ぶんころり先生の商業デビュー10周年を祝して、たくさんの方が駆けつけてくれました! これまでの作品でイラストを担当していらっしゃるイラストレーターさんたち、ぶんころり先生と関係のある作家先生・憧れの作家先生、担当編集者などなど……今の「ぶんころり」があるのはこの方々のおかげと言っても過言ではないメンバーが勢揃い。
対談5本目は、『転生したらスライムだった件』の著者・伏瀬先生にお越しいただきました。
伏瀬先生はぶんころり先生と同じくWeb小説連載からGCノベルズでデビューという共通点を持つ、いわば“同郷”。そんな同じ経歴を持つお二人だからこそのトークをたっぷりお楽しみください。
本日初対談! 二人の作家の意外な関係とは?
――伏瀬先生は2014年に「転生したらスライムだった件」でGCノベルズからデビュー。ぶんころり先生もその翌年に同じくGCノベルズから「田中〜年齢イコール彼女いない歴の魔法使い〜」でデビューしています。お二人とももう10年以上GCノベルズで活躍してますが、以前から親交はあったんでしょうか?
伏瀬:ここ一年以内にちょうど会う機会があってそれが初めてですね。
ぶんころり:そうですね。
伏瀬:ちょうど最近ある作家さんの提案で懇親会が開かれて、そこで初めてお会いしました。『田中』の印象とは全然違う、真面目な感じの人で驚きました。
――ぶんころり先生から見て伏瀬先生はどのような印象ですか?
ぶんころり:もう大先輩というイメージです。デビューの差は確かに1年なのですが、その1年が途方もなく大きいんですよ。『田中』があそこまで続けられたのは『転スラ』が売れていたから……って僕は勝手に思っています。伏瀬先生がレーベルの屋台骨をがっつりと支えていたからこそ、自分も安心して刊行できていました。お会いしてからもそのイメージは変わりません。
伏瀬:でも、連載開始はどちらも2013年ごろで近い時期に始まってますよね?
ぶんころり:Web連載はそうかもしれません。
伏瀬:連載当時は『田中』の方が話題になりやすかったので、僕は個人的に『田中』を目標にしている部分もあったんですよ。
ぶんころり:そうだったんですか?
伏瀬:物語を作るっていうのは、人に楽しんでもらってなんぼって僕は考えていて、そういう意味で話題になる作品はそれだけ魅力的ってことになるので、そういう点で『田中』は一つの目標でした。
ぶんころり:ものすごく光栄です。
Web連載だからこその苦労。作者を悩ませる意外な感想。
――書籍化される前のWeb連載時代の思い出などはありますか?
伏瀬:Web版の連載は最初に書籍の5巻分にあたるところで終わろうと思ってたんで、ぶっちゃけそれ以降の展開は勢いで書いてるんですよ。一日ごとに次の展開を考えないといけないし、先のプロットもないからアドリブと勢いで書いていたのがWeb版でした。
ぶんころり:書き溜めとかも一切なかったんですか?
伏瀬:ないですよ、そんなものは。
ぶんころり:それはすごいですね。作家の方には理解をしてもらえると思うのですが、書き溜めでなしで更新するっていうのは、もう綱渡りみたいな感じですよ。
伏瀬:さらに読者から「どうせ魔王レオンは負けるんでしょ?」みたいな感想が来るじゃないですか。それについ反発して本来の予定を変更して勝たせてしまうわけですよ。するとその翌日が本当に死ぬほど大変になる(笑)。それで昨日の自分をぶん殴りたいと思いながら新しい話を書きます。
――感想に応じて作品の展開を変更されたりもするんですね。
伏瀬:反映することもあれば、無視することもありますね。でも展開の予想が当たってるからって、反発して内容を変えてしまうと一番苦労するのは自分なので、当たっている予想に対してはスルーするのが正解かなという悟りを得ました。
ぶんころり:そうですね。自分も当たっている展開予想については見なかったことにしようと思っています。これに突っ込んでしまったら作品が崩壊してしまう……。
伏瀬:気にしないようにしても気になるので、展開予想だけは本当勘弁してくれよって思っていました。予想が外れてたら笑えるんですけどね。「何言ってんの、ふふ」って笑えるんですけど、当たってるときはちょっとまずい。
ぶんころり:丁寧に読み込んでる読者さんの方が、こちらに与えるダメージが大きいんですよね(笑)。ところでキャラクターの名前をつける時に、海外だとどう響くかわからなくて怖かったりするのですが、伏瀬先生はどうでしょう?
