【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はメディアワークス文庫から10月24日に刊行される『華族の吸血鬼は穢れの巫女を娶った』です。みなさんの感想も聞かせてください!
辛くても、自分さえ我慢していれば丸くおさまる。働く大人なら、そう考えてしまう場面は少なくありません。頭では納得していても、心の奥にはどうしても疲れや諦めにも似た澱が少しずつ積もっていく。それは自分の身に起きることでも、他人の不遇を見聞きするだけでも、やるせなさを抱くものです。
だからこそ、虐げられていた薫子を、惣介が連れ出す「花嫁泥棒」の場面には、思わず喝采を送りました! 強引ですが、劣悪な環境を受け入れてしまっていた薫子の目を覚まさせるには、それくらいのショック療法が必要だと思いましたし、両親のために耐えることが美徳のように思えても、薫子はもっと、自分の幸せのために生きてほしい。そんな惣介の言葉が、最も至極で、私たち読者の思いを代弁してくれました。
風祭家を出て、惣介から改めて求婚されて、ようやく自分の将来と真剣に向き合うようになる薫子の姿には、安堵が込み上げました。惣介への思いが愛なのか、それとも献身なのか、その境は曖昧で、読み手によって判断が分かれるところです。けれど、相手を心から大切に想い、必要とされる場所に身を置き、ともに過ごすことで心が穏やかになる。そんな関係こそ、きっと「愛」と呼べるものでしょう。
薫子を理解しようと台所に立つ惣介には、「愛」が滲んでいました。巫女としての力を求めながらも、その力のために彼女を傷つけたくない。冷酷な吸血鬼の長でありながら、葛藤を抱える惣介の人間味が伝わってきて、読み終えたあとも心の奥がじんわりと温かくなりました。
辛くて苦しくて先の見えない夜のような世界に、優しい月の光がそっと道を照らし出すようなシンデラストーリーでした。
文: あいさきゆうじ
ざっくり言うとこんな作品
1)呪いの痣を持ち忌み嫌われてきた少女が、その呪いが故に美男子の吸血鬼から見初められる。
2)少女に迫りくる危機に颯爽と現れて救い出す、溺愛シンデレラストーリー!
3)愛されてよいのか揺れる中、薫子の立場を案じて行動するシーンに胸キュン(薫子のために慣れない女中の仕事をやってみる逢魔ヶ辻のシーンは必読です!)
主要キャラ紹介

左)風祭 薫子(かざまつり かおるこ)
癒しの手を持つ痣持ちの少女。惣介との再会を機に「花嫁」として選ばれる。
右)逢魔ヶ辻 惣介(おうまがつじ そうすけ)
吸血鬼の一族・逢魔ヶ辻家の次期当主。美しく冷徹に見えるが、薫子にだけは熱く一途。
イラスト/さばるどろ
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