MF文庫Jより2025年8月に第2巻を刊行したラブコメ2作品――『雨森潤奈は湿度が高い』と『お前ら早く結婚しろよっ!』。いずれも2025年に入ってから始動した新作ラブコメである。どちらの作品も、一風変わったヒロイン・ラブコメ模様をテーマにしており、それぞれの先生のこだわりが垣間見えるものとなっている。今回はそんな両作品の第2巻発売を記念し、著者の水城先生・優汰先生をお招きして「自分の推しヒロイン」について、そしてラブコメに対する想いやこだわりを語っていただいた。
ヒロインとの出会いから読者の心を射止めなければいけないと学びました
――そもそもお二人は新人賞作家ですが、アマチュア時代、ラブコメは書かれていましたか?
水城水城(以下“水城”):正直、読みもしていなかったですし、書いてもいなかったです。ただ、それまで一次選考も通っていなかったので、一度ラブコメにも挑戦してみようか……と思って書いてみたところ、その原稿が初めてMF文庫Jライトノベル新人賞で一次選考を通過したんですよ。書いてみてとても楽しかったこともあって、そこからラブコメ要素を足した作品にしていくようになりました。
――その結果の『サイコメ』(著:水城水城 イラスト:生煮え/ファミ通文庫)だったんですね。
水城:今思い返すと、ちょうどアマチュアの頃に読んでいた西尾維新さんの『〈物語〉シリーズ』(著:西尾維新 イラスト:VOFAN/講談社)の影響も大きかったと思うんですよ。西尾さんはミステリの新人賞出身ですが、『〈物語〉シリーズ』は特にキャラクターの掛け合いが魅力な作品じゃないですか。そこから阿良々木くんと戦場ヶ原さんのラブコメ展開も素晴らしくて、その要素を自作にも入れられないか……と考えた結果がデビュー作の『サイコメ』だった気がします。
戦場ヶ原さん、大好きなんですよね(笑)。『〈物語〉シリーズ』だと第1巻『化物語』「ひたぎクラブ」の冒頭、戦場ヶ原さんが上から落ちてくるシーンがとても印象的で、ヒロインとの出会いから読者の心を射止めなければいけないと学びました。その冒頭を大事にすることは、新作『雨森潤奈は湿度が高い』でもしっかり意識して書いています。
――優汰先生はいかがですか?
優汰:僕はアマチュア時代から『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(著:渡航 イラスト:ぽんかん⑧/小学館)や『弱キャラ友崎くん』(著:屋久ユウキ イラスト:フライ/同)にハマっていました。ラブコメの中でも、若者が抱える悩みにフォーカスした作品が大好きで、自分もそういった作品を描ければなと常々考えていましたね。なので、デビュー作の『この恋、おくちにあいますか?』(著:優汰 イラスト:ういり/MF文庫J)もそういった傾向の作品になっています。
――そうして、『この恋、おくちにあいますか?』の帯コメントは『弱キャラ友崎くん』の屋久ユウキ先生が担当されるという縁があったんですね。
優汰:あれは、僕からSNSでDMをお送りするという経緯もあったのですが、お請けいただけてとても嬉しかったです。元々ガガガ文庫の作家にもなりたかったですしね(笑)。
水城:自分もガガガ文庫でデビューしたかったんですよ(笑)。結局、応募する前にファミ通文庫で受賞しましたが。
――ちなみに、水城先生が挙げた戦場ヶ原さんのように、優汰先生が特にお気に入りのキャラクターは誰ですか?
