【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はドラゴンノベルスから11月5日に刊行された『星天 天才囲碁少女、異世界で無双する』です。みなさんの感想も聞かせてください!
マンガやアニメで『ヒカルの碁』(集英社)という作品が人気になって囲碁が大流行したのがいつだったか調べたら、もう四半世紀も前のことだった。令和の今では藤井聡太さんの活躍もあって、将棋の方がやや盛り上がっているような印象も受けるくらいだ。
そんな時代に、颯爽と現れたのが本作である。囲碁がテーマの小説ということで一見すると敷居が高いように思われそうだけど、ページを開いて物語を追い始めたらそんな心配なんてすぐ吹っ飛んでしまう。異世界転移ファンタジーという一つの型の中に落とし込まれた展開は、読みやすさにすごく寄与しているし、何より囲碁という盤上の戦いを通じてキャラクターたちが命や信念を懸けて躍動していく様は、囲碁のことを何も知らなくても頭脳バトルやバトルファンタジーのようなアツさを感じさせてくれた。

天才棋士を驚かせるくらい強かったのに病気で死んでしまった少女が、転生した異世界で男しか打っていなかった囲碁で勝ちまくる。しかも舞台は囲碁で揉め事を解決する異世界。現実とは異なり文字通り命をかけた勝負に臨む様には手に汗を握るし、すごくハラハラとした。
現世でも当たったことのないハメ手を使ってくる相手に星天がどうやって逆転するのかなんて状況にヒリヒリし、そこで繰り出される直観からの妙手にこれぞ天才といった興奮を味わえる。相棒の鳴良が見せる、星天の敵を攻め潰す棋風とは違った一手一手を計算し尽くし、最後に半目でも上回って勝つようなギリギリの棋風も実にスリリングだ。まさに盤上の格闘技。
トビとかツケとかハネとか囲碁の専門用語も出てくるが、用語解説が親切についていたり、そもそもそんな言葉を覚えなくても雰囲気で楽しめてしまうくらい見ごたえのある描写はお見事の一言。
ルールや用語なんて知らなくても星天が次から次へと技を放ち、追い詰められても最後に起死回生の必殺技で大逆転する格闘ものだと思えばしっかり面白い。白棋士の序列上位に並ぶ財全だとか快燕といった強者たちに挑んでいく展開も格闘ものの醍醐味そのもの。一読すれば自分でも囲碁を打ってみたくなる前代未聞の囲碁ラノベだと思う。
この作品が新たに、誰かにとっての『ヒカルの碁』になるかもしれない。
文:タニグチリウイチ
ざっくり言うとこんな作品
1)「石(あなた)を殺して私は生きるよ」という超クールな言葉を吐く少女が見せる、命がかかった囲碁の勝負に真っ向挑んでどんな強敵も打ち負かしていく無双ぶりが最高!
2)攻めまくる星天とは対称的に一手を吟味し局面を計算し尽くして打つ鳴良の緻密な碁もスリリング。棋風が違う様々な棋士が打ち合う様はまさに囲碁による大武闘会!?
3)女性には囲碁をさせない世界を少女の星天が強さで突破し、娼館の女性たちが習った囲碁で男たちを翻弄していくなど、痛快すぎる成り上がり要素が盛りだくさん!
主要キャラ紹介
星天
病死がきっかけで異世界に転移した中学生棋士。現世では囲碁の対局に勝ち続けた伝説の少女であり、転生した異世界でも強さを見せ周軒の食客になる。

周軒
有力藩主の跡継ぎ。星天の実力を買い、生活の面倒をみることを条件に、星天を他藩との揉め事の行方を決する棋礼戦へ誘う。

鳴良
囲碁が強いと評判の壮三兄弟、末弟。攻めで押し切る星天と違って半目を読んで打つ緻密な棋風の持ち主。星天も認める実力者。

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