【新作文庫先読み感想文レビュー】
今回は9月22日に刊行の『オカルティック・ノスタルジア 流説の落とし子たち』(著:皆藤黒助/イラスト:toi8)です。みなさんの感想も聞かせてください!
令和の今、きさらぎ駅や八尺様といった都市伝説を心から信じている人はどれだけいるんだろう?
昭和49年は違ってた。ドラマやマンガがツチノコを取り上げていた。ノストラダムスの大予言も本当のことかもしれないと信じられていた。あの空気感を知ってる人なら、この小説の舞台を「そんな時代だったね」と懐かしがれそうだ。雑誌にオカルトのコーナーがあってツチノコを任される編集部員がいたり、幽霊が現れたと相談してくる人がいたりする時代。
令和の今になると、そういったオカルトな話題は「やっぱりフィクションだよね」と簡単に判断しそうになる。けれど、疑う気持ちのどこかで、未知の可能性があったら嬉しいねって期待を感じさせてくれるところが、この小説の良いところだ。
例えば、ツチノコの実在をめぐる話では、はっきりさせないからこそ夢を抱き続けられる楽しさを感じさせてくれた。事故で死んでしまった友だちの幽霊と遊ぶ話では、突然の別れでも悲しさが薄れるかもしれないと思わせてくれた。
さらに、オカルト要素だけではなくて、実はツチノコの正体を隠そうとした理由が明かされる展開や、幽霊になったのはどちらの子供なのかを推理する展開も楽しかった。そしてもうひとつ。編集者の丈治が見かけるたびに、ピンチに陥っている明という少年。彼は不思議な力を持っている上に、丈治と何か関係があるかもしれないという謎に、どんな答えが出るのかドキドキさせてくれたのも魅力的だった。
複数の謎が明らかにされても、まだまだ続きが気になる雰囲気だったこの一冊。次はどんな懐かしい昭和のオカルトを令和の時代に見せてくれるのかが気になってしまう。懐かしくて新しいオカルト&ミステリーの始まりだ!
文:タニグチリウイチ
ざっくり言うとこんな作品
・舞台は1974年ということで、レトロで懐かしい世界観が楽しめます。当時のオカルトブームについても描かれています。
・コックリさん、カシマレイコ、心霊写真など、今でも人気の事案や、ツチノコ、超能力少年など、当時話題だったオカルト事案も。
・戦後の暗い時代を生きた少年たちが大人になり、オカルトな謎を解きつつ自分を取り戻していく物語です。意外な結末も見どころです。
主要キャラ紹介
沢田丈治(さわだじょうじ)
雑誌『週刊神武』のオカルトコーナー担当記者。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれた。
宇良坂明(うらさかあきら)
神出鬼没の謎めいた少年。年齢の割に大人びていて、オカルトに詳しい。見た目に反して、かなりの大食い。
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