優汰:作品ごとに違う属性のヒロインが好きになるので一概にこういうタイプ! とはいえないのですが……。強いて挙げるのであれば『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の由比ヶ浜結衣です。健気で、応援したくなるところが大好きですね。
次の作品ではもっとメインヒロインを輝かせたい
――MF文庫Jの編集さんが同席されている中ですが(笑)。お二人が作品を描く中で特に意識されていることをお教えください。
水城:自分の場合、とにかくキャラクターを可愛く、掛け合いを楽しく書こうと意識しています。ただ、書いているうちに、どうしてもヒロインのタイプが自分の好きなキャラクター造形になってしまうことがよくあって……。例えば『サイコメ』だと、メインヒロインの氷河煉子がガスマスクをした銀髪巨乳、両腕にトライバル・タトゥーが入っていて、口を開けば軽快なボケと下ネタを放つ殺人鬼、なんてところは漏れ出た癖の部分ですね(笑)。
――新作の『雨森潤奈は湿度が高い』でもやはり漏れ出た癖はあったのでしょうか?
水城:雨森潤奈は、感情が音楽となって溢れ出すキャラクターなのですが、その点は氷河煉子に似ているかもしれません。感情が重いのも一緒ですしね。『サイコメ』から変わらず、ずっと好きなものばかり書いてきたので、どの作品にも自分の「好きと癖」が詰め込まれています(笑)。
――優汰先生はいかがですか?
優汰:先ほど水城先生が「ヒロインとの出会いを印象的に」と触れられていましたが、そこは僕も意識している箇所ですね。ファーストインプレッションはそのまま作品の色になると考えているので、強力な掴みになるように気を付けています。例えば、『この恋、おくちにあいますか?』は冒頭、学校で一番可愛いと言われているヒロイン・白姫リラが急にショートカットになります。これは、いきなりそんな展開が起きれば目を引くのではないか、と考えたことから生まれた展開ですね。ただ、一点反省どころがあって……。
――というと?
優汰:いろんな属性のヒロインの要素を取り込んでしまった分、リラは捉えどころのない子になってしまったと思っているんです。二人目に出てきたヒロインの冠城いちごもそんなリラの対照的な子を狙って作ったのですが、予想外にそちらの方が人気になってしまった。嬉しい誤算ではあるんですけど、次の作品ではもっとメインヒロインを輝かせたい! そこで生まれたのが『お前ら早く結婚しろよっ!』なんです。
――ちょうど最新作のお話にもなりましたが、お二人が書かれた『雨森潤奈は湿度が高い』『お前ら早く結婚しろよっ!』はどのように生まれた作品だったのでしょうか。
水城:「湿度が高い」というワードを担当編集さんからお教えいただいたのが、『雨森潤奈は湿度が高い』の始まりです。最初はそのワードを知らなかったのですが、調べていくうちにヤンデレなどとはまた異なる雰囲気のヒロイン像のことなのだなと解釈して。そこから独自の見解も入れつつ考えていったところ、何か重苦しい想いを抱えたヒロインは、感情の行き場として創作をするんじゃないか、とアイデアが浮かんだんですね。
そこで思いついたものが、元々自分が大好きでもある音楽でした。想いを抱えた結果、発露する場所として音楽をやる……そんなヒロイン像として生まれたのが、雨森潤奈だったんです。でも、音楽要素を詳細に書きすぎると、ラブコメから遠ざかってしまうので。あまりそこは掘り下げないように注意をしていました。あとは、雨森潤奈をどれだけ可愛く描けるか勝負。とにかく魅力的に描くことを意識して執筆しましたね。
優汰:僕も「お前ら早く結婚しろよ」というワードから生まれた……と言えればよかったのですが、実はそうではなく。新シリーズを作るという話になった際、どういうヒロインとのラブコメにすればいいかかなり悩んだんです。そこで参考となったのが、『男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!)』(著:七菜なな イラスト:Parum/電撃文庫)でした。
「男女の友情は成立するのか」というワードは昔から議論になっているワードですが、そういった目を引く言葉からストーリーを展開できたら……と考えた結果思いついたのが、「お前ら早く結婚しろよ」だったんです。ただ、主人公とヒロインがただただイチャイチャするだけでは芸がないので、ヒロインを三人にして、ストーリーにうねりを加えようと。そうした結果、『お前ら早く結婚しろよっ!』が生まれました。
――先ほど水城先生に雨森潤奈が生まれたきっかけを伺いましたが、『お前ら早く結婚しろよっ!』の竹内柚璃、舞原楓、山下胡桃はどのように生まれたのかについてもお教えください。
優汰:最近のライトノベル読者に馴染みのあるヒロインの属性をキャラクターのベースにしたくて、クラスのマドンナ的ヒロイン、氷属性幼なじみヒロイン、ウザ絡み系ヒロインと、誰もがラブコメで一度は見た事のある属性をピックアップし、そこからそれぞれにオリジナルの個性を持たせることで、三人とも生まれています。
担当編集から「耳かきを入れてほしい!」というオーダーが
――そんなヒロインたちを描きながら、第1巻においてお二人が特に筆が乗ったシーンはどこですか?
