ぶんころり先生の商業デビュー10周年を祝して、たくさんの方が駆けつけてくれました! これまでの作品でイラストを担当していらっしゃるイラストレーターさんたち、ぶんころり先生と関係のある作家先生・憧れの作家先生、担当編集者などなど……今の「ぶんころり」があるのはこの方々のおかげと言っても過言ではないメンバーが勢揃い。
対談4本目は、『変人のサラダボウル』の著者であり、『西野』1巻で巻末解説を担当された平坂読先生をお招きいたしました。
もともとぶんころり先生のWeb小説を読まれていたらしく……コメディを得意とすることが共通点でもあるお二人の会話は必見です。
ぶんころり×平坂読が語るコメディの書きかた
――お二人は今日が初対面ですか?
平坂読:何度か出版社のパーティーなどでお会いしてます。
ぶんころり:私が会場でぼっちだったところ平坂先生が声をかけてくださって、「あぁ、一人でずっと過ごさずに済んだ」と、とても助けられた記憶がございます。本当にありがとうございます。
――平坂先生は『西野』の1巻に解説を書いておられましたが、どのような経緯でぶんころり先生の作品と出会ったのですか?
平坂読:ネット小説を結構読んでいた時期があって、『田中のアトリエ』を読んで面白いなって思いました。それからしばらくして、担当さんから「平坂さん、ぶんころりさんの新作あるんですけど解説を書きませんか」という依頼が来て書くことになりました。
ぶんころり:平坂先生の作品は学生の頃からずっと楽しんでいて、そんな憧れの方が自分の拙い作品を読んでくださっただけでも大変感激でした。さらに解説まで書いていただけるなんて想像もしていなかったので、『西野』の1巻が出た当時は、喜びと驚きでテンションがおかしくなっていました。
――お二人はコメディを得意とされていますが、ギャグはどんなときに思いつくのでしょうか。また、ギャグシーンを書くうえで意識していることはありますか?
ぶんころり:コメディは好きですが、ギャグシーンは少し苦手意識があります。狙って書くというより、キャラの動きから自然に面白くなるとうれしいな、という感覚で書いています。そういった背景もありまして、会話のパターンを事前にいくつか検討して、その中で一番いい感じになるものを探していくというスタイルで書いています。
平坂読:僕の場合は、普通に流れで書いてるので、別にこういうギャグを作品に入れようみたいなことは特に考えてなくて、本当に書きながら思いついたこと書いてる感じです。ただ流行りのネタみたいなのは見かけたらストックとして取っておこうと意識はしていますね。
――お二人の作品はヒロインたちがとんでもないシチュエーションに追い込まれるのも大きな魅力だと感じるのですが、ヒロインが苦しんでいる場面はどのような思いで執筆しているのでしょうか?
平坂読:キャラクターを辛い目に合わせるのはやっぱり好きですね。もちろん最終的に幸せにしてあげたいと思っていますが、いじめてる時はいじめてる時で「可愛いな」と思いながら書いています。
ぶんころり:自身の場合ですと、キャラを辛い目に合わせるのはちょっと苦手です。でも物語には山と谷が必要なので、ヒロインでもおじさんでもしっかりと浮き沈みを描いています。それと作品によって書こうとする内容が変わってくるので、『田中』や『西野』と比べると『ささピー』は少し大人しくなっているかもしれません。
平坂読:でも『田中』の頃のエグいぶんころり先生もちょっとまた見てみたい感じがあります(笑)。
ぶんころり:ありがとうございます。そう言われると使命感が湧いてきますね(笑)。
ぶんころりが考える平坂作品とキャラの魅力
――お互いの作品について、ここが凄い、ここが面白いと感じる場所はどこでしょうか?
