多数のレーベルで活躍する静岡市出身の作家・榛名丼先生が8月8日に電撃文庫より2冊同時刊行をしました!
第29回電撃小説大賞《大賞》受賞作でTVアニメ化も決定した『レプリカだって、恋をする。』と、5人の義妹と紡ぐ青春グラフィティ『義妹5人いる』。
全く別ジャンルの2作を同時に執筆した苦労や、新作をラブコメにした理由など、たっぷりお話を伺いました。
ナオが出した答えについては、まったく想定していませんでした。
──『レプリカだって、恋をする。』第5巻と『義妹5人いる 』の同時刊行、おめでとうございます! ライトノベル業界としては人気シリーズの新刊と合わせて新作が刊行されるケースは少なからずあるわけですが、実際にやってみた今の心境をお聞かせください。
ありがとうございます。
いやー、大変でした(笑)。もちろん担当さん始めとする周りの皆さんもハラハラだったかと思います。一日単位でスケジュールを調整いただき、「レプリコ」(『レプリカだって、恋をする。』)と「ギマイル」(『義妹5人いる』)の作業日程をパズルのように組んでいただいたおかげで、なんとか乗り越えられました。
──電撃小説大賞を受賞されてから約二年半が経過しましたが、応募原稿を書かれていた際と、今作品を執筆される際とでは何か意識の差はありますか?
大きな変化というと、責任感を持って書くようになったかもしれません。
電撃大賞の応募用原稿を書いていたときは、生まれ育った静岡を舞台に設定したので情景描写がしやすいな~くらいの軽い気持ちだったので、うろ覚えの知識や記憶で書いてしまった場面がいくつもあります。
アニメ化のお話もいただきシリーズが大きくなるにつれて、そういうわけにはいかなくなったので、話の都合上で登場するお店や場所がある場合、時間や天候をずらして何度も足を運ぶようになりました。
──改めてとなり恐縮ですが、『レプリカだって、恋をする。』がどういった作品なのか、榛名丼先生からご紹介をお願いできますでしょうか。

本作は、愛川素直という女の子のレプリカとして生まれてきた「ナオ」が主人公、というちょっと不思議なお話です。
素直の体調が悪い日、気分が乗らない日、定期テストの日なんかに呼びだされて、代わりに学校に行くナオは、不自由さの中にも小さな楽しみや喜びを見出して生きています。そんなナオがとある少年に恋をしたことで、素直との関係も変化していき……というお話です。
──『レプリカだって、恋をする。』は第4巻で一区切りとなりました。第4巻にてナオが出した答えについては、第1巻を執筆されていた頃から想定されていたのでしょうか?
まったく想定していませんでした。
というのも、1巻完結のつもりで応募原稿を書いていたのと、応募の段階だとわたしはこのお話を「救いのない灰色の小説」と呼んでいたくらいだったんです。
続刊のお話をいただいたときは、このテーマでシリーズ化は挑戦的すぎる、正直厳しい! と思いましたが、担当さんの「最高のハッピーエンドに辿り着くナオが見たい」とのお言葉を受けて、どうやったらそこに辿り着けるだろうと考えながら少しずつ組み立てていきました。
──第5巻は、素直視点で描かれる新たなお話になっています。そんな第5巻で榛名丼先生が特に注目してほしいポイントはどこですか?
レプリカだって恋をする、ということは素直も……というところが、見所のひとつかなと思います。
本作のテーマのひとつが「生きるってなんだろう」「私ってなんだろう」というものです。思春期の悩みだと笑うのは簡単ですが、これって誰もが一度は抱いたことのある疑問であり、葛藤であって、それはレプリカでも人間でも変わらないと思うんです。
素直の悩みは、きっと他の誰かにとっては取るに足らないようなものですが、彼女にとっては世界を揺るがすほど大きな悩みです。今までナオを頼って自室に引きこもっていた素直が少しずつ変わっていくのを、ぜひご自身や大切な誰かに重ねながら見守っていただきたいです。
もともと念頭にあったのが『とらドラ!』シリーズだったんです
──『義妹5人いる』は『レプリカだって、恋をする。』から打って変わって、男性主人公の同居ものとなりました。本企画の着想はどのように生まれたのかお聞きしたいです。

わたしは複数ヒロインもののライトノベルが大好きだったので、電撃大賞授賞式のタイミングくらいで「やりたいです!」というお話はしていた記憶があります。
なかなか企画を考えても通らなかったんですが、もともと念頭にあったのが竹宮ゆゆこ先生の『とらドラ!』シリーズだったんですね。恋愛だけじゃなく友達や家族とのドラマを盛り込んでいて、世代や性別を問わず読んでもらえる青春小説って最高に魅力的だなと思います。そこから、恋愛とヒューマンドラマを両立できる同居もので企画を書いてみることにしました。
おもしろそうじゃん、と編集長や担当さんから言ってもらえたときは手応えを感じました。
──前作とは全く別ジャンルのラブコメとなっている印象を受けましたが、執筆の上で意識したり苦労されたりしたことはありますか?
