【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は10月15日に刊行された『追放されたドラゴン好き令嬢は、北方辺境伯の愛に気づかない』です。みなさんの感想も聞かせてください!
自分が「好き」だと思うものを否定される──そんな経験を持つ人は少なくないだろう。私自身も経験がある一人で、その悲しみたるや筆舌に尽くしがたいものがある。それゆえに、ドラゴンが好きという気持ちを否定され、あまつさえその環境を奪われた主人公ミルカの苦悩と絶望が、他人事ではなく理解できてしまった。
「好き」という気持ちは、端的に言い換えれば「愛」である。私自身もゲームや小説、マンガや映画を愛している。だからこそ人生が豊かになると考えていることもあり、北方辺境の生活で生き生きとした活力を取り戻したミルカの姿には、我がことのように嬉しくなった。ドラゴンという「好き」対象が溢れている生活だ。楽しくないわけがない。
しかし、ミルカは自分自身を愛していなかった。これは彼女を深く愛するヴォルテール様の評なのだが、それを聞いた時、私は虚を突かれた思いがした。ドラゴンが好き、あの作品が好き、というのはすべてが外側に向けられた愛だ。その愛が必ずしも自分自身に向けられるわけではない。何かを好きであるのと同じくらいに、己を好きでいてほしい。ヴォルテール様は、そう願っていたのだ。そのあまりにも深すぎる愛に、私は驚嘆の念を禁じ得なかった。
と、同時に、ヴォルテール様を通じて読者自身へのメッセージでもあるように受け止めた。現代はあらゆるところに外側への「好き」が存在している時代だ。本書はそれを否定することなく、その上で「己をも愛せ」と伝えているように感じた。これは、読者に向けられた温かなエールではないだろうか。私もまた、自分を愛するという当たり前の行いを、本作を通じて皆にも再発見してもらいたいと思えた。
文:明日香 譲
ざっくり言うとこんな作品
1)ミルカを包み込むようなヴォルテールの愛情! 真っすぐにミルカという女性に向き合う彼の愛は、大人の恋愛を味わわせてくれます。
2)ドラゴン好きを否定されたくない──「好き」という気持ちを抱きながら生きていくミルカの物語は、応援したくなること間違いなし!
3)ミルカに愛を寄せるのはヴォルテールだけじゃない!? 愛の重いドラゴンたちによるミルカ争奪戦に、ハラハラしてしまう!
主要キャラ紹介
▼ミルカ
代々ドラゴンの飼育をしているアールトネン子爵家の令嬢。しかし、プラチナドラゴンの仔を育てられなかった罪で、北方辺境に追放されてしまい⋯⋯?

▼ヴォルテール・バルト
野生のドラゴンが生息する「北方辺境」の領主。アルファドラゴンという最強のドラゴンに愛されている。

▼ハンス・ヴィイ・ヴォーハルト
セミスフィア王国の第二王子。アンナに心を奪われ、ミルカを婚約破棄&国外追放する。

▼アンナ
庶民の出の少女。慎ましい金銭感覚をお持ちかと思いきや⋯⋯?

- 読書感想文レビュー
- 恋愛
- ロマンス
- 明日香 譲