【新作先読み感想文レビュー】
今回はファミ通文庫から8月30日に刊行される『貴重な治癒師は期待しない』です。みなさんの感想も聞かせてください!
昨日まで気軽に挨拶を交わしてきた人が、なにかをきっかけにしてある日突然、態度を急変させてくる――。まあ、現実でもよくある話でしょう。それが、どんな結果をもたらすのかも知らずに。
こういった、小さな契約違反が起こるたび、治癒師のヘイゼル親子はその町を去り、人知れず引っ越しをしていくのです。自分にはあまり、引っ越しの経験はないのですが、引っ越しなんてただでさえいろいろ面倒なのに、環境のせいでそうせざるを得なくなるというのは、やるせないというか、世知辛いというか。ヘイゼル親子の場合はもう慣れているようで、さほど気にもしていないようですが。それはつまり、彼らがすでに「人間は裏切るもの」として、なにも期待していないということであって、それもまたやるせないのです。

そんな気分から一転。ヘイゼルとシャルレリアのやりとりはとても楽しげであたたかくて、ほっとしますね。こんな親子の家にお呼ばれしたらシウルフでなくとも、この家の子になりたい、と思うでしょう。寂しさを自覚すらしていなかったシウルフの生活を、またたく間に色づかせる、ヘイゼル親子と一緒の時間。このまま楽しいだけの暮らしが続けば良かったのですが……。やっぱりやらかすんですよね、人間は。ほっこりムードからさらに一転、衝撃の結末には、あっけにとられてしまいました。穏やかな物語ながら、垣間見える世界観は意外にシビアで、心がゆさぶられましたね。人の信頼は、なるべく裏切らないようにしたいものです……。

文・瀧田伸也
ざっくり言うとこんな作品
1)数少ない治癒師として人々に接してきた、ヘイゼルとシャルレリア。ふたりは、人々が約束を破るたび、引っ越しを繰り返してきた。
2)親子が新たな土地で暮らし始めたある日、木の実を拾いに出かけたシャルレリアは、そこでシウルフという不思議な少年と出会う。
3)お互いの素性を明かし、まるで家族のように仲良くなっていくヘイゼル親子とシウルフ。そんな時、近くの村の人々が――?
主要キャラ紹介
シャルレリア
大魔法使いを夢見る、明るく聡明なヘイゼルの娘。料理が上手で、父の仕事も手伝いながら、親子ふたりで引っ越しを続けてきた。

ヘイゼル
治癒師であり薬師でもある、シャルレリアの父親。娘やシウルフには優しく接するが、これまでの経験から、人族を信頼していない。

シウルフ
土の魔法を操る、半獣人の少年。母親を失って以来、ひとりで暮らしていたが、シャルレリアと出会い、彼女たちと仲を深めてゆく。

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