最初に「レプリコ」ファンの方も取っつきやすい文章にしてほしい、という注文を受けていたので、そこはかなり悩みました。主人公である陸都の語りが定まらず、全文を三人称に直したりもしましたが、最終的には思いきって一人称にしました。
あとは「令和ラノベのノリで書いてほしい」という指摘は何度も受けていたので、「令和ラノベとはいったい……?」と袋小路に入ったりもしましたが、いい塩梅で懐かしさと新しさが同時に感じられる作品になったかなと思っています。
──『義妹5人いる』はタイトル通り、同居している5人の可愛い義妹たちがヒロインとして描かれます。この5人の義妹たちはどのような順番で設定を決めていったのでしょうか?
まず「男嫌いの長女」という着想からスタートしました。
義妹って、何人いたら読者さんがびっくりするかな? と考えたときに、5人という数字はインパクトがあってバランスもいいなと思いました。
そして作者としては、読者さんにヒロインたちの名前を覚えてもらい、好きになってほしいという気持ちがあるので、5人の名前を五大元素の地水火風空に当てはめました。性格については、それぞれの要素から連想しています。たとえば長女の地夏は、生命力や母性が強いけど、頑固で融通が利かない子……という感じです。
姉妹以外の登場人物に関しても、それぞれ繋がりがあるように名字や名前を決めています。そこもご注目いただけたらおもしろいかもしれません。
──ズバリ榛名丼先生がヒロインの中で特に気に入っているのは誰ですか?
むにんしきさん(『義妹5人いる』イラスト担当)のキャラクターデザインがすばらしいのもあり、みんな同じくらいお気に入りです。
その中でも、担当さんのアドバイスのおかげでさらにかわいくなったなと感じるのは四女の風香です。ぜひ彼女と主人公の陸都が二人きりで話す場面にはご注目いただきたいです。
──ちなみに、『義妹5人いる』では『レプリカだって、恋をする。』に引き続き静岡市が舞台となりました。やはり榛名丼先生が住まわれているからこそ、作品の内容やアイディアなどが浮かぶことがあるのでしょうか? また、静岡の中でも草薙地域をメインの舞台とした理由があればお教え下さい。
わたしは清水生まれの用宗育ちでして、「レプリコ」は用宗のお話だから、「ギマイル」は清水寄りで書きたいな……という思いがありました。
静鉄電車に揺られて登校する主人公の姿がぱっと頭に浮かんだので、立地の関係で静鉄沿線である清水区草薙を舞台に決めました。
「レプリコ」もそうなんですが、主人公たちの実在感は常に大事にしていて、作者の都合ではなく彼らの気持ちを確かめながらいつも行き先を決めています。「こういう状況のとき、ここに住んでいる高校生ならどこに行くだろう?」と歩きながら想像を膨らませられるので、舞台に助けられているところは大きいです。
──そんな新作、『義妹5人いる』のなかで特に注目してほしいポイント・内容をお教えください。
やはり個性豊かな5人の義妹たちでしょうか。
姉妹といっても、それぞれ別の人間なわけです。作中のとある義妹の言葉を借りると、「姉妹だからって、一枚岩じゃないってだけ」……ということで、読者の皆様も主人公の陸都と一緒に、様々な考えや思惑があって行動する彼女たちに翻弄されてほしいです。その中で推しを見つけてもらえたら最高ですね。もちろん、陸都や他の登場人物にもご注目ください。
──最後に、ファンの皆さんやこれから二作品を読もうと思っている方へのメッセージをお願いします!
いつも応援ありがとうございます。
一見すると毛色がまったく違うのですが、両作品とも人間関係や心理描写に重きを置いています。新作の『義妹5人いる』は、ハーレムラブコメかと思いきや……な感情のぶつかり合いや青春模様が楽しめる作品になっております。
二つの物語を、隅々まで楽しんでいただけたら幸いです。
──ありがとうございました!
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