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【インタビュー】Hegadelと愉快な仲間たちによる「ゆっくり実況」の小説化裏話――視聴者に魂がこもった本を届けられた

MF文庫J
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2025/10/21

 クラフト系ゲームの世界に召喚された5人は、成長し続けるゾンビたちの襲撃の中、50日間生き残ることができるのか?
 ゆっくり実況者Hegadelの大人気長編動画のノベライズ第2巻、『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~決戦編~ ヘガデルのブラックな会社2』(著:壱日千次 イラスト:へいろー/MF文庫J)が9月25日(木)に発売。HBC(ヘガデルブラックカンパニー)メンバーのゾンビ世界での過酷な50日間が幕を閉じた。
 そこで今回、原作者のHegadelと小説化にも大きく貢献したHBCメンバーのいるる、いぬいの鼎談を実施。史上初の試みだったゆっくり実況の小説化の過程を語ってもらった。



これはやるべき企画だと思って、Hegadelを説得


――最初に動画「荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る」制作時の皆さんの役割分担から教えてください。まずは、チャンネル主のHegadelさんが企画を立ち上げて、みなさんに声をかけていくような流れだったのですか?

Hegadel:そうですね。いつも、私がある程度まで企画を練った上で、「こんな企画があるんだけど、どう?」ってメンバーに話して。「面白そう」ってなったら進めていく形です。今回、いるるさんがシステム面を作ってくれて。他のメンバーは一緒にテストプレイをして気づいたことなどを話した上で、いるるさんに仕上げてもらい、撮影するという形でした。

いるる:そのフィードバックを元に、敵やプレイヤーの強さを上げたり下げたり、どういうアイテムがあったらもっと面白くなるかなとか考えながら、調整しました。

――いぬいさんは、小説では知能持ちゾンビの「いぬい」として登場しています。動画では名前は表示されていませんが、ゾンビを動かしていたのですか?

いぬい:はい。ゾンビ陣営を担当しました。

Hegadel:毎回シリーズを始める時、メンバーの中の誰にお願いするかを考えるのですが、「ゾンビ世界」では、申し訳ない言い方だけど、最初いぬいさんはベンチにいたんです。でも途中でゾンビ陣営に入ってもらうことになって。

いぬい:(プレイヤーの)ぽんたこ君がけっこう早くに死んでしまったんですよね。それで、ソンビ陣営で復活したらもっと面白くなるんじゃないかって話になって。ぽんたこ君が「いぬいさんもゾンビで入りなよ」と言ってくれたんです。

『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~決戦編~ ヘガデルのブラックな会社2』ピンナップより
『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~決戦編~ ヘガデルのブラックな会社2』ピンナップより

――最強の狂戦士だったぽんたこさんが最初に死んでゾンビ化して襲ってくる展開は、完全に想定外だったのですね。

Hegadel:元々、台本とかは無いんですよ。世界観設定だけを決めて。後は、その場の流れに任せて進んでいく形なので、味方が敵として出てくるとか一切考えていなかったです。だから、味方がゾンビになるシステムは、途中でいるるさんに無理を言って作ってもらいました。

いるる:急な話でしたが、システムを対応させました(笑)。でも結果としてそれですごく面白くなったし、結果オーライだと思っています。

――そうやって作った動画を小説化したいという話が来た時の心境を教えてください。

Hegadel:2024年の4月頃にDMが届いたんですけど、最初は詐欺かなとも思ったし、正直あまり乗り気ではありませんでした(笑)。でもメンバーと撮影をしている時、雑談の中で「小説化したいってDMが来たんだよね」って話をしたら、いぬいさんが猛プッシュしてきて。いざとなったらいぬいさんに全部任せればいいやと思って、企画を進めることにしました(笑)。