伏瀬:外国風のネーミングに対して「こんな名前は実在しない」みたいな意見をみかけると、作ってる側は大変なんだよ……という辛い気持ちになります。それと「アビゲイルは女性名なのに男につけている」みたいなツッコミが入っているのをみると、自分も間違ってないかなって、わざわざ調べ直して二度手間になってしまうってこともあるのでネーミングは本当にめんどくさいですね。
――ぶんころり先生は『田中』では一部のキャラに尖った名前をつけていましたが。
ぶんころり:海外展開は全く考慮していなかったので……(笑)。あの頃のマインドは封印いたしました(笑)。今は清く正しくやっております。
――お二人が作品を書く上で、これは欠かせないというものはありますか?
伏瀬:色々な機材を買って試してみてはいたんですけど、やっぱりパソコンで執筆するのが一番落ち着きます。ただiPad miniはギリギリいけるという感じだったので、新しいiPad Proでの執筆は試してみようと思っています。
ぶんころり:ご自宅以外の場所で執筆されることも多いんですか?
伏瀬:最近は家ではなかなか集中できないので……Webに投稿していたころは趣味だったし、仕事の合間に書いていたので自宅でも凄く集中して書けていたんですよ。でも実際に小説を書くのが仕事になって「執筆だけしてろ」って言われると急にやる気がなくなっていくんですよね。なのである程度人目があるところで書くようにしています。
ぶんころり:僕は全く逆で、人目があるとどうしても書けないんですよね。なので、自宅にこもってパソコンの前で書いてます。あと以前に腰をやってしまったので、椅子や机にはこだわっています。
人気作家はスランプとどう向き合っているのか?
――Web投稿時代と現在で執筆ペースは変わったりしましたか?
ぶんころり: Web時代も今も一定の分量だけ、ちくちく書き進めていくタイプです。翌日に手をつけやすい状態で執筆を切り上げると、次の日も気持ちよく書き始められるので、「明日はここから書こう!」って思えるようなシーンで終えることを昔から意識しています。
伏瀬:『なろう』に投稿していたときは感想が来るからめちゃめちゃやる気になるんですよ。そろそろ投稿しないと今日の更新が間に合わないと、目の前の締め切りに迫られながらやっていましたが、今は締め切り日から逆算して1日何文字書けば間に合うっていうのを計算して、当然サボる日も考慮に入れて毎日のノルマを決めています。
――ノルマとは関係なく、今日は調子がいいからいくらでも書けるんだみたいな時もあったりしますか?
