研ぎ澄まされた味覚と知識が武器！　平安時代の毒見係"鬼食い"を通じて、２つの謎を追う『平安後宮の鬼食い姫』は読み応えたっぷりの１冊

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
　今回は角川文庫から10月24日に刊行される『平安後宮の鬼食い姫』（著者：真帆路祝、イラスト：くろでこ）です。みなさんの感想も聞かせてください！


　つくづく本のタイトルって大切だなと思います。本作も「主人公が鬼を食べる設定なのかー。でも食べるってどういうこと？？？」とタイトルに惹かれて読み始めたのですが、すぐに「騙された！」と思いました。いえ、騙されてはいないのです。私が知らなかっただけで、平安時代、帝など位の高い人に出す食事を毒見する人のことを「鬼食い」と呼んだそうなので。

　ヒロイン明乃はこの「鬼食い」です。彼女の仕事ぶりを追ううちに、平安時代の食文化や現代との料理法の違いなどを知ることができるのも興味深いです。たとえば、大根は白い部分ではなく葉を食していた、など。知的好奇心をくすぐる描写がいっぱいです。

　何より、彼女が研ぎ澄まされた味覚と知識を武器に「内裏の鬼」が次々と起こす事件や謎を解き明かしていく様は痛快です！「芸は身を助ける」というけれど、彼女は自分の舌を信じて「鬼食い」の役目を全うしたり人助けをしたりする。その丁寧な仕事ぶりや、優しい心に胸が熱くなりました。

　明乃とタッグを組む黒弾正は、謎めいた人物です。なにせ顔を薄い布で隠しているのですから。それでもきちんと伝わってくるイケメン感。そして直感力と洞察力で的確に動き、明乃をサポートする頼もしさ。くぅ～、かっこいい。こういう少し陰のあるヒーローって最高だ！　明乃が惹かれる気持ちもよくわかります。

　「内裏の鬼」の正体だけでなく、明乃が再会したいと願う「光の君」の正体。ふたつの謎を追う平安時代ミステリとして堪能できるだけでなく、探偵バディもの、さらには、おいしい食べ物が登場するグルメ小説としての一面もある、読み応えたっぷりの１冊です。


文：高倉優子

ざっくり言うとこんな作品

・内裏で動物が死ぬ、火の玉が現れるといった不審な出来事が連発。犯人は鬼なのか!?　食べ物が謎解きの鍵となり展開する連作短編。

・鋭い味覚と食の深い知識を持つ毒見役の女房・明乃と謎めいた黒弾正。ふたりの信頼関係・バディ感が絶妙。ほのかな恋の予感も！

・明乃が会いたいと願っていた思い出の人「光の君」。その人の意外な正体とは？　それがもうひとつのミステリとなっている。

主要キャラ紹介

明乃（あけの）
17歳。貧乏貴族の娘でありながら、父に請われて「鬼食い」として内裏に出仕することに。研ぎ澄まされた味覚と食の知識を武器に内裏で起こる事件を解決していく。

黒弾正（くろだんじょう）／源蘇芳（みなもとの・すおう）
20歳。官人たちの不正を取り締まったり風紀の粛正をしたりする弾正台の筆頭で、黒衣に身を包み布で顔を覆った謎多き人物。明乃とともに内裏で起こる事件を解決に導く。

晴久親王（はるひさしんのう）／光の君（ひかりのきみ）
東宮の息子でいずれは帝となる存在。つややかな唇と涼しげな目を持つ美男子で、舞の名手でもある。女好きの一面も。明乃が会いたいと願っていた思い出の人!?