【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は角川文庫から11月25日に刊行される『袖の香はひそやかに薫る 平安身代わり恋ものがたり』(著:深山くのえ、イラスト:鴉羽凛燈)です。みなさんの感想も聞かせてください!
恋愛と香りには切っても切れない関係がありますよね。ただの友だちと思っていたはずなのに好きな香り(体臭)を感じた瞬間、その人のことが気になり始めたり、雑踏の中で元彼・元カノの香水の匂いがして切なくなったり……。そんな経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか?
本作の舞台は平安時代の後宮です。「身代わり」として政略結婚させられそうになる女官の麗子と、没落貴族の跡取りである季時。ふたりが急接近するきっかけとなり、物語の鍵を握るのが、香り(薫物・たきもの)です。薫物とは、複数の香原料に蜜を加えて練り合わせた練り香のこと。
互いの香りも好ましく、両想いであることは明確なのに、恋愛経験がなく自己肯定感も低い麗子は「好きかどうかわからない」と答えます。そんな彼女に対し、季時が「これは嫌ですか?」と尋ねながら「頭ポンポン」をしたり、ハグしたり、キスしたりと優しく触れていく。嫌じゃない=好きだと教えるのです。
「好きな人にしてほしいこと」ランキングで上位に上がりそうなことばかりで、テンション爆上がり! 胸キュンは最高潮に達しました。けだし、名シーンです。
本作はまさに「平安シンデレラストーリー」と言えるでしょう。けれど、麗子は男性の迎えを待っているだけではなく、自分の力と知恵で運命を切り拓いた、たくましいヒロインでもあります。共感とともに多くの気づきを与えてくれた1冊でした。
恋愛小説にとどまらず、後宮の政治的な陰謀や、麗子の持つ「ある秘密」といった要素が絡み合い、ミステリ小説としての一面も。権力争いや人間ドラマが好きな人にも大いにおすすめできる作品です。
文:高倉優子
ざっくり言うとこんな作品
・政略結婚の身代わりとして出会った、偽物同士の二人の間にいつしか芽生える本当の恋は胸キュン必至!
・虐げられて育ち、家にも馴染めず、人生を諦めていたヒロインが、ヒーローと出会って運命を切り拓き、本当の幸せをつかむ物語。
・平安王宮で巻き起こる政治の動乱も迫力満点。じつはヒロインには驚くべき秘密があって……。
主要キャラ紹介
藤原麗子(ふじわらの・よりこ)
右大臣家・北駒藤原家の二番目の娘。亡き母の身分が低かったために虐げられている。妹の身代わりとして、無理やり結婚させられそうになる。
藤原季時(ふじわらの・すえとき)
没落寸前の六条藤原家の跡取り。涼やかな好青年。奇しくも麗子と同じく身代わりとしてやってきた。
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袖の香はひそやかに薫る 平安身代わり恋ものがたり時の権力を握る左大臣家・北駒藤原家の娘の麗子は、亡き母の身分が低かったため虐げられて育った。
ある日、正妻の次女の乙姫の結婚が決まり、婚儀初夜の手伝いのため呼び出される。いつものように雑用を押し付けられる麗子だが、実は本当の目的は別で、この結婚に不満のあった乙姫が麗子を自身の身代わりに仕立て上げ、無理やり結婚させようとしていたのだ。
事情を察した麗子は言いなりにはなるまいと意を決するが――そこに現れたのは乙姫の結婚相手ではなく、まったくの別人だった。涼やかな面差しの男の正体は、没落貴族の跡取りである藤原季時。彼もまた、騙されて身代わりとしてやってきたのだ。奇しくも政略結婚の身代わりとして引き合わせられた二人は、それぞれの思惑で契りを結んだと画策するが、いつしかそこには本当の恋が芽生えていき――?
そんな中、後宮内では政治の陰謀が渦巻きはじめ、麗子も駒として巻き込まれる。しかし麗子にはある秘密があった……。
人気作家・深山くのえが贈る運命の恋の物語。発売日: 2025/11/25
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