水城:物語の中盤辺りで、雨森潤奈が秘密を明かして主人公と一気に距離が縮まる展開があります。その後に耳かきシーンがあるのですが、これは担当編集さんから「耳かきを入れてほしい!」というオーダーがあったからなんですよ(笑)。とはいえ、自分がASMRのシナリオを書いた経験があるからなのか、やたらと筆が乗りました。
優汰:柚璃なら地道に距離を縮めようと奮闘するシーン、楓は主人公に対してぐいぐいと迫るシーン、胡桃は主人公にだけ弱さを見せるシーンですかね。三者三様ではあるんですけど、その一途さが彼女たちの魅力にも繋がるので、かなりノリノリで書いた覚えがあります。
――この8月に刊行された第2巻では、どういった箇所に注目していただきたいですか?
水城:第1巻では雨森潤奈一本勝負だった作品ではありますが、第2巻ではサブキャラクターにもフォーカスを当てています。彼彼女らの関係性やその変化、そこから生まれるストーリーにも注目していただきたいですね。
優汰:告白してきた存在が誰なのかを確かめていく展開が『お前ら早く結婚しろよっ!』の一つの軸なので、第2巻ではさらにその謎に迫っていきます。それと同時に展開されるヒロイン三人とのわちゃわちゃ感を楽しんでいただきたいですね。そして、第2巻の後、次に何を読もうかなと思った方は『雨森潤奈は湿度が高い』を手に取っていただいて……。
水城:『雨森潤奈は湿度が高い』の読者さんも『お前ら早く結婚しろよっ!』をね(笑)。タイプは異なる作品だとは思うのですが、自分も楽しく読ませていただいたので、きっと楽しめる作品になっていると思います!
著者・作品紹介
■水城水城(みずしろ・みずき)
ライトノベル作家、漫画原作家。第14回エンターブレインえんため大賞小説部門にて優秀賞を受賞し、『サイコメ』でデビュー。
『雨森潤奈は湿度が高い』
ある雨の日。音楽好きな高校生・栗本詩暮は、忘れ物を取りに戻った視聴覚室で雨森潤奈と出会う。無表情でドライな性格の潤奈だったが、音楽や読書の趣味が合致したことで、徐々に詩暮と交流を深めていき……。気付いたらどんどんと距離を詰めてくる、「湿度の高い」ヒロイン・雨森潤奈。大好きな鬱ロックについて楽しそうに語る彼女が、徐々に詩暮について想いを寄せていく展開も見どころの一つとなっている。なお、第2巻では友達以上恋人未満(というよりもほぼ恋人)な関係になった二人が、イチャイチャしながらも友人たちと交流の幅を広げていく展開が。ラブコメとしてだけではなく、音楽に人生を捧げる少女のクリエイターものという見方でも面白い作品だ。
■優汰(ゆうた)
ライトノベル作家。第19回MF文庫Jライトノベル新人賞にて佳作を受賞し、『この恋、おくちにあいますか?』でデビュー。
『お前ら早く結婚しろよっ!』
高校生・田中莉太が密かに書いていたウェブ小説。その感想欄に「あなたのことがずっと前から好きでした。『お前ら早く結婚しろよ』と言われたこと、これから本当にしませんか?」というぶっ飛んだ告白文が投稿された! 送り主候補は、「お前ら早く結婚しろよ」と言われたことのある女の子三人。果たして、その送り主の正体は――!? そもそも「お前ら早く結婚しろよ」とまで言われるほどに関係性が深いヒロイン三人とのイチャイチャが楽しい本作では、クラスのヒロインタイプに幼なじみギャル、ぐいぐい来るバイトの後輩(同い年)と多種多様な女の子が登場。嫉妬し合いな正妻戦争も描写される中、莉太と結ばれる相手が誰なのか、とにかくハラハラドキドキするラブコメとなっている。
取材・文●太田祥暉
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関連書籍
