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ミステリの「探偵」の在り方を問う小説!? 他人の殺意が見える主人公が殺人事件を未然に防ぐために奔走した、その先に見るものとは……?

MF文庫J
MF文庫J
2025/09/25

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMF文庫Jから9月25日に刊行された『未遂同盟』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 人の殺意が見えるようになった主人公が、殺人事件を防ぐため奔走する本作。ミステリ好きの一人として、ワクワクしながら読み始めました。ですが、探偵役である写楽の「探偵なんて嫌いだ」という考えには、はっとさせられました。

 ミステリには殺人事件がつきもので、読者はそれを当然のものとして受け入れがちです。しかし本来、殺人は決して許される行為ではありません。それをあえて冒そうというのですから、犯人には相応の事情があり、覚悟も並大抵のものではないでしょう。少女たちが殺人を企てたこと自体は擁護できないとしても、彼女たちをそこまで追い詰めた背景や、心の動きには共感できる部分も多く、自分が同じ立場ならどうするかを考えずにはいられませんでした。
 そのような視点を持てば、事件が起こった後に他者の秘密を暴き、糾弾するだけの探偵像は、果たして本当に憧れるべき存在なのかと疑問が湧いてきます。少女達たちと写楽の行動を追いかけるうちに、これまで当然のものとして受け入れていた「探偵」の在り方に対して、新たな見方を得ることができました。

 私自身、人との関わりの中で一瞬だけ相手に殺意を抱くようなことはあっても、それを実行に移そうと思ったことはもちろんありません。仮に実行を決意するような状況に置かれたとしたら、何を思うのか。この作品を通して、それは誰にでも起こりうることであり、そこには想像を絶するような心の痛みと葛藤が伴うのだということを思い知らされました。読み進めるほどに割り切れない思いを抱えながらも、最後まで読み切らずにはいられない。そんな一冊でした。

文・安芸沙織理


ざっくり言うとこんな作品

1)突然人の殺意が見えるようになった写楽。殺人事件を未然に防ぐため奔走する彼の推理と、緊迫感溢れる事態の推移から目が離せない!

2)それぞれに殺人を冒そうと決意した三人の少女たちは、何故殺意を持つに至ったのか? その背景と動機、リアルな心理描写が胸に迫る。

3)写楽は何故能力を持ったのか? 彼の本当の目的とは? すべてが明かされたときの衝撃と切なさに、心を揺さぶられること間違いなし!


主要キャラ紹介

『未遂同盟』キャラ①

▼和十村写楽(わとむら・しゃらく)
突然人の殺意が炎として見えるようになった少年。ある目的のため殺人を防ごうと必死に行動する。普段は人当たりのいい人物を演じているが、それは極力目立ちたくないから。

『未遂同盟』キャラ②

▼月出里笑猫(すだち・エマ)
写楽のクラスメイト。近寄りがたい雰囲気を纏う美少女で、周囲からは高嶺の花扱いされている。しかし実は人付き合いが苦手なだけ。とある理由から殺人を行おうとする。

『未遂同盟』キャラ③

▼伊那亀美波(いながめ・ミナミ)
写楽が偶然知り合った家出中の少女。公園や学校の校庭でテントを張って暮らしている。派手な見た目だが野外暮らしなので体力はある。星辰女子学院の生徒で、殺人を計画している。

『未遂同盟』キャラ④

▼姫宮心愛(ひめみや・シア)
星辰女子学院の生徒会長。生真面目でルールに厳しく、口うるさいので周囲から煙たがられている。芯が強く、あからさまな嫌がらせにも動じない。とある出来事により殺人を決意する。

  • 読書感想文レビュー
  • 現代
  • 安芸沙織理

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    『人の殺意を視ることができる』高校生・和十村写楽の周囲には、いずれ事件を起こす――かもしれない危険な『ぼっち』の少女たちがいた! 
    誰に対しても塩対応で〈図書室の公爵令嬢〉と呼ばれる同級生・月出里笑猫。
    〈住所:公園〉の自称ソロキャンパー・伊那亀美波。
    お嬢様学校で孤立する〈氷の女王〉姫宮心愛。
    とある理由で平穏な日常を死守したい写楽は、不本意ながら事件阻止に奔走するが――。

    少年少女の現在{いま}を切り取る、新たな青春小説{ブルーエイジ}。
    海冬レイジ (著者) / ほうき星 (イラスト)
    発売日: 2025/09/25
    MF文庫J
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