【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は角川文庫から10月24日に刊行される『夜闇の婚姻』(著:沙川りさ、イラスト:mokoppe)です。みなさんの感想も聞かせてください!
『夜闇の婚姻』というシンプルながらほの暗い魅力をたたえたタイトルは、どこか想像力を掻き立てます。
蠱惑的な響きに導かれて物語世界に足を踏み入れてみると、そこは人間と妖が不思議なかたちで共存するパラレル近代日本。私が本作で何よりも魅力を感じたのは、妖に関連するパートに漂う、耽美かつダークなテイストです。ほっこりとした妖物語とは異なる、退廃的かつ色香を感じさせる独特の描写が絶品でした。
とりわけ物語の後半から存在感を増してくるとあるキャラクターにまつわるパートは衝撃的で、危うい展開にぞくぞくさせられます。独自の美学を打ち出しながら“闇”を魅惑的に描く筆致に魅了されました。
とはいえストーリー全体は決して重苦しいわけではなく、出会いがしらの水のぶっかけ場面を筆頭に、コミカルな描写も随所に盛り込まれているのが特徴です。
自分の異能を隠して無害な一市民を装う比奈子と、任務に忠実で強引に契約結婚に持ち込んで比奈子を監視下に置こうとする琉河。命がけの攻防戦から始まった二人の関係性が、共同生活を続ける中で少しずつ変わっていくところは本作の何よりの読みどころです。
当初は怖い存在でしかなかった琉河の別な一面が見えてくるにつれて愛着が増し、とりわけライバルキャラが登場してからの無意識のやきもちには大きなときめきを感じました。
自分を斬り殺すかもしれない男との、スリリングな契約結婚を無事円満な離縁に持ち込めるのか。元敵同士が今生でたどり着く顛末をぜひ見届けてください。
文:嵯峨景子
ざっくり言うとこんな作品
・妖たちを操り使役した罪で斬り殺されたヒロインが、死ぬ四年前の時点に戻って自分を殺した相手と人生をやり直す“死に戻り”和風婚姻譚。
・因縁の相手との契約結婚生活をおくる中で、前の人生とは違う関係性を築いていくことに。前世では完全に仇認定だったけど……?
・著者の前作でコミカライズ連載も決定した「贄の花嫁」と同一の世界観の物語。独立した物語としてはもちろん、前作とのリンクも楽しめる。
主要キャラ紹介
比奈子
妖を鎮める異能をもち、「夜闇の妖姫」と呼ばれて無実の罪で殺された。今生では生き延びるためにおとなしく暮らすも、自分を殺害した琉河と同居することになり――。
琉河
人間に害をなす妖から人々を守る裏中務の隊長。高い戦闘力から鬼人と呼ばれている。妹の仇だと比奈子を憎み切り殺したが、今生では任務のために契約結婚を持ちかける。
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