いぬい:元々ヘガデルは案件に前向きな人ではないので、今回も乗り気でないことは分かっていたんです。でも、ゆっくり実況が本になるのはすごく珍しい試みだし、さすがにこれはやるべき企画だと思って。「俺が主軸でもいいから、受けると言ってくれ」という感じで説得しました。
 自分はHBCの他に個人でも創作をしているので、小説になるまでのフローや、プロの小説家の方や編集さんの仕事を目の当たりにしたいという気持ちも大きかったです。

――小説の執筆を担当した壱日千次さんとの打ち合わせには、いるるさんも含めた3人で参加されていたと伺っています。

いるる:最初はヘガデルさんといぬいさんが小説化のための活動をされていたのですが、自分も小説ができあがる過程にすごく興味があって。ヘガデルさんに「自分もやってみたい」とDMを送ったら「やってみない?」と返事が来て、途中から参加させていただけることになりました。

Hegadel:僕の仕事が減るのは嬉しいことなので、大歓迎でした(笑)。

――Hegadelさんは、なぜ案件にあまり乗り気ではないのですか?

Hegadel:極論を言ってしまうと、他の事に時間を割くよりも、まずは自分の創作をしていたいという考えだったんです。


キャラクターごとの個性を決めるのが難しかった


――壱日さんとの打ち合わせは、どのような形で進められていったのですか?

Hegadel:まず最初にキャラ設定や世界観などを一からお伝えしました。打ち合わせが始まったのは去年の4月で、1巻(『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~迎撃編~ ヘガデルのブラックな会社1』)の発売が今年の4月なのですが、最初の設定や世界観の共有だけでも、かなり時間がかかった印象があります。

――どのような形で情報を共有したのですか?

いるる:スプレッドシートで、キャラクターごとに性格や口調などの特徴をまとめたりしました。

いぬい:好物や身長、キャラクターごとのモチーフカラーみたいなものも書きましたね。

Hegadel:その後、壱日さんの書かれた物語が少しずつ生まれはじめたら、その都度細かい修正をお願いする形でした。

いるる:打ち合わせの数日前ぐらいに壱日さんの原稿が共有されるんですけど、気になった点に対して我々がコメントを付けて。打ち合わせの時、そのコメントに対する質問などを(壱日さんから)されるので、答えていくという流れでした。

――壱日さんとの打ち合わせで、特に印象に残っていることを教えてください。

いるる:キャラクターごとの特性や個性を決めるのが、すごく難しかったことが印象に残っています。例えば、ぽんたこは戦闘狂、ホルンさんはずっと農業やっている、みたいに特徴が分かりやすい人は、キャラクター化も伝えやすくて。すぐに理解していただけたんですけど。せれすとさんとそらかぜさんは、やっていることが少し似ていたりもして、特徴を差別化して伝えるのが難しかったです。
 最終的には、最後の方まで鉄装備を貫いたせれすとさんが鉄のカリスマになり、そらかぜさんは採掘や鉄道を敷いたりといったインフラ系の作業が得意だったので、縁の下の力持ち的なキャラクターになりました。

『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~迎撃編~ ヘガデルのブラックな会社1』口絵より
『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~迎撃編~ ヘガデルのブラックな会社1』口絵より

いぬい:壱日さんは、自分たちが提案したことを積極的に取り入れてくださるんですけど、ただ取り入れるだけではなくて、さらに面白い形に発展させてストーリーに組み込んでくださるんです。ヘガデルの動画を小説にするという点でも完璧だと思うし、さすがプロの方の成せる技だと実感しました。

Hegadel:元々動画は自分視点で、自分中心に動いているので、「○○が○○した」という結果だけしか知らず、「○○はこう思って、こういう発言をする」みたいなことを考えたことがなくて。自分らの中にもビジョンはないのに、それを伝えるというのが最初は本当に難しくて。
 今、思い出したんですけど、僕らで小説を書いて壱日さんに読んでいただいたりもしました。

――小説の執筆経験はあったのですか?