伏瀬:たまにありますね。これは体調とかよりも書いているときの内容の影響が大きいです。逆にもう書けないっていう時もあって、「せめて1文字でも書こう!」と思いはするけど、いくら絞っても無理なものは無理だから諦めるってときもあります。
ぶんころり:わかります。
伏瀬:でもそのスランプって、そもそも次の展開をどうするか悩んでいる時なんですよ。そこで無理に書こうとしてもどうせ後で消してやり直しになっちゃうんです。だから開き直って、漫画を読むなり他のことをしてる時の方が、頭が勝手に考えてくれるだろうって思っています。
ぶんころり:自身も書けない時はテキストエディタから離れて、漫画とかアニメとか色んなものをインプットすることにしています。
伏瀬:そうそう。そうするといい展開が思いつくんですよ。というか僕の場合、書くべき展開自体は思いついているんですけど、こっちのルートや他のルートを通るのも面白いんじゃないかって悩んでしまうんです。だから僕にとってのスランプは、複数の展開の中でどれを選ぶのが正解か決めてきれていない状態なんです。
ぶんころり:それは凄いですね。僕は伏瀬先生みたいに複数の展開を思いつく境地まではいってなくて、物語を進めるためのキーが足りていなくて悩むことが多いです。「このまま書いていても面白くならないぞ」と感じた時には、足りないキーを求めて散歩に行ったりとか、お風呂に入ったりします。
伏瀬:本当に悩んだ時は、担当編集であるIさんに電話して、「ちょっと今スランプなんですよねえ」って軽く雑談から入ってから、考え中の展開を一方的に話してから「あ、これにしよう。もういいわ」っていうふうに勝手に切り上げたりもします(笑)。
ぶんころり:(笑)。
伏瀬:あっちはあっちで「いいじゃないですか! それでいきましょうよ!」って言ってきて、僕が「聞いてた? 本当に話聞いてた?」って確認すると「僕はもう伏瀬さんを信じてるんで!」みたいなこと言い出すんです(笑)。なので、多分別の仕事をしながら適当に聞き流してたなって内心で疑っています。
GCノベルズ担当編集I:ちゃんと聞いてますよ(笑)。
伏瀬:そんな感じで、人に説明してる間に自分の中で勝手にまとまることもありますね。
大きな節目を迎えた二人の今後の目標。そして意外過ぎる計画とは……
――ぶんころり先生は昨年『田中』を完結させて、今年でデビュー10周年。伏瀬先生は今月発売の『転スラ』23巻がいよいよ最終巻と、二人とも大きな節目を迎えるわけですが、今後の目標などはありますか?
伏瀬:そうですね、小説という形になるかはわからないけど、別の作品も始めてみたいとは思っています。あとは『転スラ』の番外編で書き残したことが大量にありますし、23巻を書き終えた直後に、「エピローグもう少し読みたいですね」とすでに言われているので、『転スラ』の方もまだまだ書いていきます。
ぶんころり:最近は出版不況もあってライトノベル市場にも陰りが……みたいなネガティブなニュースを聞くのですが、「そんなことないよ、ライトノベルはもっと頑張れるんだよ」っていう気持ちが自分の中にはあるので、市場をもっと広げられるような作品に携わってライトノベル業界に貢献したいっていう目標を持っております。伏瀬先生は市場の拡大に大変貢献なされているので、つまり僕の目標は今目の前にいらっしゃる感じですね。
伏瀬:(笑)。それと目標とは少し違うんですが、昔と比べてやっぱり趣味が仕事になるのって大変なんで、また執筆を趣味に戻してみたい。ペンネームを変えてなんにも責任感のない作品をこっそり書きたいって考えたりもしますね。でもこれを「小説家になろう」でやろうとすると二重アカウント扱いになってBANされちゃうんですよ(笑)。
ぶんころり:Web連載は読者さんとの距離が近くてコミュニケーションも取れるから楽しいんですよね。なので、今の伏瀬先生のお話を聞いて、心の中で「それだ!」「それだ!」ってボタンを押してました(笑)。
――ちなみに趣味で書くとしたら、どういう作品を書いてみたいですか?
ぶんころり:まだ女性主人公の作品を書いたことがないので、是非挑戦したいと思っています。
伏瀬:みんな同じこと考えますよね(笑)。僕も次のやつ女性主人公で行こうと思っています。
ぶんころり:本当ですか! めちゃめちゃ読みたいです。
伏瀬:でもそのためには別アカウントが必要なんですよね。お願いして作らせてもらえないかな……まあ僕は完結したんで、これからはふわふわタイムでのんびり老後に備えていくので、ぶんころり先生はがんばってください(笑)。
ぶんころり:ありがとうございます(笑)。
取材・文●柿崎憲
関連情報
『転生したらスライムだった件』著者。
2013年よりWeb小説投稿サイト「小説家になろう」にて同作を連載開始、翌年GCノベルズよりデビュー。
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