品なのですが、毎回の表紙イラストで、それぞれの世界にキャラクターがしっかりと存在している“地続き感”があって、作品を書く上で大きな助けになっています。一枚一枚にとても多くの情報が込められていますが、どのくらいのお時間がかかっているのでしょうか?

カントク:カバーイラストは毎回ある程度覚悟をして取り組んでいるのですが、一週間ぐらいはかかりますね。

ぶんころり:カントク先生ほど多くの仕事を抱えていらっしゃる方が一週間も使ってくださるっていうのは本当に嬉しいですね、ありがとうございます。

カントク:でも、この作品にはしっかりと背景を描いてそこにたくさんのキャラクターを描いていきたいんですよ。1巻のカバーがあの形に決まった時点で、その後の方向性も決まっていきました。

担当編集:1巻のカバーは色々な方向性を模索してやっていましたね。最終的に決まった、中年男性である佐々木が一番前に出ていて、さらにキャラクターに影が乗っているのはかなり珍しいパターンだったなと思います。

カントク:最初は正直不安も強くありました。佐々木を大きく見せたいという編集さんの指定を優先しながらも、女の子も大きく見せたいという構図もいくつか提出したんですけど、その中から一番引きの構図を選んできたあたり、勝負をかけているなと感じました。

ぶんころり:表紙のシチュエーションや背景もカントク先生が決められているのでしょうか?

カントク:その部分は指定されていません。一応「どのキャラクターを出して欲しい」「何人までは出してほしい」とは言われるのですが、それ以外は僕が本編を読んでこのシチュエーションや場所を使いたいなと思ったところを構図に起こして確認していただくという流れです。本作の場合、基本的に佐々木が手前にくる構図なので、他のキャラクターを散りばめても似たような雰囲気になりがちなんですよ。それで毎回悩んでるところではあるのですが、最新刊は明らかに今までと違うので変化は出たと思います。

ぶんころり:毎回原作のテキストの内容をぎゅっと濃縮したような1枚にしていただいて、今回も魔法少女たちと背景のミサイルの対比が最高ですよね。ピーちゃんを肩に乗せた魔法少女の正体を予想しつつ、皆様にも楽しんでいただければと思います。
 本日は貴重なお話をありがとうございました。

カントク:ありがとうございました。


取材・文●柿崎憲


関連情報

カントク
イラストレーター。同人サークル「5年目の放課後」主宰として、主に同人を中心に活動している。
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