Hegadel:僕は全然なかったです。でも、キャラクターシートとかの情報だけでは、一番奥の部分までは伝えられないと思って。「こいつはこの場面でこういう行動をするだろう」みたいことを組み合わせて、小説という表現に落とし込んで伝えました。

いぬい:自分は短い小説ならたまに書くんですけど、それを本職の方に見せるのはハードルが高くて。すごくそわそわしながら送った思い出があります(笑)。

――小説化にあたって、特に大事にしたことを教えてください。

いぬい:僕らの会話のノリというか、各キャラの話し方や仕草などに関しては、壱日さんの書かれた小説を確認する時も特に細かく確認して、コメントを返していました。
 あと2巻の話に少し踏み込んでしまうのですが、僕の場合ゾンビいぬいの口調を調整していただいたところも多くて。初期案では、もっとはしゃいだ感じのヴィランだったんです。でも、冷酷でヘガデルたちの士気を削ぐような嫌な感じのヴィランにしていただきました。結果的にすごく魅力的なキャラにしていただけて感無量です。

いるる:自分は参加者兼システム開発者だったので、システム的なことは特に注意して確認していましたね。この世界のゾンビは段階ごとに強くなっていくので、「この日にちで、こういう動きはおかしい」みたいなことはないように注意していました。
 あとは、なるべく原作となる動画をベースに物語を進めていって。動画では伝わりきらなかった細かい表現や、その時に感じていた緊張感みたいなのを文字でも伝えられたらなと考えていました。

Hegadel:僕の中では、ファンの人に喜んでもらえる本になってほしいという思いがまず根底にあったので、最初はすでに動画を見てくれた視聴者さんが楽しんでもらえたらいいと思っていたんです。でも、本屋に並ぶのだから新規の人にも楽しんでもらえるものにしなくちゃいけないという気持ちもあって。そのバランスに関しては、すごく考えました。
 それと動画のファンの人をさらに喜ばせる一冊にするために、壱日さんにはキャラの描き方でかなり無理をお願いして修正していただいたところもたくさんあって。いつも、「本当にすいません!」って思いながら、修正案を送るエンターキーを押していました。


視聴者に魂がこもった本を届けられた


――完成した1巻を読んだ時、小説ならではの魅力を感じたシーンやポイントを教えてください。

いるる:ヘガデルたちが初めて空港へ冒険に行ったシーンで、ピンチになったヘガデルがある機転を効かせて救援を呼ぶんです。僕らは普段、ボイスチャットなどで簡単に連絡を取れるのですが、この世界だと携帯電話やトランシーバーなどのアイテムがないんですよね。その連絡を取る手段は壱日さんのアイデアだったのですが、本当に面白くて、さすがだと思いました。

『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~迎撃編~ ヘガデルのブラックな会社1』挿絵より
『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る~迎撃編~ ヘガデルのブラックな会社1』挿絵より

いぬい:動画では、(『東方Project』のキャラクター)霊夢と魔理沙が実況していますが、小説では霊夢のポジションはヘガデルが担って、魔理沙のポジションはガイド妖精のマリーが担っているんです。

――マリーは、動画には登場しない小説オリジナルのキャラクターですね。

いぬい:その小説ならではの改変がすごく良くて。あとはそれぞれのキャラクターの視点を覗けることや、さりげなく登場したアイテムが「ここで活きるのか!」みたいな展開も、小説ならではの面白いポイントだと思います。

Hegadel:ヘガデルが観測していないところでも、同時に物語が進んでいる場面がすごく良くて。しかも、それぞれのキャラクターが感情や意思を伴って動いている。最初にキャラクターのことをすごく深く共有したこともあって、そういうところは、読んでいても特にいいなと思いました。

――では、逆に小説からこの作品を知った人に向けて、原作の動画ならではの魅力を教えてください。

Hegadel:まずは、小説だけを読んでこのインタビューも読んでくれている方がいるなら、本当にありがたい限りです。小説でも序盤の楽しい空気がどんどん変わっていくところを感じていただけたと思うんですけど。キャラ同士の会話がなく、ヘガデルのセリフだけの(ゆっくり実況の)動画で、どんな風に雰囲気が変化していくのか。小説との見せ方や変わり方の違いなども楽しんでいただけると嬉しいです。