平坂読:もう本当に作品そのものが面白いですし、刊行ペースも早くて、この分量の作品を定期的に刊行できるのはすごいなと、作家として尊敬してる感じです。
ぶんころり:大変恐縮でございます。平坂先生の作品は、作品を通じて読者を楽しませるんだっていう思いがいつも伝わってくるのが本当にすごいと感じています。怒涛の展開を次々と繰り出し、魅力的なキャラを時には崩して時には整えて、息をつく暇もないほどのスピード感で描いていく。ただひたすらに面白いものを追求する姿勢は、作家としてとても尊敬していますし、自分もこうあらねばと思います。それとこれはヒロインの話になるんですけど……。
平坂読:どうぞ。
ぶんころり:僕は『変サラ』でサラちゃんが大好きなんですよ。「のじゃロリ」系のヒロインってサブヒロインにはいても、メインヒロイン級で「のじゃロリ」のキャラは結構限られているじゃないですか。やっぱり平坂先生も「のじゃロリ」が好きなんでしょうか?
平坂読:「のじゃロリ」は僕も好きですね。
ぶんころり:僕自身が大好きなので、平坂先生もその仲間なのかな、なんて邪推しつつ読んでおりました。お伺いできて良かったです。
平坂読:ぶんころり先生とは『田中』の頃から、性癖が似通ってるとは少し思っていました。
ぶんころり:恐れ入ります。ありがとうございます。
――ぶんころり先生は自作にご自身の性癖を出されるタイプだと思われるのですが、平坂先生はどうでしょうか?
平坂読:僕もかなり出す方ですね。銀髪のキャラが好きで、どの作品にも大体銀髪キャラが出てきます。
ぶんころり:『変サラ』の銀髪キャラといえばリヴィアさんですが、リヴィアさんがお気に入りなのでしょうか?
平坂読:リヴィアはリヴィアで最近暴走しがちなので……どちらかといえばサラの方が好きですね。「のじゃロリ」もやっぱり好きですし、頭のいい子が好きなのかもしれない……リヴィアはちょっとおバカなので(笑)。
ぶんころり:最近もお馬さんに乗って大暴走されたり、いろいろとすごいですよね。
平坂読:自分でも書いていてちょっと制御できてない感じがあります。
――ぶんころり先生は本日の対談にあたって、平坂先生にご質問があると伺っていましたが。
ぶんころり:色々とお尋ねしてしまい申し訳ないのですが、一時期、ライトノベルではフォントを変えたり顔文字を入れたりといった、視覚的な演出がよく使われていましたよね。
平坂読:はい。
ぶんころり:僕もいつかはやってみたいと思っていたんですが、最近は業界的にその風潮もだいぶ控えめで、こうした表現の先駆者である平坂先生は現在どのように考えられておられますか?
平坂読:先駆者というほどのことではないとは思うんですよ。僕がやり始めたのも『スレイヤーズ』とかの影響で「フォントとはいじるものである」みたいな感覚が自然にあったので。でも今だと電子書籍で読まれる方が多くて、使っているアプリや端末によってフォーマットが全然違うので、やりづらくなりましたね。フォーマットが決まっている紙の本だと、「ページをめくったらこの文字がバーンって出る」みたいな演出をやれるんですけど、電子だと、人によって1ページの文字数とかも違うので、最近は全然やらなくなりました。
ぶんころり:なるほど。そうだったんですね。ちょっと考えが甘かったです。それでもイラストを使った演出はまだやられておりますよね。
平坂読:まだ紙の本でも出していただいてるので、ああいう演出の流れは絶やしたくないなと思っています。でも電子書籍で読むとフォーマットが崩れてるなって思う時はちょいちょいありますね。
――別のインタビューでぶんころり先生はイラストの指定などは特にしていないと言っていましたが、平坂先生はそういったイラストの指定はする方ですか?
平坂読:僕の場合は、イラストを入れる位置とかは全部自分で指定しています。だいぶ初期の頃から「ここにこういうイラストを入れて欲しい」とか「カラー口絵はこのシーンで」みたいなことを指定するタイプの作家でした。
ぶんころり:すごいですね。僕は絵心もセンスも壊滅的で、下手に口を出すとかえって悪い方向に転がりそうで……。
岐阜の話、そしてAIとの向き合い方。
ぶんころり:近年ではライトノベルのメディア展開にあたって、コンテンツツーリズムにも意識が向けられるようになってきました。『変サラ』では岐阜コラボも行われていますが、実在の地域を扱う上で気にかけている部分などはありますでしょうか?