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雨森潤奈は湿度が高い雨で部活の練習が早めに終わった栗本詩暮は、忘れ物を取りに戻った視聴覚室で、一人の女子生徒・雨森潤奈と出会う。読書や音楽の好みが合致した二人は、互いの時間が重なる雨の日の放課後限定で会うようになり、密かな交流を始める。
「詩暮っていう名前、好き」
「私は独りが好きで、無駄な他人と関わりたくはないけど……詩暮なら、いい」
じめっとした雨の日にだけ会える潤奈は無表情でドライだが、やたらと距離感が近く、甘えたがりな女の子。
さらにある晴れた日、潤奈の「秘密」を知ってしまったことで、詩暮に対する潤奈の距離は吐息がかかるほどにまで近づき、深すぎる愛情がだだ漏れになっていく――。発売日: 2025/02/25MF文庫J
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雨森潤奈は湿度が高い 2雨の日限定の交流を経て、やたらと距離感が近く、積極的な女子生徒・雨森潤奈と仲を深めた栗本詩暮。
潤奈は普通に登校を果たし、謎の美少女の登場に校内は盛り上がる。しかし、慣れない人との交流でストレスが溜まった潤奈は、詩暮への「求愛」をエスカレートさせて――。
「……落ち着く。詩暮の匂い」
「手離れてる。撫で撫でやめないで」
「あと、同棲に必要なのは――」
注ぐ嫉妬の視線に構わず、欲望のまま、もはや見せつけにいっているのか? という猛アタックを続ける潤奈に、詩暮の理性は決壊寸前……!?
球技大会、お家デート、花火大会。距離はもっともっと近く、想いは深くなる夏の第2巻。発売日: 2025/08/25MF文庫J
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お前ら早く結婚しろよっ! 1 そう言われてる女子が3人いるんですけど?「あなたのことがずっと前から好きでした。『お前ら早く結婚しろよ』と言われたこと、これから本当にしませんか?」
俺がこっそり書いているWEB小説の感想欄に投稿された、ぶっ飛んだ告白文。色々とツッコミどころはあると思うが、一番の問題は、俺には、そう言われている心当たりが三人もいることなんだ――
クラスの心優しき超王道の天使系ヒロイン・竹内柚璃(たけうち・ゆずり)。
俺にだけツンデレな男嫌いの氷属性幼なじみヒロイン・山下胡桃(やました・くるみ)。
バイト先で妙に俺に懐くからかい上手のヒロイン・舞原楓(まいはら・かえで)。
あの台詞は誰かの冗談のはずなのに、この中に一人、俺のことを本気で好きな『メインヒロイン』がいる!?発売日: 2025/03/24MF文庫J
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お前ら早く結婚しろよっ! 2 そう言われてる女子の様子が変なんですけど?衝撃の告白文をきっかけに始まった俺の『メインヒロイン』探し――心当たりのある3人との仲が深まり、成り行きで自宅に招いて遊んだりしても、告白文の相手の正体はわからないまま。
そんな中、学園祭が近づきクラスの出し物の準備が進みはじめ、彼女たちのノリも少しずつおかしな方向に!? クラスメイト・竹内さんとバイト先の後輩・舞原さんのコスプレ対決が勃発し、なぜか俺が審査員をすることに。さらに幼なじみ・胡桃との家族ぐるみの買い物まで周囲も巻き込むラブコメ的イベントに発展!?
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