いるる:今、言ってくれたように、動画はヘガデルさんの視点で構成されているので、その時々に感じた緊張感などは、よりリアルに体感できると思います。あとラストシーンは、ヘガデルさんの編集の技量があるからこその、映画級の素晴らしい動画になっているんです。ラストシーンだけでも観る価値はあると思います。

いぬい:本当にラストはすごく良くて。エンディングは、BGMとかもめちゃくちゃこだわって選んでいました。それと一人称視点のゲームだからこそのリアリティのある緊迫感は、動画ならではだと思います。下を見たらゾンビがわらわらいるところとか、ぽんたこや○○○○さんが死ぬところは、ちょっとグロいですからね(笑)。

――最後に、9月25日発売された第2巻に関して、ネタバレにならない範囲での読みどころを教えてください。

いぬい:第1巻は、ゾンビいぬいが登場し、ぽんたこもゾンビ化したのか、というところで終わりました。第2巻では、彼ら狂気と邪悪にまみれたゾンビ陣営に抗いながら、必死に生きのびようと明日に手を伸ばすプレイヤーたちが、希望のバトンをリレーして51日目の朝日を拝めるのか、ハラハラドキドキしていただきたいと思っています。
 それに、どんどん過酷になっていく展開の中にも笑える場面が散りばめられていて。ずっと笑える作品にもなっているので、ぜひ最後まで楽しんでください。

いるる:基本的に、第2巻は物語の全部がクライマックスみたいな感じで、面白く魅力的なんです。その中でも特に魅力的だと感じたところの一つは、休日の話。例えば、1巻でもヘガデルさんが休日にカフェを作っていたんですけど、今回もそれにまつわる話があったりして。緊迫感のある展開の中でも、その人らしい生活感あるエピソードがまた読めるのも面白いと思います。
 他には、動画のラストシーンの素晴らしさはお話ししましたが、小説のラストも素晴らしくて。小説ならではの面白い展開もあり、動画を観た人が読んでもより面白いと思うので、ぜひ読んでいただきたいですね。

Hegadel:自分としては、(動画と同じく)40日目から一気に難易度が上がるところは、譲れない部分でもありました。そんな中でも、いるるさんが言ってくれた通り、それぞれの生活をしてリラックスしようとしている場面は、空元気で頑張っていることも伝わってきて。そういう悲壮感のあるエモさが自分はすごくいいなと思っています。壱日先生はギャグ路線がすごく面白い方なのに、お願いをして少しだけそっち方面に舵を切っていただいたんです。だから、そういうシーンのちょっとした感情の揺れとかも楽しんでほしいなと思います。
 あと、詳しくは言えないのですが、終盤に「そんな発想があるんだ!」と自分も本当に驚かされたアイデアもあるので、ぜひ読んでほしいです。すごく面白いので。

――Hegadelさんは、最初は小説化にあまり前向きではなかったとのことでしたが、その心境に変化はありましたか?

Hegadel:作業は確かに大変でしたが、本という媒体になることで、視聴者の手に形として残るものができた。しかもしっかりと魂がこもった本を届けられたことを本当に嬉しく思っています。この小説って、ある意味(視聴者にとって)すごいグッズですよね。こんな体験はなかなかできないと思いますが、もしまた次の機会があったら嬉しいですね。

取材・文●丸本大輔

関連情報

「Hegadel」とは?

プロフィール●Hegadel(へがでる)

YouTube登録者数28万人超えのゆっくり実況者。HBC(Hegadel Black Company)の「社長」として、仲間と共に様々な動画を配信している。
代表作のひとつ『荒廃したゾンビ世界を50日間生き残る』がまさかの小説化を果たす。

HegadelさんのYouTubeチャンネルはこちら

https://www.youtube.com/@Hegadel
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