YouTube番組「よみとき」において、2024年10月配信の回で、『アルマーク』を語ってくださった声優の土岐隼一さんに、今回の小説&漫画の最新刊同時発売を記念してインタビューをさせていただきました。土岐さんから見た『アルマーク』の魅力とは――?

この作品はわかりやすく言うのであれば“群像劇”に近いなと思います
――改めて今回お読みいただいた『アルマーク』の感想をお聞かせください。
土岐隼一(以下“土岐”):以前、YouTube番組「よみとき」に出演させていただいた際に『アルマーク』を読んでいたんですが、今回(新刊発売に合わせて)改めて読み直したんですよ。そこで「じっくり読みたい漫画である」という感想を抱いたのは正しかったなと再認識できました。
物語の中でどこにスポットが当たるのか、って作品ごとそれぞれだと思うんですけど、『アルマーク』はそのスポットの範囲、当たり方がとてつもなく大きいんですよ。それがこの作品の魅力に繋がっていると思います。主人公たちの成長譚かと思えば、軍や傭兵の話、国の情勢の話、みたいなものもあったりして……毎回当たるスポットがバンバン変わるし、当たるところの解像度や深さがすごくて、さらっと一度読むだけだとその全部を感じられないほどの情報量があるんです。そういった意味では、この作品はわかりやすく言うのであれば“群像劇”に近いなと思います。
だからじっくりと腰を据えて読むでもいいですし、何度も読み返すでもいいんですけど、とにかく読めば読むほど、物語やキャラクターたちの世界というものを大好きになれる作品だなって思います。
――物語の中で、解像度が上がっていくな、深みが出てきたな、と感じるのはどんなところでしょうか?
土岐:例えば、主人公のアルマークが物語の途中で魔術師の学校に入るんですけど、当然学校なので登場キャラクターも増えていくんですよ。そして学校のキャラと会話していくと、生徒たちが出てくる、先生が出てくる、寮母さんが出てくる……と、いろんなキャラクターが出てきます。でもこの作品には、出てきたキャラクターたちに“とってつけたキャラ”がいないんですよ、わかりやすく言うと。
どのキャラも、「学校編です。学校編ってことは、生徒作らなきゃいけないよね。先生もいなきゃ。しかも寮生活だから寮母さん作らなきゃいけないよね」みたいな理由で絶対作られてないんです。すべての文章に、そのキャラクターたちの実在感、重厚感がある解像度の高さが、見て一瞬でわかるんですよね。
すごくメタい言葉にはなっちゃうんですけど、もし『アルマーク』がアニメ化して、(自分が)この作品のどのキャラを頂いたとしても、すべてのキャラがやりがいのあるキャラだって思わせてくれるぐらい、人間の解像度が高いんです。
だからこそ、例えばスマホをいじりながら読むとか、何かをしているちょっとした合間に読むとか、そういった読み方では作品を100%楽しむことはできないなって思うんです。
彼らの物語のちょっとした行間、隙間、1コマ、そういったところにある情緒みたいなものは、一度読んだだけでは理解し切れないくらいの情報密度や解像度がある。しかもそれがすべてのキャラ、すべてのシーンで存在する。そういったところが、この作品で僕が好きなところかなと思います。
我が子が成長していくような感覚をアルマークで見ている感じがします(笑)
――すべての登場人物に“とってつけたキャラ”がいないと仰っていましたが、そんなキャラクターたちについてお聞きします。まず主人公・アルマークについて、土岐さんはどのような魅力を感じますか?
土岐:最初だけ読んだ時と、最新巻まで読んだ時の「アルマークという人間」に対する僕のイメージが、いい意味でまったく変わっていないというところですね。やっぱり芯の強さ、ブレなさっていうところがあるのが素敵だと思います。
そして、その上で芯の強さは変わらないんですけど、出てくる登場人物が増えたことで改めて感じさせてくれる「ちゃんと子どもなんだ」というところ(笑)。ちゃんと子供でよかったなって思います。
――それはどういったところなのでしょうか?
土岐:一言で言うのであれば、「彼はただ強い“だけ”だったんだ」って思わせてくれるんですよね。傭兵の息子でした、だから本来子どもならいろいろなことを学ぶ時期にひたすら戦いだけをしてきました、そこで人間性が出来上がりました……というだけの少年なんだっていうことを、いい意味で感じたのが最新巻までの彼の歩みなんですよ。
それを象徴する、僕がすごく好きなシーンがあるんです。
主人公のアルマークは、傭兵の息子で自分も傭兵をして育ったので、剣術が好きというか得意というか、剣がすごく強いんですよ。そんな中、父親の教えと推薦で魔法学院に入るんです。でも「主人公はもともと強かったです。そんな人が、同じ年頃の子どもたちが通う魔術の学校に入ります」だったら、たぶん彼が無双するというか、スターになるというのが王道のストーリーでじゃないですか。学校で「なんでこいつこんな強いんだ!?」っていうところをピックアップすることがセオリーだと思うんです。
けど僕がこの作品で好きなのは、そうはなっていないところなんですよね。確かに子どもと思えないくらい剣は強いから、マウント取ってきたりしてちょっと嫌な生徒に、仲良くなった友達がいじめられているから助けようとして、喧嘩を売って勝ちます……まではあるんですが、その後に「先生に怒られる」というフェーズがあるんですよ(笑)。
先生のいないところで挑発をして、決闘になって勝って……っていう一部始終を、先生はわかってて、アルマークに対して「君は確かに勝ったけど、卑劣だぞ」って言うんです、先生が。僕はそこがすごく好きなんです。

