【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回は電撃文庫・10月10日刊行の『世界の終わりに君は花咲く』です。みなさんの感想も聞かせてください!
本当の優しさとは何なんでしょうか。そんな考えが浮かぶとは思っていませんでした。
作品紹介を見て、世界の崩壊が描かれるアポカリプスもの、誰かの犠牲の上に大多数が助かるトロッコ問題ものかと考えていました。読み始めると、想河や夕妃が直面することが生々しく伝わってきて、むしろ身近な人の病気やその恋人の気持ちを考えて、自分のことのように引き込まれてしまいました。
確かに、触れただけで死の病気に罹患する『黒曜雨』が問題になっていて、まだその打開策が企図的にできてない状況は、アポカリプスを思わせます。
『黒曜雨』から逃れる手段が現状、人体が徐々に植物になってやがて完全に樹木となる『白露病』に罹患した人の犠牲に成り立っているのはトロッコ問題かもしれません。
それでも想河が直面しているのは、誰にでも起こりうる家族の問題や、病気で亡くなった方に対してとった行動が正しいことだったかという後悔だったりで、『黒曜雨』や『白露病』といった架空の状況にしてはあまりにもリアルで身近なことのように感じられて、胸が苦しくなりました。
作品の中で『白露病』に罹患した女性とその恋人が三組登場するんですが、色々な選択があって。人々を救うために樹木になることを受け入れたり、樹木状になった箇所を切除して少しでも人間としての延命をしたり、完全に樹木になる前に人間のままでの死を望んだり。
そして激烈な痛みと機能障害を伴って樹木となっていく恋人に対してとる行動もそれぞれで、どれが正解ということもなく、どれが不正解ということでもない。
逃れられない、犠牲者としての、美化された死に対して、あがいても救われない、何もできない、何もしてやれない。だからこそ、想河や夕妃が選択し、辿り着いた先に純粋な優しさが垣間見えるんだと思います。
自分が今まで思ってきた優しさが揺るがされた気がしました。
文:勝木弘喜

ざっくり言うとこんな作品
1)二十年前に降り出した黒い雨『黒曜雨』は、動物も植物も死滅させる死の雨だった。為す術なく、世界はそのとき絶望に支配された!
2)死の雨から人々を守る大樹となった少女、朝妃。彼女の妹夕妃との二年ぶりの再会は、想河に否応なく罪の意識を掘り起こさせる!?
3)夕妃の強い想いがすれ違いを解きほぐし、想河の後悔を消し去っていく。しかし、二人に待っていたのはあまりに過酷な運命だった!
主要キャラ紹介

晴原想河(はるはら そうが)
海誠高校に通う三年生。萎れかけた花を放っておけず園芸同好会を立ち上げるやさしい性格だが、断れない優柔不断さも。両親と三人暮らしだが大学に進学し家を出た兄がいる。

午堂夕妃(ごどう ゆうひ)
海誠高校に主席で入学した新入生。想河とは小六から仲良くしていたが、ここ二年は疎遠になっていた。美少女というのもあるが、姉が大樹となった午堂朝妃で注目されることも。

午堂朝妃(ごどう あさひ)
夕妃の姉で、想河の恋人だったという噂があるが、実際は兄智哉の恋人だった。肉体が樹木となる白露病に罹り、二年前に『黒曜雨』から住民を守る大樹となった。

植花彩葉(うえはらいろは)
中学から度々同じクラスになる想河の女友達で、想河が立ち上げた園芸同好会に所属。想河の事情を知るよき理解者であり、困ったときには叱責もあるがフォローもしてくれる。

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世界の終わりに君は花咲くとある地にて突然降り始めた『黒曜雨』は、瞬く間に世界中を恐怖で覆い尽くした。
触れた人間を死に至らしめる黒い雨は、僕らの街も例外なく襲う。人々の怨嗟の声は、激しい雨音にかき消された。
『黒曜雨』の危機から五年が経った現在、僕・晴原想河はまだこの街で生きていた。透明な雨が降りしきるなか、隣の彼女・午堂夕妃と一緒に空を見上げる。そこには天を突き破らんばかりに大樹がそびえ立つ。
「お姉ちゃん……」
夕妃の姉・朝妃は自らの命を代償に、『黒曜雨』を浄化する大樹となった。この街は救われ、人々は笑顔を取り戻しつつある。
けれど、僕らの犯した罪は――まだ決して許されてなどいなかった。発売日: 2025/10/10電撃文庫