平坂読:気にかけるというか「コラボしよう」みたいな色気はあえて出さないようにしています。下心みたいなのが滲み出てしまうと逆に引かれてしまうので、むしろ作中で岐阜の悪口を言ったりして、「コラボなんかしてくれなくていいよ」みたいな感じでやってますね。
ぶんころり:ファンの方々の感想を見ると「すごい岐阜愛が溢れている」っていう、肯定的なコメントが並んでいて、岐阜のことを深く知ってないと書けない内容だったんだなって、書籍を読み終えてから感心しました。
平坂読:岐阜愛というか本当に住んでいたからこそ、ただ良いところばかりじゃなく嫌な部分も含めて、良くも悪くも等身大の岐阜みたいなのを描けたのだと思います。
ぶんころり:ちなみに岐阜にはいつ頃ぐらいまで住まわれていたんでしょうか?
平坂読:高校卒業までは岐阜ですね。一度大学進学して離れたんですが、プロデビュー後にしばらくは岐阜にマンションを借りて住んでいました。それから『僕は友達が少ない』のアニメで忙しくなって東京に完全に引っ越しました。でも『変サラ』を書き始める際には改めて岐阜に行ったんです。昔とだいぶ様変わりしているので、新鮮な気持ちで取材させていただきました。
ぶんころり:コンテンツツーリズムに限らず、平坂先生は大ベテランでありながら常に新しいことに挑戦しておられます。そんな先生が最近興味を持っていることをお伺いできないでしょうか?
平坂読:最近は将来的にAIに取って代わられない仕事っていうのは何だろうって考えています。正直ライトノベル作家も取って代わられると思うんですよ。
ぶんころり:なにか答えは見えていたりしますでしょうか?
平坂読:それで人の手によるありがたみが一番感じられるものの中で自分が好きなものは何だろうと思うと、「料理かな」という結論になりました。
ぶんころり:ラノベからすごい飛びましたね!
平坂読:だから今は調理師免許を取ろうかなと思ってます。実は将来のビジョンの中にライトノベルがもうないんです。(※)
ぶんころり:僕も最近のAIは「これはちょっと怖いな、人間が負けちゃうのかな」なんて思いながら見ています。
――ぶんころり先生もAIが作家に取って代わると思いますか?
ぶんころり:将来的には分かりません。ただ、今はまだ結構ポンコツで、AIに文章を書かせようとすると、既存作品の有名なフレーズみたいなものをシレッと入れてきたりします。そういったリスクをどこまで取るのかが、AIに小説を書かせるうえで重要になってくるんじゃないかと思います。
平坂読:ただ、そうしたどこかから持ってきたような文章が混じっちゃう問題に対しても、今後それをチェックするためのAIができてくるんだろうなとは思います。AIが嫌いな人はたくさんいらっしゃると思うんですけど、好き嫌いは別として知識は持っておかないと取り残されてしまうとは思います。
ぶんころり:おっしゃる通りかと思います。ところで平坂先生はSNSでもひんぱんに料理の画像をあげられていらっしゃいますけど、毎日キッチンに立ってしまうぐらいに好きなんですか?
平坂読:そうですね、料理は好きだから作っています。飲食店の自動化もどんどん進んでいて最近はAIが考えたレシピも出てきたりしていますが、少なくとも自分が死ぬまでは料理が完全にAIに取って代わられることはないだろうなと思ってます。
ぶんころり:AIがキッチンに立つようになったら世も末ですよね。料理といえばこの前、平坂先生がピザ窯を購入されてしばらく、おびただしい量のピザの画像が連日にわたってSNSのTLに流れてきたんです。僕も影響されてピザを食べに行きました。最近は平坂先生の手料理の画像を見て、それをレストランで食べるというサイクルが出来上がっています。
平坂読:今度食べに来てください(笑)。
ぶんころり:ありがとうございます。ぜひご相伴に預からせていただけたらと!
※#ビストロ平坂 には夜な夜な業界の著名人が集まるという……。
取材・文●柿崎憲
関連情報
『変人のサラダボウル』(ガガガ文庫・小学館)著者。
2004年「第0回MF文庫Jライトノベル新人賞」において優秀賞を受賞、『ホーンテッド!』(MF文庫J)にてデビュー。
そのほかの代表作は『僕は友達が少ない』(MF文庫J)、『妹さえいればいい。』(ガガガ文庫/小学館)など。
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