ここが僕は「学園編だから先生のキャラ作っておかなきゃ、でいるだけのキャラじゃない」と思うところでもあるんです。ちゃんと大人は大人として、アルマークの足りないところを諭すために存在する。先生が先生としてしっかり存在している。主人公を引き立たせるだけの登場人物ではないっていうところが、このシーン以外にも至るところにあって。
アルマークって剣は強いけど、やっぱりまだまだ精神的、人間性的な面では、この学校でたくさんのことを学ぶんだろうなって、一歩ずつ成長していくんだろうな、って思わせてくれるんですよね。
これはちょっと僕がそういう世代になってるから言えることだとは思うんですけど、「この子の成長が楽しみだな」っていう、我が子が成長していくような感覚をアルマークで見ている感じがします(笑)。彼がまだまだ発展途上っていうところが、僕がアルマークの大好きなところかなと思います。
アルマークの心の拠りどころになっているんだろうなって
――アルマーク以外で、一番好きなキャラクターは誰ですか? その理由もあわせて教えてください。
土岐:この質問がとても難しくて(笑)。すべてのキャラクターが魅力的だなとは思うんですが……これは「よみとき」でも話させてもらったんですけど、僕としてはやっぱり門番のジードですね。
やっぱりこれも一番最初に登場した時にね、「この人、ただ主人公たちを街に入れるためにいる“おかず”じゃないな」って思わせてくれたんですよ(笑)。そしたらやっぱりいいキャラクターで……。
もともとアルマークは学校に来るまで全然違う世界にいたということもあって、やっぱり孤独を感じていることがままあるんですけど、その孤独感を察してあげているというか。たぶん意識的ではないと思うんですが、なんとなく感じ取ってくれるお兄さんのような立ち位置にジードさんはずっといるんですよね。だからアルマークは、ジードにすごく助けられているんだろうなって思うんですよ。
きっともしアルマークに声がついたりした時、あるいはもし僕が演じるってなった時には、生徒と会話するアルマーク、先生と会話するアルマークと、ジードと会話するアルマークって、きっとちょっと(声色や喋り方が)変わるだろうなって思います。
ジードって強くはないと思うんですけれど、でも物語の中枢というか、アルマークの心の拠りどころになっているんだろうなって、アルマークという人間を構成する大切な要素の中の1つだろうなって。夏休みに(寮へ)帰ってきた時もまずジードさんですから(笑)。きっとアルマークはあそこですごく癒されているだろうなとも思いますし、その後のお話を見ていても、アルマーク自身もたぶん気付いてはいないですけど、話しやすい人だなとは思っているんだろうなって感じさせてくれるので。僕は結構大好きなキャラです(笑)。

アルマークが一番変化したところなんだろうなって明らかに感じ取ることができるシーンだった
――これまで読んでいただいたお話の中で、特に「じっくり味わいたい」と感じるような深さを覚えたシーンはどちらでしょうか?
土岐:これはもうね、全部のシーンが好きなので、とにかく(一つを選ぶために)探しました(笑)。
夏休み、ウェンディという貴族の女の子のお屋敷のところで、ちょっと大事件が起こりまして。そこで彼女がちょっと傷ついた中で、別れを告げなきゃいけないっていうシーンがあったんです。その時に彼女を励ますためにアルマークがとある一言を放つシーンがあるんですけど……そのシーンなんです。
ここがすごくいいところなんですよ。先ほど、アルマークがまだまだ子どもで発展途上で、これからその心が成長していくだろうなっていうところが好きと話しましたが、その大好きなところのすごく大きな一歩がそのシーンにありました!
彼はずっとお父さんに憧れて傭兵になりたかったのに、「お前は傭兵にならずに魔術師になれ」って言われて放り出されて。そしてその後、魔術を学んでいる時も、自分はまだまだ未熟だっていうことに気付きながら、でもなんで自分は魔術を教わっているんだろうっていう思いとかいろいろなものとかを若干抱えた中で、ちょっとずつ成長して、いろんなものを理解できるかなって思い始めた頃。そういう、周りの子たちにはないもので孤独を感じていた中で、ウェンディを励ます時に発した言葉。
それが「僕たちは魔術師だ」なんです。

彼は傭兵になりたくて剣術を身につけていったのに、どうして魔術なんて教わってるんだろうかという葛藤を抱えている中で「魔術師だ」と言ったんです。本来なら、自分は傭兵だから「傭兵だ」ってたぶん言いたいと思うんですよね。でもその時のアルマークは、その言葉を紡ぐまでにためらいがない様子なんですよ。
きっと彼女のことを考えて、彼女にはどういった言葉を伝えたらいいんだろう、と思った上で、まっすぐな言葉で、まっすぐな表情で、「僕たちは魔術師だ」って言う。
彼の心がある種、「魔術師というものへの理解を深めて、今自分が置かれている場所で一歩前に進まなきゃ、成長しなきゃ」ということを認めたんだろうなって。それを何のためらいもなくその言葉を発せられたっていう、アルマークが一番変化したところなんだろうなって明らかに感じ取ることができるシーンだったんです。
確かにその後の帰りに、もともと自分は魔術師になりたくなかったからとかいろいろ反省してはいるんですけど、でも少なくともその言葉を彼女に宣言したところに関しては、一点の曇りもなく、間違いなくアルマークの成長だなと思って……。気持ちよかったなって感じたところでした。
――最後に一つお聞かせください! 土岐さんが『アルマーク』にキャッチコピーを付けるとしたら?
土岐:「一歩ずつ。それでも前に行きたい人へ必ず刺さる」本です!
――ありがとうございました!
書籍情報
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